第333話
「何故だ?」
「さあ?」
「さあって・・・。他に細かい事は本当に書いて無いのか?」
「ないっ」
「・・・そうかぁ」
どんなに信じられなくても、俺に読み取る術の無い以上ディアの発言を信じるしか無い。
ただ、そうなると狐の獣人の王が何故そんな事を言って来たかだ。
「う〜ん・・・」
「察するに」
「グラン様?」
「ああ。ノイスデーテが魔法の継承を急ぐのは、一つは賊に操られている者に魔法を奪わせない為だろう」
「なるほど・・・?」
「そういえば言って無かったな。神より与えられし魔法は、1人に継承すれば其の者が死す迄、次の者には継承出来ないのだ」
「あぁ、そういう事ですか・・・。じゃあ・・・、っ⁈」
「そういう事だな」
グランが告げた事実は、やはり狐の獣人達がディアを捨て石にしか見ていないと証明するものだった。
(つまり一度ディアに継承しておいて、エルマーナを取り戻したらディアを・・・)
俺は其れを理解し、余計にディアを狐の獣人の本国に向かわせる事が出来ないと感じた。
「じゃあ、断っておいていいな」
「そうね、私から陛下へ書状の準備をするわ」
「・・・」
「いいな、ディア?」
「ディアちゃん?」
「・・・」
俺とリールからの呼び掛けにも、無言で何やら考え込む様子のディア。
其処には日頃の幼児形態に相応しい、子供らしい表情は無かった。
「いくっ」
「え?行くってお前⁈」
「いい。いく」
「お、おいっ」
直前のディアの様子には違和感が有ったが、やはりというかディアは信じられない答えを告げて来た。
「ディア。お前だって分かっているだろ?」
「・・・」
「連中は・・・」
「いいっ」
「良いって、そんな・・・」
「いつもどおり」
「・・・っ」
ディアの発した言葉は、此の姿で言われると余計に痛々しさを感じるもので、俺は言葉を続けられなかった。
「ディアちゃん?」
「なに、まま?」
「どうして?郷に帰りたいの?」
「・・・ううん」
「じゃあ・・・」
「でも、ちがうから」
「違うって?」
リールの此の口調はいつ以来だろうか?
(確かローズを助ける為に無断でダンジョンに向かった時だったか)
あの時のリールは怒りを感じる静けさを纏っていたが、今は何処か寂しげな静寂を感じさせた。
(リールは本当にディアの事を可愛がってくれてるからなぁ・・・)
「ひじゅつのしゅうとくはね?ままのひがんだから」
「ママって・・・、ディア?」
「ずっとずっと、あったことないままがめざしてたって・・・」
「・・・」
「だから、もしかしたら・・・」
「・・・そうか」
もしかしたら会った事の無い母親に会えるかもしれない・・・、ディアはそう続けたかったのだろう。
(ディアの両親は物心つく頃には既に居なかったらしいから、余計に思いだけが募っているのかもな)
ただ、その気持ちは理解出来ても、確実に命の危機が有る状況にディアを飛び込ませる訳にはいかなかった。
「分かった、セーリオとは交渉を続けてみよう」
「司っ、でも・・・」
「悪いな、ローズ」
「・・・分かったわ」
「いいの、ちゅかさ?」
「あぁ。でも条件が有る」
「じょーけん?」
「そうだ。俺も同行させて貰う」
「え?ちゅかさ?」
俺の言葉にクリッとした瞳で俺を上目遣いで見て来たディア。
「当然だろ?」
「・・・っ」
2人の視線がぶつかったのは刹那の間で、ディアはすぐにそっぽを向いて・・・。
「あっそ‼︎」
短く応えたのだった。
その後、国王やセーリオと話し合いを行い、ディアの狐の獣人の本国への旅は、年明けの行事を終えてからという事になったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます