第311話


「でも、止めておいた方が良いよ?」

「何故だ?」

「今の司じゃ、殺されに行く様なものさ」


 殺されに行く、そんな事を言うアポーストルだったが・・・。


(何で此奴にそんな事を言われなきゃいけないんだっ)


「そん・・・」

「分かるよ」

「・・・っ」

「だってディシプルの海岸で僕の電撃を喰らったでしょ?」

「・・・それが?」


 俺は当時の激しい苦しみを思い出したが、努めて冷静に問い返した。


「グロームの放つ電撃の威力はアレの比じゃないし、何より本当に光速の其れだしね」

「・・・」

「ふふ、此れは本当だよ?」

「此れは・・・、な」

「ふふふ、突っかかるね」

「・・・さてな」


(どうだろう?此奴が龍神結界・遠呂智の件を知っいて、俺に魔法を復活させたく無ければ、此の内容は嘘の可能性も有る)


 ただ、ラプラスも其の強さを認める程だしなぁ・・・。


「どうするのだ、司?」

「梵天丸・・・。勿論、狩るさ」

「そうか」

「へえ〜」

「問題が有るのか?」

「いや、全然」

「・・・そうかいっ」

「ふふふ」


 アポーストルは笑みを浮かべながら、どうでもいい風に答えたのだった。


(此の笑顔がまた怪しいんだが・・・)


「そういえば、召喚者達の国は何処に有るんだ?」

「ああ、そうだったね」


 ラプラスに聞けば分かるかも知れないが、一応此奴にも確認しておく事にした。


「『スキターニエ海域』」

「スキターニエ海域?其処は?」

「船乗りなら誰でも知っていると思うよ?」

「そうか・・・」


(まぁ、其れはナウタに聞けば良いか)


 どちらにせよ海域という事は船でしか行けないだろうし、ナウタに依頼をする必要があった。


「導きの石の使い方は?」

「海域に入って船上で持っていれば、行く先を照らしてくれるよ」

「少しでもズレたら辿り着けないのか?」

「いや、それは無いよ」

「じゃあ・・・」

「導きの石を持っている事が、結界を解く鍵になるんだ。だから其処迄正確に光に従わなくても大丈夫だよ」

「そうか」


 潮の流れもあるだろうし、そもそも導きの石は召喚者達が国に帰る為に作ったらしいし、此れは信じても大丈夫だろうな。


(ただ、アッテンテーターの件も有るから旅に出る許可は下りないかもなぁ・・・)


「まあ、困ったら此処に来ると良いよ。僕も暫く此処に居るつもりだし」

「さてな・・・」

「ふふ、つれないなあ」

「今回はどの位居るつもりだい?」

「さあ?ただ少しゆっくりするつもりだよ」

「そうかい」


 どうやらアポーストルは暫く此処で過ごすつもりらしい・・・。


「・・・あ⁈」

「どうしたんだい、司?」


 俺はフェルトと初めて此処に来た時にジェアンから聞いた話を思い出した。


「前に言ってた此処に再訪する物好きな人族って」

「そうだよ、アポーストルの事さ」

「ふふふ、口が悪いなあ」


 笑顔でジェアンを非難するアポーストル。

 ただ本人にも変わり者の自覚は有るらしく、その口調は気にした風ではなかった。


「そういえば、お前人族なんだな?」

「ふふ、どう見てもそうじゃない?」

「・・・どうかな?」

「ふふ、どう見えるのかなあ?」


 アポーストルは確かに一見すると人族にしか見えないが、俺はそもそも此方の世界の種族を全て把握している訳では無いので、目の前のアポーストルの容姿が人族にしか見られない容姿とは言い切れ無いのだった。


「俺は此の世界の生まれでは無いからなぁ」

「なるほど。でも僕は正真正銘の人族さ」

「・・・」

「嘘じゃ無いよ?」

「別に、嘘でも構わない」

「ふふ、それもそうか」


 とりあえず、魔石を手に入れる事は出来なかったが、神龍についての収穫はあって良かった。

 俺はそう思い終末の大峡谷を後にするのだった。

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