第234話


「本当にするのぉ?」

「えぇ。とりあえずは、就寝中に徐々に慣らして行こうかと」

「・・・分かったわぁ、じゃあ此れよぉ」

「ありがとうございます」

「でもぉ・・・」

「リール様?」

「そうねぇ、2人で決めた事だものねぇ」

「はぁ・・・」


 ローズと話し合い、凪への魔封の腕輪の装着を決めた俺は、リールの所へ腕輪を借りに来ていた。


「そのままだとぉ、凪ちゃんの腕には合わないからぁ、此れを使ってぇ」

「此のチェーンは?」

「腕輪の内側にぃ、チェーンを通す穴があるでしょ〜?」

「あっ、そうですね」

「其処に通してぇ、サイズを調整するのぉ」

「なるほど、分かりました」

「大丈夫だと思うけどぉ、くれぐれも注意してあげてねぇ」

「勿論です」

「ふふふ」


 こうしてリールから腕輪を受け取り、ローズの部屋へと戻って来た俺。

 丁度、凪と颯は昼寝中だった。


「ありがとう、司」

「あぁ・・・。じゃあ着けるか」

「・・・」


 苦悩の表情を浮かべ、無言になってしまったローズ。

 此処は俺がやるしか無いだろう。

 俺は覚悟を決め、子供達が眠るベッドへと近づき、寝ている凪を起こさない様に、小動物にでも触れるかの様に、優しく凪の腕へと、腕輪に通したチェーンを巻いた。


「すぅ〜、すぅ〜」

「特別苦しそうな感じは無いな」

「そうね」

「とにかく、暫くの間は起きてる間は俺が付いてるし、寝てる間に腕輪を着けて慣らして行こう」

「ええ、分かったわ」

「うぅぅ・・・」

「・・・っ」


 俺とローズが今後の確認をしていると、突然凪の寝息の調子のが変わり、2人の間に緊張感のある空気が流れた。


「うぅぅん・・・、すぅ〜」

「ふぅ〜・・・」

「・・・」

「すぅ〜、すぅ〜」

「大丈夫・・・、みたいだな?」

「そうね・・・」


 再び落ち着いた調子の寝息を立てる凪に、2人は胸を撫で下ろしたのだった。


 その後、ローズの部屋でまったりと2時間ほど過ごし、昼過ぎ。


「うぅぅぅ」

「ん?起きたか?」

「うっ、あ〜あっ?」

「あぁ、凪。パパだよ」

「う〜、あっあっ・・・、おっ?」


 凪は俺に向かい腕を伸ばすと、自身の腕に見慣れない物が巻かれているのに気付いた様だ。


「はいはい、抱っこね〜」

「ううう?んんん?」

「おいで〜、凪〜」

「ほら、凪。パパが抱っこしてくれるって」

「・・・」


 俺はなるべく自然な感じで凪を抱き上げ様とし、ローズも助け船を出してくれたが、凪は何やら腑に落ちない表情を浮かべていた。


「凪・・・」

「うっ、うっ、うっ」

「嫌がってるわね・・・」

「あぁ。まあ慣れが必要だし、とりあえず外すか」

「そうよね。初日だものね」

「凪?お手を・・・」

「うーー、う〜う〜う〜、うぅぅ、う〜う」

「・・・え?」


 俺が凪の腕から、魔封の腕輪のチェーンを外そうと手を伸ばすと、凪は何やら歌いながら、自身の腕をリズミカルに振りだした。


「玩具だと思っているのかしら?」

「うっうっう〜〜〜う」

「まぁ、苦しく無さそうだし、慣れてくれるのは何より・・・、かな?」

「そうね・・・」

「うーーーうっ、うぅぅぅ」

「上手ね、凪。何のお歌を歌っているの?」

「うっうっうっ、う〜う〜、うーーーーーー‼︎」

「何を・・・⁈」

「うっっっ‼︎」

「・・・っ⁈」


 何やら歌っていた凪。

 徐々に声を張り上げていき、歌の締めだったのだろうか?

 腕を目一杯激しく振り下ろし、咆哮の様な雄叫び上げた瞬間・・・。


「つ、司・・・」

「・・・」

「どうして・・・?」

「腕輪が・・・、粉々に」


 朽ち果てるかの様に粉々になってしまった魔封の腕輪。


「・・・っ⁈それより凪の腕⁈」

「そ、そうねっ。凪⁈」

「う?」

「痛くないの?」

「ああ、う〜?」

「ママじゃ無いのよ。凪は大丈夫なの?」

「う〜?あ〜?」

「怪我は無いみたいね・・・」

「そ、そうかぁ・・・。良かった」


 どうやら、凪の腕に怪我は無いらしく、俺とローズは一安心し、ローズは壊れた魔封の腕輪の片付けを始めた。


「・・・」

「ローズ・・・」

「私、お母様とグリモワール様に相談に行って来るわ」

「そ、そうだな。凪も診て貰った方が良いだろうし・・・」

「・・・ええ」

「・・・」

「2人の事お願いね」

「あ、あぁ・・・」

「ああ?う〜う〜?」

「・・・」


 ローズは少し落ち込んだ様子で、凪の呼び掛けにも気付かず、部屋を出て行った。


「あ〜あっ、あぁぁ?」

「ん?どうした?」

「あぁぁ?」

「・・・?凪?」


 凪は俺の方を見つめ、何やら物欲しそうにしていた。


(抱っこじゃないみたいだけど?)


「いーいー?」

「ん?あぁ。撫で撫でかな?」

「うっ」

「・・・っ⁈」


 俺が凪の頭へと腕を伸ばすと、先程、魔封の腕輪を壊した時と同じ様に腕を振り下ろした凪。


「うぅ?」

「・・・あ、ぁ・・・」


 一瞬、固まってしまった俺に、凪は何処迄も愛らしく、小首を傾げて見せた。


(此の時期の赤ん坊が此処迄・・・?)


 俺は凪の様子に、少し恐ろしいものを感じたが、止めていた腕を伸ばし、母親譲りの桃色の髪を撫でた。


「きゃっきゃっきゃっ」

「凪・・・」

「あ〜あっ、う〜うっ」

「あぁ・・・。パパも凪が大好きだよ」

「きゃっきゃっきゃっ‼︎」

「・・・」


 嬉しそうに腕を伸ばして来た凪を、俺は抱き上げ、その背を撫でるのだった。

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