第297話
「此奴は・・・」
「ブラートさん?」
「司、此奴は捕まえる事にしよう」
「えっ?」
「ふふふ」
突如として現れた双剣の男。
ブラートは何やら見覚えの有る様で、此の男を捕まえる様、俺へと言って来た。
「何故ですか?」
「すまん。話を聞いてお前が動揺しては困る」
「・・・」
「其れに・・・」
「其れに?」
「相手は待ってくれそうに無いぞ?」
「・・・っ‼︎」
ブラートの言葉に双剣の男へと視線を移すと、男のズボンの太腿の部分が、力強く張るのが見えた。
(仕方ない、とりあえず此処は言う通りにするか・・・)
俺は双剣の男を見据え、自身の背に漆黒の双剣を浮かせ、手にした得物の刃に漆黒の闇を纏わせた。
「此れで一本有利だが、来るか?」
「・・・」
「やはり、応えてくれないか?」
俺は意味の無い事と分かりつつも、双剣の男へと投降の意思を確認したが、男は悠然と其れを流したのだった。
「ふふふ、無駄ですよ」
「そうかい」
「ええ。其の方の意識は私の仲間が奪っています」
「回復する手段は?」
「術者を倒せば、術は解けますよ」
「・・・⁈」
俺は答える筈が無いと高を括っていた内容に、マントの男が答えた事に、正直驚いてしまった。
「ふふふ、ですが其の方は此処には居ませんよ」
「なるほどな」
「残念でしたね?」
「居場所は?」
「其処迄は流石に・・・」
「まぁ、良いさ。とりあえず捕まえさせて貰おう」
「ふふふ、ご自由に?」
其れが出来ないと思っているのか、男は癇に触る口調で応えて来た。
「行くぞっ‼︎」
双剣の男の頭上を取り、漆黒の剣の連撃を振り下ろす。
「・・・」
難無く其れを受け止めた男の、ガラ空きの脳天へと・・・。
「はぁっ‼︎」
手にした剣で高音の風切り音を立てながら、高速の斬撃を振り下ろす。
「・・・」
貰った・・・、そう思ったが・・・。
「・・・っ‼︎」
手首に鈍い痛みが走り、振り下ろそうとした腕が宙で止まってしまった。
(足で・・・)
双剣の男は、両手に手にした剣で闇の剣を受けながら、剣を振り下ろそうとした俺の腕を、開脚蹴りで迎撃していたのだった。
「司っ」
「・・・っ」
自身に掛かった声に視線を向けると、ブラートが矢を番え狙いを定めていた。
「衣ッ‼︎」
俺は空いていた左腕で闇の衣を放ち、男を拘束し、ブラートの射撃のフォローをしようとしたが・・・。
「・・・」
「・・・っ」
男は俺の腕を抑えていた蹴りの力を緩め、俺の態勢を崩し・・・。
「・・・ぐおぉぉぉ‼︎」
そのまま、開脚していた足で、俺の背を足蹴にし、其の反動を利用し自身の身体は宙を舞い、そして俺の身体を大地へと叩きつけたのだった。
「司っ」
「すいませんっ」
「無事ならいい、立て直せっ」
「はい‼︎」
ブラートは交差する俺と双剣の男の体に、矢で男を正確に射抜く事を中断し、俺が態勢を立て直す為の牽制の射撃を放った。
「くっ・・・、そ」
「・・・」
男は牽制の射撃を軽く往なしながら、自身の態勢を整えたのだった。
「・・・なら」
俺は漆黒の翼に魔力を注ぎ、男の手の届かない所迄高度を上げ・・・。
「縫ッ‼︎」
無数の漆黒の針を乱雑に撃ち下ろした。
「・・・」
大地を埋め尽くす程放たれた針を、器用に躱しきった双剣の男。
「す・・・」
「・・・」
先程の開脚蹴りといい、見た目の年齢を感じさせない動きに、俺は敵ながら感嘆の声を上げそうになってしまった。
(どうする?流石にこれ程の腕の男を捕まえるのは至難の業だなぁ)
「司っ、気を付けろ‼︎」
「・・・え⁈」
考え込んでしまった、一瞬の間だった。
ただ、其の隙を突かれたらしく、ブラートから掛かった珍しい怒声に地上に視線を向けると、男が双剣を俺に向け構えて・・・。
「・・・」
「大楯ッ‼︎」
俺と男の間にはかなりの距離が有ったが、男から放たれる言い様の無い威圧感に、俺は漆黒の楯を男との間に置き防御を固めたが・・・。
「・・・」
「な、な⁈」
男が双剣で連斬撃を放つと、衝撃波の双連刃が俺へと襲い掛かって来て・・・。
「くっ⁈」
一撃目の衝撃波で漆黒の楯を裂き、二撃目が俺に襲い掛かって来て、俺は間一髪其れを躱したのだった。
「・・・っ」
ギリギリのところで衝撃波を躱す事が出来、俺は頰に冷たいものを感じた。
(血・・・、いや汗か・・・)
俺は頬を斬撃が掠め斬り傷でも付いたかと思ったが、実際は安堵の冷や汗なのだった。
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