第301話
「があぁぁぁーーー‼︎」
「う〜ん・・・」
「う〜む・・・」
此処は王都の監獄、俺はグリモワールと共にディシプル王の捕らえられた牢獄の前に来ていた。
(やはり、時間で魔法の効果が切れる事は無いみたいだな)
ディシプル王は腕と足を自由にしておくと暴れて大変な為、両腕と両足に枷が付けられていた。
「があぁぁぁーーー・・・」
「唸ってますねぇ・・・」
「うむ、そうじゃのお」
腹から響かせる低い唸り声。
ディシプル王は意味の有る言葉を喋る事は無く、誰かに向けてでは無く、虚空に向かい唸り声を放っていた。
「食事も摂らん様でな」
「そうなのですか?」
「うむ。其れで健康状態を気にして、儂の所に依頼が来てな」
「どうするのですか?」
「とりあえず、お主の魔法で気を失わせてくれ」
「え?でも・・・」
正直、眼前のディシプル王の様子を見ると、彼に森羅慟哭を使う事は躊躇われた。
「人助けじゃと思って、頼むぞ?」
「・・・はぁ」
確かにこのまま、食事を摂ら無いなら、せめて点滴などで栄養の摂取をさせる必要が有るだろう。
「あ、あ、あ・・・」
「・・・」
「・・・」
「終わりましたよ」
「うむ、ご苦労じゃったな」
気乗りはしなかったが、俺は衛兵が牢獄の扉を開けたので、中に入りディシプル王へと森羅慟哭を使用したのだった。
俺はその後一応グリモワールの作業が終わる迄、護衛の真似事をしたのだった。
「ふぅ〜・・・」
俺はグリモワールと別れた後、喫茶店でエスプレッソの香りで心を落ち着けていた。
(流石に抵抗出来ない人間に、あの魔法を使うのはキツかったからなぁ・・・)
「あれ?司君?」
「えっ?・・・デュック様」
背後から掛けられた声、振り返ると其処にはデュックが立っていた。
「はは、よく会うね」
「そうですね」
俺とデュックは会った回数はそう多くは無い。
それなら、何故デュックがそんな事を言ったかというと・・・。
「でも、気に入ってくれたみたいで良かったよ」
「はい。王都に来ると気が付いたら此処に来ています」
此の喫茶店は初めて国王から任務を受けた時、其の任務にフレーシュの同行を希望したデュックに連れて来て貰い、以前も偶然に此処でデュックと再会した場所だった。
「はは、マスターの腕は絶品だからね。マスター、私にもエスプレッソを」
「はい、承知しました」
デュックの賛辞にも、軽く会釈しただけで応えたマスター。
マスターが豆を入れた容器を開けると、スモーキーな香りが鼻孔をくすぐり、俺は心地良さを感じた。
「そういえば、今回も大活躍だったらしいね?」
「え?」
「ランコントルの件さ」
「あ、はぁ・・・」
「はは、司君には物足りない任務だったかな?」
「い、いえ」
俺がハッキリしない態度をとったのは、未だディシプル王の件が片付いていないからだったのだが、デュックは勘違いした様だった。
「でも、もうデュック様に話が行ったのですね」
「うん。私にランコントルとの交渉の任務が来てね」
「交渉ですか?」
「・・・」
「デュック様?」
俺が任務を終えた時は、ランコントル王は納得した様子だったのに、もしかしてその後不満を言い出したのかと思いデュックに聞き返すと、デュックは考え込む様に黙ってしまった。
「あ、ああ・・・。決してランコントルからの不満とかでは無いんだよ」
「そうですか。良かったです」
「うん。彼の国は今回の件、本当に感謝しているしね」
「では?」
「ああ。司君?」
「は、はい」
「此の事はまだ内密にね?」
「・・・分かりました」
デュックは其の穏やかな双眸に、少し真剣な輝きを見せ、俺を見つめて来たので、俺も表情を引き締め、姿勢を正し応えた。
「実はランコントルとの交渉はアッテンテーター帝国の件なんだ」
「アッテンテーターですか?」
「ああ。司君は我がサンクテュエールとアッテンテーターが現在休戦中なのは知っているかな?」
「何となくですが、聞いた事は有ります」
「実は、戦争再開の動きが有るんだ」
「・・・え?」
デュックから告げられたのは、かなり唐突な話だった。
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