第264話
此処は船の自室。
俺達は既に2週間の航海を経て、船での暮らしも慣れ始め、俺は自室のベッドの上に座り、自ら生み出した闇の狼で遊びながら魔法の訓練を行っていた。
「おめぇらっ、集まれぇ‼︎」
「「「へいっ‼︎」」」
「ん?」
部屋の中迄響いて来たナウタの怒号と、其れに応える乗組員達の返事。
俺はナウタの持ち場である、甲板へと急いだ。
「ナウタさん」
「頭ぁ。すいやせん、起こしやしたか?」
「いえ、起きてましたよ。其れで?」
「実は前方に海龍の群れがいやして」
「海龍の群れ・・・、おぉ‼︎」
ナウタの言う通り、確かに前方に数十匹規模の海龍達の群れが見えていた。
「多いなぁ・・・」
「海龍っていうのは、そもそも群れで行動しやすしね」
「そうなんですか?」
「へいっ。奴らは1匹1匹は其処迄の力はありやせんからね」
「・・・へぇ」
「勿論、飛龍なんかと比べてですぜ」
「あぁ、なるほど」
ナウタ曰く、海龍達は其の集団での狩りの能力と、一度船に狙いを付けたら、地の果て迄でも相手を追いかける執念こそが特徴らしく、単体では飛龍程強力では無いらしい。
「飛龍かぁ・・・」
「奴らの場合は、餌場以外で群れは形成せず、狩りや大陸渡りなどは、単体で行いやすからね」
「・・・ほぉ」
「そもそも、空中に対してあっしらは無力ですし」
「・・・」
「船長ー‼︎準備が出来ましたっ‼︎」
乗組員達が巨大な弩弓を甲板の上に並べ終え、ナウタからの指示を待っていた。
「頭、行きやすぜ?」
「えぇ、お任せします。ただ・・・」
「へい?」
「仕留め切れない様なら、私がやりますよ?」
「・・・へへっ、あっしらとて海の漢。奴らの勝手にはさせやせん」
「・・・分かりました」
ナウタの言葉に、俺はとりあえず彼等に任せてみる事にした。
(まぁ、個体差はあるかもしれないけど、海龍なら俺の魔法で仕留められるからな・・・)
ただ、結納品の魔石を用意する為に、海龍を仕留めた魔法はあまり船に近付かれると使用出来ないからなぁ・・・。
俺はいつでも其れを撃てる様に、闇の翼を広げ準備に入った。
「おめぇらっ、矢を番えろぉ‼︎」
「「「へいっ‼︎」」」
「・・・」
ナウタからの号令に、弩弓の発射準備を進める乗組員達。
やがて、準備を終え・・・。
「放てえぇぇぇ‼︎」
「「「おうっ‼︎」」」
「・・・っ‼︎」
ナウタの咆哮に反応し、轟音を立てて一斉に弩弓から放たれる矢の雨。
空を斬り裂く甲高い風切り音が、其の威力の高さを感じさせた。
「ギヤャャャアアア」
「おぉ・・・」
「へへっ、見てもらえやしたか?」
「えぇ、凄い威力ですね」
矢の雨は海龍の群れへと降り注ぎ、ナウタの強気な発言通り数匹の海龍を仕留めた様だった。
「へいっ‼︎おめぇら、次だ‼︎」
「「「へいっ‼︎」」」
「・・・」
其の強気な態度の割に、ナウタ達は決して驕る事は無く、油断はせずに即次の射撃の準備に入った。
「司様、私が・・・」
「いや、大丈夫だよ、アナスタシア」
「え?」
ナウタ達の準備した弩弓の力は確かだが、如何せん海龍達の数が多過ぎる。
アナスタシアは大剣に魔石をセットし、俺からの指示を待っていたが、俺は其れを制止した。
「ナウタさん」
「頭?」
「悪いですが、此処迄で」
「まだ・・・」
「いや、私がやります」
「頭ぁ、しか・・・」
「下がってください」
「・・・へ、へい」
「・・・」
俺は静かに、だが、確かな口調で諭す様にナウタを退かせた。
「・・・さてと」
「司様」
「大丈夫だ。アナスタシアも退がってくれ」
「・・・はい」
かなりの速度で船へと迫って来る海龍の群れ。
俺は素早く船の前方へと飛び、群れに向かい構え、狙いを定めた。
「行くぞ・・・」
「「「ガアァァァーーー‼︎」」」
威嚇する様に咆哮を上げ、船との距離を詰める海龍達。
「喰らえっ・・・、『
詠唱によって瞬時に描かれた魔法陣は、船の進行方向を埋め尽くす程の極大なものであり・・・。
「・・・っ⁈司さ・・・」
俺の背へと船から何やら声が飛んで来た・・・、刹那。
「・・・ッ‼︎」
其の声も、船へと迫っていた海龍達の咆哮も打ち消す、空に浮かぶ雲を音だけで掻き消してしまうかの様な轟音を上げながら、大津波が魔法陣から流れ出た。
其の高さは、空に浮かぶ太陽を撃ち落としてしまうかの様で、一瞬で海龍達を飲み込んだ。
「・・・」
「終わったか・・・」
やがて津波が引き、大量の海龍達の死体が海へと無言で浮かぶのだった。
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