第278話


「お前もやはり生物なんだなぁ・・・」


 土龍に血縫いの槍が効果を発揮しているのを見て、ある程度確信はしていたのだが・・・。

 ゼムリャーの頭部が崩れ落ちた部位。

 其処から滴る紅の鮮血を見て、俺はそんな事を呟いた。


「・・・さて」


 俺は1つの確信を持ち、船へと視線を落とした。


「ナウタさんっ、早く其処から離れて下さいっ‼︎」

「か、頭?」

「早く‼︎」

「へ、へいっ‼︎」


 俺からの怒号に、ナウタは乗組員達に指示を出し、船は再びゼムリャーから距離を取り始めた。


「・・・っ⁈」


 同時に海面は海底からの震動に激しく揺らぎ、俺は闇の翼に魔力を込め構えた・・・、刹那。


「・・・だよなっ‼︎」


 頭部を失っている為、先程迄の様な大気を震わす咆哮は無かったが、海底から絶壁たる岩の柱が俺へと無数に襲い掛かって来た。


「・・・っーーー‼︎」


 其れらを闇の翼をはためかせ、何とか躱して行く。

 岩の柱其の物は一直線にしか向かって来ないが、撃ち上げられる勢いによる衝撃波により、かなり躱すのはかなり困難だった。


「此のままじゃ・・・」


 尽きる事なく続く激しい攻撃に、此方から攻勢に出ない事には、やがて落とされる。

 そう理解した俺は、ゼムリャーへと腕を伸ばした。


「終焉への蒼き血潮‼︎」


 4度目の極大魔法を詠唱し、半壊したゼムリャーの躰へと追い込みをかける。


「ッッッ‼︎」


 頭部の吹き飛んだ部位は海嘯に飲み込まれ、再び崩壊して行く。


「まだまだ・・・、雨ッ‼︎」


 詠唱と共に、漆黒の雨がゼムリャーの巨体へと降り注ぎ、其の躰は雨と鮮血で赤黒く染まっていった。


「ッッッーーー‼︎」

「・・・⁈」


 ゼムリャーは痛みからか、それとも頭部を無くし視界を失ったからか、闇雲に暴れ回り、海面は激しく揺らぎ、大地は割れ裂けんばかりに震動していた。


「きゃぁぁぁ‼︎」

「ミニョン⁈」


 聞き慣れた声の甲高い悲鳴に視線を向けると、ゼムリャーの暴れている影響で、島は激しく揺れ、仲間達は地面に伏せていた。


「少し早いが・・・、霧‼︎」


 仲間達への影響を考え、俺はゼムリャーとの決着を急ぎ、闇の霧でゼムリャーを包んだ。


「・・・⁈」

「ぐうぅぅぅ‼︎」


 ゼムリャーの生命力を徐々に吸い上げ、上空へと収束させて行く。


「ッッッ‼︎」


 海は荒れ、大地は揺れ、上空に収束して行く闇に陽の光は遮られ、恰も周辺は此の世の終わりの様な雰囲気が漂っていた。


「ーーー‼︎」

「な⁈」


 ゼムリャーは俺の位置が確認出来ない為、海底の至る所から岩の柱を撃ち上げて来た。


「・・・ちっ、『大楯スクートゥム』‼︎」


 ゼムリャーの乱雑な攻撃に、俺は漆黒の闇で楯を形成し、其れら全てを受け止めた。


「・・・ふぅ〜」

「ッッッ‼︎」

「残念だが、受けて無いぞ?」


 ゼムリャーに聞こえているかどうかは分からないが、俺はそんな事を呟いた。


(良し、直接的な攻撃にはやはり使えるな)


 俺は闇の楯の性能に納得し、一人頷いたのだった。


「そろそろかぁ・・・」


 上空に収束していた漆黒の闇は、既にゼムリャーの巨体を貫くに相応しい迄に巨大な物になっていた。


「・・・行くぞ?」

「・・・‼︎」

「大槍アァァァーーー‼︎」


 極大の漆黒の大槍は、振り翳した腕に呼応し、ゼムリャーへと降り注ぎ、其の巨体を貫き、海面を斬り裂き、そして海底迄も割らんばかりに突き刺さったのだった。


「ッッッーーー‼︎」


 ゼムリャーは頭部を失っていた為、其の悲鳴を聞く事は出来なかったが、先程迄暴れ回っていた巨体が、闇の大槍に貫かれ止まるのを見て、俺は決着がついたのを確信したのだった。


「司様ーーー‼︎」

「ルーナか・・・」

「大丈夫ですかっ?」

「あぁ・・・。そっちはどうだっ?」

「土龍はほぼ狩り終えたと思います」

「そうかぁ」


 島のルーナから声が掛かり、地上の方もどうやら決着がついたとの事だった。


「あとは・・・」


 俺はアイテムポーチに手を添え、大魔導辞典を取り出した。


「やはり・・・」


 俺が取り出すと、既に大魔導辞典は淡く光を放っていた。


「行くのか?」


 俺の問いに答えた訳では無いだろうが、大魔導辞典はゼムリャーの死体へと飛んで行った。

 追って行った先・・・。


「う〜ん・・・?」


 未だ其の意味は分からないが、大魔導辞典の龍神結界・遠呂智のページには新たな紋章が刻まれていたのだった。


「とにかく・・・」


 此れで2匹目・・・。

 残り6匹と考えると先は長いが、とりあえずの目標を達成し、俺は闇の翼の魔力を緩め、仲間達の待つ、地上へと降りて行くのだった。

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