第316話
「司・・・」
「えぇ、敵意は無い様ですけど」
俺達が召喚者の国の岸と思われる所に船を停めると、島の奥から複数の存在が身を潜めながら此方へ向かって来た。
「どうする?」
「問題無いでしょう。此方にも敵意は無いですし、相手にも伝わっていると思います」
「ふっ、そうだな」
俺の返答に嬉しそうに応じたブラート。
身を潜めている相手は、其の気配の消し方を見てもかなりの腕と想像出来たので、俺達が敵意を示さなければいきなり襲い掛かる可能性は低いと思われた。
(まぁ、相手が刹那の間で襲って来る可能性も有るから、油断をするつもりも無いんだが・・・)
「・・・っ、ブラートさん⁈」
「ふっ、安心しろ」
「でも・・・」
「相手もその方が分かりやすいだろう?」
「はぁ・・・」
ブラートはアイテムポーチから愛用の弓を取り出し、弦の調子を確認し、再びしまった。
(まぁ、掛かれば武器を出す、其れをしないなら此方も武器を使わないとは伝わるかもしれないけど・・・)
「司様」
「ルーナは待っていてくれ」
「嫌ですっ」
「ルーナ・・・」
「ルーナも行きます」
「・・・ふぅ〜、分かったよ」
「勿論、私も同行します」
「アナスタシア・・・、分かったよ」
こうして俺達4人は船から降りたのだった。
「う〜ん・・・」
「中々反応が無いな」
「えぇ」
「彼等はどういうつもりなのでしょうか?」
「そう苛立つ事も無いだろう?」
「貴方に言われたくありませんっ」
「ふっ」
「・・・っ」
(この2人はぁ・・・)
一定の距離を保ちながら俺達に付いて来る存在に、アナスタシアは若干苛立ちを感じているらしく、その事をブラートにつっこまれ、より苛立ちを増していた。
(ブラートも分かっているのだから、やめてやれば良いのに・・・)
アナスタシアの気の短さも中々のものだが、ブラートの揶揄う態度もどうかと思った。
(まぁ、そんな事でもしないと間が持たない程、何も起こらないのだが・・・)
「大体貴方は・・・、っ⁈」
ブラートの態度にアナスタシアは不満を続け様とした、・・・次の瞬間。
「どうした、アナスタシア?」
「いえ、少し・・・、くんくん・・・」
「ええ・・・?」
突如として鼻を激しく動かし始めたアナスタシア。
俺はアナスタシアの様な美貌の持ち主のコミカルな動きに、若干引いてしまった。
「司、犬の獣人は嗅覚が優れているんだ」
「あ、あぁ、なるほど・・・」
「少し、静かにしていなさいっ」
「す、すまん・・・」
「あ、いえ、司様は良いのです」
「ふっ、まあ熊の獣人の方が優れているがな」
「・・・っ。ふぅ〜・・・。・・・」
ブラートからの挑発めいた発言に、アナスタシアは深呼吸をし、逆に落ち着きを取り戻した様子で鼻を利かせ始めた。
「・・・料理の匂いです。火を使って芋でも焼いている様ですね」
「距離は?」
「近いです。1キロ程でしょうか」
「そうか・・・」
風にでも運ばれて来たのだろう。
煙は見えなかったが、アナスタシアには匂いが感じられた様だった。
「司」
「え・・・、っ⁈」
「待ってくれ、我々に敵意は無い」
ブラートから掛かった声に顔を向けると、視線の先に複数の人族と思われる男達が見えた。
「・・・貴方達は?」
「我々は、『アウレアイッラ』の者だ」
「アウレアイッラ?」
「うむ。君も我が国を目指して来たのでは無いか?」
「・・・」
アウレアイッラとは召喚者の国の名なのだろう。
俺達の前に現れた集団の先頭に立つ男は、どうやら俺が其処を目指して来たと確信しているらしい。
何故、男がそう確信出来ているかというと・・・。
「君の其の黒髪の黒い瞳は日本人の其れだろう?」
「では、貴方も・・・?」
「ああ、ゲンサイという」
「ゲンサイさん?」
俺と同じ様に黒髪に黒い瞳ながら、鍛えられた体躯と、精悍な顔つきは対照的だった。
(ただ、ゲンサイとは中々古めかしい名だなぁ・・・)
「私は司と言います」
「司殿か、名の感じだと、我が祖先とは別の時代から来た様だな」
「その様ですね」
「だが、嬉しいな。是非とも現在の日本の様子を教えて欲しい」
「えぇ」
ゲンサイは中々好意的に俺達を受け入れてくれた。
(良かった・・・。アナスタシアやブラートも居るから受け入れてくれないかと思ったが・・・)
ルーナはともかく、ダークエルフと獣人の2人の入国は拒否されるかと思ったので、俺は胸を撫で下ろした。
まぁ、2人をハーフだと思っている可能性も有るのだが・・・。
「それで、司はどうやって此処に?」
「船です。導きの石を使って」
「ほお・・・。何処で手に入れたのだ?」
「え〜と、人から貰いました」
「そうか」
導きの石の入手先については、追求して来ないゲンサイ。
(隠れているわりには、意外な態度だなぁ・・・)
俺はゲンサイの態度に、一度緩めた緊張感を若干増した。
「ああ、そういう訳では無い」
「え⁈」
「多分、此処を秘匿された国だと思っているらしいが、我々は旅先で仲間と認めた者達には導きの石を送るのだ」
「・・・っ」
「ふっ、相手が一枚上手だな、司?」
「・・・はぁ」
ゲンサイは俺の緊張感が増した事に、其の理由を読み答えを示して来たのだった。
(でも、賊に奪われる可能性も有るのでは・・・)
そう考えた俺にゲンサイは、導きの石は此の国に敵意を持つ者には路を示さないマジックアイテムだと伝えて来た。
(・・・此の国って、かなりの技術を持っているんじゃないか?)
妖刀白夜を打った事から高い技術力は想像出来たが、導きの石の使用条件の細かさに、此の国の持つ底知れない技術力を感じた。
「ついて来てくれ、国には他にも日本に起源を持つ者が居るんだ」
「えぇ」
まだ安心は出来なかったが、ついて行く他無い為、俺達はゲンサイ達の後に続いた。
(他の人達は人族らしいが、外国からの召喚者って事かな?)
ゲンサイ以外の男達の多種多様な容姿に、そんな疑問が湧いて来た俺だったが、どうやら当たっていたらしく、ゲンサイは未だ地球以外からの召喚者に会った事は無いとの事だった。
「最近は新しい召喚者の入国者も減っているから、本当に司殿が来てくれて嬉しいのだ」
「そうなのですか?」
「ああ。最後はどの時代からだったかな・・・?」
思い起こす様に空を向き、視線を泳がせたゲンサイ。
「そういえば、司殿は何故、此処へ?」
「あ、はい。実は神りゅ・・・」
俺がゲンサイの問いに旅の目的を告げ様とした・・・、刹那。
「・・・っ⁈」
突如として視界がホワイトアウトし、身体が軽くなるのを感じた。
(天にも昇るって此の事だなぁ・・・)
俺は突然の状況にも、妙に落ち着いた感想を抱いていた。
「「「・・・」」」
身体は軽いのに、何者かが自身を呼ぶ声は全く耳に届かない。
(はは、歳かなぁ・・・)
俺は身体こそ何故か十代に若返っているとはいえ、実際は既に40を過ぎているのだった。
妙な落ち着きでそんな事を考える俺。
ただ、此の身体の状態には此方の世界に来て以降、若干の覚えが有った。
(あぁ、意外と楽な感覚なんだなぁ・・・)
そんな事を思いながら、俺は其の生を終えて行くのだった。
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