第279話


「ブラートさんっ」

「・・・司、戻ったか」

「はい。此方はどうですか?」

「うむ・・・、まあ、もう暫く掛かるだろう」

「そうですか」


 ゼムリャー討伐から1週間。

 俺は忙しく飛び回り、やっとクズネーツに戻って来た。


「ん?五月蝿いのはどうした?」

「は、はは、仲間達は皆んな置いて来ました」

「そうか・・・。まあ、それが良いかもな」

「はぁ・・・」


 五月蝿いの・・・。

 ブラートがそう呼んだのはアナスタシアの事だろうが・・・。

 俺はゼムリャー討伐後、先ずは其々の島に残る土龍達を、仲間達と狩って行った。

 土龍達は魔石こそ持たないが、採れる鉱石は何れも上質な物で、かなり旨味のある仕事だった。

 そうして、あらかた土龍を狩り終えた後、今度は転移の護符でリアタフテ領に戻り、その時に仲間達は置いて来たのだった。


(此処からはドワーフ達への設備の提供作業が中心で、仲間達に出番は無いだろうし、俺一人の方が空からの移動など利点が多いからな・・・)


「王は何と?」

「えぇ、此方の事を任せられる土木担当と外交の政務官を、ディシプルから作業員と共に船で送ってくれるとの事です」

「そうか、ドワーフの王も喜ぶだろう」


 国王は俺からのゼムリャー討伐の報告を聞き、ディシプルの時の様にデュックに準備させていた担当を、直ぐにクズネーツへと出発させてくれたのだった。


「えぇ。あっ、それと此れ」

「ん?」

「シエンヌさんから手紙です」

「ああ、助かる」


 ブラートとシエンヌはディシプルで別れて以降、特筆すべき連絡事項がある時は通信石を使っていたらしいが、ディシプル解放の件は知らされて無かったらしく、てっきり俺達はディシプルで船を奪って出航したと思ったらしかった。


(まぁ、ナウタ達を見ればそう感じるかもなぁ・・・)


 俺がそんな失礼な事を考えていると、ブラートは1分とせず手紙を読み終えていた。


「・・・」

「ん?どうかしたか?」

「い、いやぁ・・・」

「ふっ、大丈夫。必要なところは読んでいるさ」

「は、ははは・・・」


 俺の心を読んだらしいブラートは面白そうに笑っていた。


(意外にせっかちなのかな?)


 俺は落ち着いた様子のブラートの、意外な一面を見た気がした。


「おお、戻ったか?」

「クロート様」

「それで、お主らの王は何と?」

「は、はいっ・・・」


(此処にもせっかちさんが一人・・・)


 俺はそんな事を考えながら、クロートに国王からの書簡を渡し、今後の説明をした。


「ふむ・・・、冬には間に合うか?」

「制御装置による暖房は完璧です」

「う〜む、そう言ってものお・・・」


 ゼムリャー討伐後、ドワーフ達の洞穴を確認すると、やはり激しい震動で住居は殆ど潰れており、復旧は困難な状況で、今年の冬は簡易住宅で越す事になった。


「ドワーフは武器以外の魔石使用を殆どしないからな」

「ブラートさん」

「それも、其れらの装置は他種族に任せる事が多いしの」


 どうやらクロートは魔石による暖房の性能が信用出来ないらしく、その厳つい顔の眉間に皺を寄せ、一見すると恐ろしい表情で悩んでいた。


「ふっ、安心しろ王よ」

「ふむ・・・」

「もし、耐えれなければ、冬の間は海を渡れば良いだろう」

「なるほどな」


 ブラートからのフォローにクロートは何とか納得したらしく、その眉間の皺は治っていた。


「クロート様」

「ん?何だ?」

「実はお願いがありまして・・・」

「ん?」


 俺はクロートに仮面の男から、妖刀白夜によって折られた剣を出し、クロートに修復の依頼をした。


「ふむ・・・」

「どうでしょうか?」

「良かろう」

「ありがとうございます」


 クロートはアッサリと了承してくれたのだった。


「だが・・・」

「?」

「此の剣は、誰が打った物だ?」

「え?それは・・・」


 俺はクロートからの問い掛けに対し、答えに窮するのだった。

 此の剣は元々俺が学生の時に手に入れたネックレスで、それも店にシルバーアクセサリーを買いに行くのが恥ずかしくて、ネットで手に入れた何の変哲も無い市販品だった。


「・・・どうかしたのか、王よ?」

「うむ。此の剣は素材こそ劣悪だが、仕事其のものは中々のものだからな」

「そうか・・・」


 素材は劣悪なのかぁ・・・、そこそこ値が張ったんだがなぁ・・・。


「実は、私も人から譲り受けた物でして」

「そうだったか、まあ良いだろう。それで希望は有るか?」

「サイズなどは同じ物で、なるべく軽く仕上げて欲しいのですが」

「ふむ、軽さな・・・、良いだろう」

「後は、白夜と撃ち合え・・・」

「無理だ」

「え⁈」

「其れは、無理な頼みだ」

「・・・」


 俺の頼みを最後迄聞かず、遮ってきたクロート。

 俺は不可能を告げられ、押し黙る事しか出来なかった。


「妖刀白夜はな、儂の祖父がある者達と打った物だ」

「え⁈クロート様の?」

「そうだ」


 衝撃の事実だった。

 以前にフォールから、此の世界の何処かに刀を打つ刀匠がいるとは聞いていたが、まさかドワーフも白夜に関わっていたとは・・・。


「王よ、ある者達とは?」

「うむ、召喚者達だ」

「・・・っ⁈」

「ほお・・・」


 当然といえば当然の事なのかもしれない。

 此の世界に召喚者が複数、然も過去にも居た事は聞いているし、刀の様な特殊な形状の剣は、日本人が関わっているのは当然なのだろう。

 ただ・・・。


「でも、白夜と撃ち合うのが無理な理由は?」

「うむ」


 俺が依頼しようとしたのが、撃ち勝つなら無理と言われても不思議では無いが、撃ち合う事が無理とはどういう事なのだろう。


「勿論、鍛治師の腕の差も有るが、何より素材の差だ」

「素材ですか?」

「うむ、白夜、あれは極上の月光石を使って打った物だ」

「極上の月光石・・・」

「そうだ、あれ程の素材は儂が生まれてから、一度も見た事が無い」

「・・・」

「其れに万に一つ素材が手に入ったとしても、現在、此処には其れを打つ為の道具も、技術を持つ者も居ない」

「・・・」

「勿論、一度撃ち合っただけで再び折れる程、脆弱には仕上げんがな」

「はい・・・」


 俺は其れでも剣は必要だったので、クロートに修復の依頼をするのだった。

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