第282話


「ただいま」

「「ママ〜」」

「あら、二人共、お外出てたの?」

「「う〜」」

「ふふ、はいはい」


 ローズの帰宅に上機嫌で声を揃える、凪と颯。


「おかえり、ローズ」

「ただいま。ごめんね、司。大変だったでしょ?」

「いや、アンとディアに助けて貰ったから」

「そう。二人共、ありがとう」

「お安い御用にゃ」

「べつに〜・・・」

「はい、お土産」

「「お土産っ」」

「ふふふ、もう」

「・・・」


 初めはローズからのお礼の言葉に、澄まし顔で応えたアンとディアだったが、ローズから土産を差し出されると、此方も声を揃え飛び上がったのだった。


「くんくん・・・。わあ〜、たこやきのにおいだあ〜」

「こういうところが、ご主人様とローズ様の違いにゃ」

「ふふ、アンったら」

「・・・」


(俺も遠出した時は、必ず土産を買って来るぞっ)


 俺は失礼な態度のアンにそんな事を思ったが、流石に今日は助けて貰ったので、それを口にする事はやめておいた。


「さあ、お昼に行きましょう」

「あぁ、そうだな・・・」

「まんま、まんま」

「そうよ、凪。お腹すいた?」

「まんまっ」

「ふふ、はいはい」

「それでは、私は馬車を停めて来ます」

「お願い、アナスタシア」

「お疲れさん、アナスタシア」

「・・・はい」


 此方は・・・、というより、俺の方は見ない様にしながら、馬車を引いて行くアナスタシア。


「・・・」

「さあ、行きましょう、司」

「あ、あぁ・・・」

「今日はどうするの?」

「悪いが、昼を済ませたら」

「・・・そう。夜は?」

「分からない・・・」

「そう、分かったわ」

「ローズ・・・」

「何?」

「本当にすまない・・・」

「良いわ。・・・さあ、行きましょう」

「あぁ・・・」


 ローズは努めて自然に俺と会話をしてくれて、それが余計に自身の情けなさを際立たせたのだった。

 その後、ローズの土産も含めリールとグラン、メールも加えて昼食を済ませ・・・。


「パパ、う〜?」

「・・・あぁ、凪」

「凪、パパはお出掛けなのよ」

「なぎ、うう〜?」

「凪はママとお留守番よ」

「ううう〜」

「ほらっ、来なさい?」


 食事を済ませ俺が席を立つと、凪は俺について来ようとし、ローズに止められたのだった。


「パパ?」

「あぁ、ごめんな、凪」

「うう〜・・・」

「・・・」


 不満げな表情で俺を見上げて来る凪だったが、流石に一緒に連れて行く訳にもいかず、俺は困った表情で応える事しか出来なかった。


「ふぅ〜・・・」


 俺は膨れたお腹を摩りながら、春の陽射しに包まれ、瞼を擦りながら空を行っていた。


「良し、モンターニュ山脈は越えたな」


 俺はディシプルの関所を通過する為、高度を下げていった。


「これは、真田様」

「どうも、ご苦労様です」

「本日は、フォール将軍に?」

「えぇ・・・」

「そうですか、どうぞお通り下さい」

「ありがとうございます」


 関所に居たのは最近顔馴染みになった衛兵で、俺はいつも通り口頭での受け答えだけで、関所を通過させて貰った。

 その後、俺は城に居るフォールに顔を出して、以前フォールが隠れ家に使っていた、海岸の洞窟へと向かった。


「司、来たんだ?」

「あぁ、アルメ。すまないな」

「はは、気にする事無いよ。これが僕の仕事なんだしね」


 洞窟の中は、アルメと数人の衛兵達が警備していたのだった。


「今日は?」

「あぁ、体調次第だな。帰れる様なら帰るけど、無理ならこっちに泊まるよ」

「そう、了解」


 そうして腕に魔力を注ぎながら、魔力の渦へと伸ばしたのだった。


「来たか、司」

「ブラートさん。お久しぶりです」

「ふっ、そうでも無いだろう」

「は、はぁ・・・」


 魔力の道を通った先に居たブラート。

 彼とは1週間振りの再会だった為、俺の言葉に軽くツッコミを入れて来た。


「さあ、奥に行こう」

「は、はいっ」


(そういえば・・・)


「ブラートさん」

「何だ?」

「ありがとうございます」

「・・・ふっ」


 彼は魔力で此の道を通る反応が有り、見に来てくれたのだろう。


(俺が常に居れれば迷惑を掛けないのだが・・・)


 そんな事を思い、ブラートへと礼を述べたのだった。

 洞窟の奥の方は、気温や湿度を調節する制御装置が置かれ、かなり快適な空間になっていた。


「あん?此奴だったのかい?」

「ああ、頭」

「どうも、シエンヌさん」

「ふんっ」

「・・・」

「ふっ」

「ちっ・・・。何だい、ブラート?」

「ふっ、何でも無いさ」


 洞窟の奥へと進んだ先、少し広がった空間が有り、其処には机や椅子など家具が置かれていて、赤髪の女シエンヌが居たのだった。


「・・・まあ、良いさ。アンジュッ」

「は〜い、何、シエンヌ?」

「旦那が来たよっ」

「旦那って・・・、司っ」

「あぁ、アンジュ」

「来てくれたの?」


 シエンヌが声を飛ばした先、其処には炊事場が有るのだが、其処からアンジュは出て来たのだった。


「動いて大丈夫なのか?」

「ふっふっふっ、私を誰だと思ってるの?」

「い、いやぁ、でも・・・」

「アンジュ、アンタさっき転びそうになったろ」

「ええっ⁈」

「も、もうっ、シエンヌッ」

「ふんっ。大人しくしときゃ良いんだよ」

「だ、大丈夫よ」

「あんまり無理しないでくれよ、アンジュ」

「大丈夫だって、心配性ね司」

「・・・でもなぁ」


 いつもの様に得意げな様子のアンジュだったが、俺はエプロンを掛けた腹部の膨らみに不安が募ったのだった。

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