第233話


「あ〜あっ?」

「ん?あ、あぁ、パパだよ」

「うっ。あ〜、あ〜」

「なでなでかな?ほら〜」

「きゃっ、きゃっ」

「うん?気持ち良かったかい?」

「きゃっ、きゃっ」


 俺の膝の上で、自身の頭を俺の胸につけ此方を見上げて来た凪。

 血色の良い暖かな頰を撫でてやると、嬉しそうに笑顔を見せた。


「ああ、あっ?」

「ん?ママか?」

「う〜」

「ママの定期の検診だよ」

「ああ、あ、あ〜?」

「あぁ、凪と颯も昨日しただろう?」

「あ〜?」


 今日はローズの検診日で、珍しくグズった颯を連れて、2人で別部屋に居た。


「凪はパパと一緒で良かったのかな?」

「うっ」

「そうかぁ、ありがとう」

「きゃっ、きゃっ」


 俺からの問い掛けに、小首を傾げ応えた凪。

 俺と凪がイチャついていると、部屋の外から声が掛かった。


「司様」

「ん?ルーナか?」

「失礼します」

「どうした?」

「ローズ様の検診が終わったので、昼食にするとの事です」

「そうか」

「うーうっ」

「はい、ルーナですよ、凪様」

「おっ」

「ええ、こんにちは」

「きゃっ、きゃっ」

「ははは」


 俺達を呼びに来たルーナ。

 凪はルーナの一定の反応がツボなのか、嬉しそうに笑った。


 そうして、凪を抱っこし、ルーナと共に食堂へと移動すると、既に皆揃っていた。


「あっ、ああ」

「うん、ママだな」

「・・・」

「う〜?」

「・・・ん?」


 俺の腕の中、凪がローズを見つけたのか、呼び掛けていたが、ローズは考え事をしてる風で、反応が無かった。


「あ・・・、あ?」

「ローズ?」

「・・・えっ⁈司・・・、どうかしたの?」

「凪が呼んでるぞ」

「え?そ、そう・・・。凪、どうしたの?」

「ああ」

「え、ええ、ママよ」

「いーいー」

「・・・これからご飯だから、後でね」

「うっ?」

「・・・」


 ローズに向かい短い腕を精一杯のばした凪。

 然し、ローズの反応は何処かつれないものだった。

 その後、食事を済ませ俺とローズは颯と凪を連れ、ローズの部屋へと移動した。


「・・・司」

「どうした?」

「凪の事なんだけど・・・」

「あ、あぁ・・・」

「・・・」

「ローズ?」


 ベッドの上、自らの足下に視線を落とし、俺を見ない様にしながら話し掛けて来たローズは、何か言い掛けて、言葉に詰まっていた。


「凪がどうかしたのか?」

「え、ええ・・・」

「・・・」

「『魔封の腕輪』を着けさせない?」

「魔封の腕輪?」

「ええ。名前の通り、魔法を使えなくする腕輪なのだけど」

「そんな物が有るのか」


 魔封の腕輪とは、ローズ曰く、犯罪者等に使用する物だという事だ。


「良いんじゃないのか?」

「そ、そう・・・」

「ん?」


 俺は昨日の様な暴走を防ぐ為にも、悪くない手段だと思ったのだが、ローズは何処か思い詰めた表情を浮かべていた。


「何か、問題が有るのか?」

「・・・」

「ローズ?」

「魔封の腕輪は、魔流脈に掛かる負担も大きいの」

「そうなのか」

「凪にもし使えば、将来的に魔法方面での障害は残るかもしれないわ」

「えっ?・・・例えば?」

「魔法が使えなくなるとか・・・」

「それは・・・」

「・・・」

「・・・」


 言葉が続けられなくなった、俺とローズ。

 流石にまだ自分の意思を示せない凪に、それを課すのは問題だろう。


「でもね、これは凪の為でもあるわ」

「凪の為って・・・」

「近い内に私はお母様から、リアタフテ家当主を継ぐわ」

「・・・」

「勿論、私の次の当主は颯よ。分かるでしょう?」

「あぁ、そうだな」

「お母様も私も一人っ子だったから、当主継承による争いは起こる心配は無かったわ」

「いや、其れは颯と凪だって・・・」

「そんな事、分からないわっ」

「ローズ・・・」


 落としていた視線を上げ、颯と凪の眠るベッドへと向けたローズ。


「だけど、男子である颯が継ぐのがサンクテュエールの決まりなんだろ?」

「勿論よ。ただ、優れた姉である凪を推す人間も必ず出て来るわ」

「いや、でも・・・。まだ、現時点で心配する必要は無いだろう?」

「現時点で・・・、ね」

「ローズ?」

「ねえ?司?」

「・・・なんだ?」

「私が初めて魔法を使ったの何歳の時か分かる?」

「う〜ん、3歳とか?」


 ローズがどんな意図で、そんな事を聞いて来たか分からなかったが、自我が芽生えて練習を始めて1年後位でその位かと思った。


「違うわ」

「じゃあ・・・?」

「5歳よ。お母様も同じ」

「そうなのか・・・」

「一般的には、7から8歳だから此れでもかなり早いのよ」

「・・・」


 其れを凪は1歳にも満たずに達成してしまったのか・・・。


「でも、意外に遅いんだな」

「通常魔流脈が成長過程だから、無意識の内に皆詠唱を避けるのよ」

「じゃあ、凪は⁈」

「本当なら、昨日の時点で全身から出血しててもおかしく無いのよ」

「・・・」

「それも、魔封の腕輪を着けても良いと思う理由」

「そうか・・・」

「どう思う、司?」

「う〜ん・・・。それって一度着けたら外せないとかあるのか?」

「え?無いわよ。外そうと思えばすぐに外せるわ」

「そうかぁ・・・」


(それなら一度着けてみて、嫌がれば外すのもアリかな?)


「良し。とりあえず、一度だけ着けてみようか?」

「司・・・。ええ」


 俺は決心をし、準備に入るのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る