第330話


「どうだ?」

「・・・」


 セーリオとの面会後、国王にディアとセーリオの面会の許可を得て、俺はディアへと話を持ってリアタフテ家執務室に来ていた。


「会ってあげたら良いじゃない?」

「ローズ・・・」

「やだっ」

「ふぅ〜・・・」


 執務室に集まっているのは俺とディア、ローズの3人だったが、ディアの反応は想像通りと言って良いものだった。

 ローズが優しく諭す様にディアに語り掛けたが、ディアの返事は芳しものでは無かった。


「陛下は何て仰ってたの?」

「あぁ、ディアの意思を尊重するってさ」

「そう・・・」

「とうぜんっ」

「・・・」


 そっぽ向くディアに俺は掛けるべき言葉が思い浮かば無かった。


「2人っきりで会えって訳じゃ、無いのでしょう?」

「勿論。俺も監視役も居るし、事務的な話しかしないと思うぞ?」

「なら、尚更会うだけ会えば良いのよ」

「ふんっ」

「私も行ってあげるわ。言いたい事も有るのだし」

「・・・っ」

「ローズ・・・」


 ローズも俺からディアの過去については聞いているので、今更セーリオがディアに面会を求めている事には不満を感じている様子だった。


「やだっ、もういいもんっ」

「・・・そう」

「はぁ〜・・・」

「なんでちゅかさがおちこむの?」

「え?まぁ、落ち込んでる訳じゃ無いんだけどな」

「良いのよ司。ディアが会いたく無いなら、私が陛下に今回の件の取り消しはお願いするわ」

「ん?うん・・・」


 ローズは俺が、一度国王から得た許可を断る事に面倒を感じていると思った様だが、理由は其れだけでは無かった。


「どうしても無理か?」

「ううう〜」

「どうしたの、司?」

「あぁ。セーリオが何をディアに申し入れたいのかは分からないが、少なくとも狐の獣人は颯と凪を攫った連中と敵対関係でいるからな」

「・・・ええ」

「セーリオが連中について持っている情報が有れば、手に入れたいんだ」

「司・・・」


 狐の獣人の数は分からないが、連中はミラーシ以外にも郷を持っているのは間違い無い。


(飛龍の巣の一件から見ても、賊達が広範囲に渡って活動しているのは間違いない)


 現在確認出来ているだけでも、リアタフテ領で俺の子供達を攫い、ミラーシを壊滅させエルマーナ達を操り、ディシプルを奪い王を連れ去り、ランコントルの飛龍の巣で飛龍達を狂わせているのだ。


「奴等の目的が分からず、助ける事が出来たとはいえ子供達が攫われた以上は、連中についてのアンテナは常に立てておくべきだ」

「・・・」

「俺達が情報を得る事が出来るのは、現状国内とディシプルから位だからな」

「そうね・・・」


 勿論、俺が今迄関わりを持った中で、ナウタやマランなどの、別の大陸の情報も得る事の出来る者達には情報提供を依頼しているが、現状は何も新情報が無かった。


(賊の根城を発見する事が出来れば、リヴァルに術を掛けた術者を仕留め救う事も可能だしな)


 フォールへの恩は勿論、現状グロームに敵わない以上、リヴァルの持つ神龍の情報は気になっていた。


(まぁ、リヴァルが知るのがグロームって事も有るだろうが・・・)


「なんのようかきいてきて」

「ディア?」

「せーりおにちゅかさがきいてきて」

「・・・用件次第では?」

「わかんないっ」

「そうかぁ・・・」


 それであの寡黙な男が俺に用件を教える可能性は低いと思うが・・・。


(まぁ、ディアの気持ちも有るし、ここ迄譲歩を引き出せたのだから上々と言えるかぁ)


「分かったよ、一度其れで話を持って行くよ」

「・・・ふんっ」

「・・・」


 全然納得してないといった様子のディアに、俺は機嫌を損ねない様に無言のままで話を終わらせたのだった。


 後日、再び真田家の隠れ家でセーリオと対面した俺。


「・・・」

「そういった訳で、セーリオさんの用件を教えて貰えますか?」

「・・・」


 相変わらず此方の投げ掛ける発言に、なかなか反応を示さないセーリオ。

 だが、今回は俺も発言を途切れさせない様に、矢継ぎ早に語り掛けた。


「え〜とですね、ディアに会いたいのならば話をして貰えないと・・・」

「・・・」

「セーリオ」

「・・・ディア様だ」

「え?」


 前回と同じ様にシエンヌの発言には即反応するセーリオ。

 ただ、その発言はイマイチ意図の分からないものだった。


「先日もそうだが、人族の様な下劣な存在がディア様から敬称を省くなど許される事では無い」

「・・・」

「下劣とは随分な言い様じゃないかい?」

「・・・さてな」

「・・・」


(言いたい様に言ってくれるなぁ・・・)


 目の前の男がミラーシでディアにどう接していたかは知らないが、ディアの過去や最終的に見捨てられた事を考えると、此の男に俺のディア対する接し方をどうこう言われる必要を感じなかった。


(はぁ〜・・・、ふぅ〜・・・)


 正直なところ苛立ちは有ったが、此処で俺と此の男が揉める訳にもいかない。

 そう思い冷静さを保つ為、心の中で深呼吸をし話に戻った。


「そうですか、失礼しました。彼女も屋敷での生活は楽しんでくれている様なのでつい・・・」

「・・・」

「ただ此れは彼女からの希望ですので、応えて頂けると思いますが?」

「・・・」

「どうでしょう?ディア様からの依頼を受け、私は此処に来ているのですが?」

「・・・下劣な人族ごときが」

「・・・」

「はあ〜・・・、何方も何方だねえ」


 俺とセーリオのやり取りに、呆れた様に溜息を吐いたシエンヌ。

 ただ、俺のディアに対する態度は、セーリオ自身の発言なのだから、ディアへの用件は答えて貰える筈だと思った。


「お聞かせ願えますね?」

「・・・」

「無理ならその旨を、私からディア様に報告させて頂きます」

「・・・本国からの呼び出しが有った」

「え?本国・・・?」

「そうだ」

「え〜と?」

「ふぅ〜・・・」

「・・・」


 セーリオからの虚を突かれる様な意外な発言に、俺が無言になってしまうと、セーリオは面倒くさそうに肩を竦め溜息を吐いたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る