第280話
俺がクロートに剣の修復の依頼をして15日後。
ディシプルから政務官と作業員達が到着したのだった。
「それでは、ブラートさん」
「ああ、俺も直にディシプルへと戻る予定だ」
俺は政務官の到着を確認したので、向こうに帰る事にした。
「そうですか、なら此れを・・・」
「此れは?」
「転移の護符です」
「ほお、此れが・・・」
ブラートは良いのか?と俺に聞いて来たが、今回の件の礼も考えたら、これ位して然るべきだろう。
「ふっ、助かる」
「いえ、それでは、また」
「ああ、達者でな」
「はい。ブラートさんも」
こうして、俺はブラートに別れを告げ、転移の護符に魔力を込めたのだった。
「ふぅ〜・・・」
転移の護符で降り立った先。
其処は薄暗く湿気も多い洞窟の中だった。
「貴様、一度言っておかねばと思っていたが・・・」
「ラプラス、土産だ」
「我は物に釣られる様な・・・、此れはっ」
「あぁ、ドワーフ達から仕入れた酒だ」
「くくく、まあ、良かろう」
「そうかい・・・」
ラプラスから何やら非難の声が飛んで来そうだったが、俺はクズネーツで仕入れていた酒で、それを留めさせる事に成功した。
「それで?ゼムリャーは?」
「あぁ、狩ったぞ」
「くく、そうか」
「・・・」
「ゼムリャーを・・・、な」
「な、って・・・」
「くく、これでやっと貴様も神龍狩りに成功した訳だ」
「やっと?一応スヴュートを狩ってたぞ?」
「くくく、あんな紛い物の様な者は神龍とは呼ばん」
「紛い物?スヴュートがか?」
「そうだ、最弱の存在だからな」
ラプラスから告げられたのは、いまいち納得のいかないものだった。
(確かにゼムリャーはかなりタフだったが、スヴュートの破壊力もかなりのものだったがなぁ・・・)
「くくく、何だ?」
「いやぁ・・・」
「くくく、ゼムリャーは其のタフさなら七神龍随一だからな」
「七神龍?え、神龍って・・・」
「くくく、まあ、聞け」
「あぁ」
「神龍最速なら風の神龍ヴェーチル、最強の破壊力を持つのは火の神龍『アゴーニ』、最強の防御力を誇るのは氷の神龍『リョート』、其の魔力なら水の神龍『ヴァダー』」
「・・・」
「そして、其れら全てを兼ね備え、七神龍最強と言われるのが、雷の神龍『グローム』だ」
「最強のグローム・・・」
「奴とは楽園に居た時に幾度となく闘った」
「お前と何方が・・・?」
「五分だ」
「・・・っ⁈」
ヴェーチルの結界の時の様に、其の態度に似合わない言葉で応えたラプラス。
(此奴と五分って、俺とどうだと聞けば、多分此奴は自身の方が強いと答えるだろうし・・・)
「あれ?そういえば?」
「くくく、何だ?」
「いや、七神龍って言うのはスヴュートを含めて無いのか?」
「違うぞ」
「じゃあ・・・」
「もう一匹居るだろう?」
「あっ・・・、闇の神龍・・・」
「そうだ、闇の神龍『チマー』だ」
「何故だ?何故チマーを除いて?」
「・・・」
「ラプラス?」
「くく、奴は別格だ」
「・・・っ⁈」
「我やグロームですら、足元にも及ばん存在だからな」
「・・・」
「始祖神龍・・・」
「え?」
「奴の二つ名だ。全ての神龍の始祖に当たる存在、其れが闇の神龍チマーなのだ」
「始祖神龍・・・」
「奴と対等といえるのは創造神位だろう」
「神と同格・・・」
「創造神と・・・、な」
「・・・」
此奴が明確に敵わないと言うチマー。
(そんな奴を俺は本当に倒せるんだろうか・・・?)
その後、俺はラプラスから転移の護符を借り、ゼムリャーの魔石を置く為に、終末の大峡谷へと向かった。
「・・・え?」
「・・・」
終末の大峡谷へと着いた俺が、足下の巨大な影に空を見上げると、其処には俺に狩られたスヴュートが漂っていた。
「・・・」
「・・・よ、よぉ」
俺を見据えるスヴュートに、俺は手を挙げ挨拶をしてみた。
「・・・っ⁈」
そうすると、突然スヴュートは空高くへと翔け上がり、口元に光を貯め始めた。
「ちっ‼︎」
素早く漆黒の闇の装衣を纏い、構えた俺だったが・・・。
「ガァァァーーー‼︎」
「・・・な?」
スヴュートは貯め込んだ光を、俺へは撃たず、海に向かい光線として撃ったのだった。
其の極大の光線は、轟音と共に海を裂き、水の峡谷を作り出していた。
「ギャオォォォン‼︎」
「・・・」
どうだと言わんばかりの双眸を俺へと送りながらも、スヴュートは此方からは距離を取ったのだった。
「・・・」
(最弱の神龍かぁ・・・)
かなりの破壊力の光線だったが、先程ラプラスから聞いた話から、俺はスヴュートの態度に小物感を感じてしまったのだった。
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