第218話


 フォールと再会した翌日。

 俺はマランの船の一室へと来ていた。


「これは・・・」

「私がフォール将軍より依頼され準備した物です」

「・・・」


 其処は隠し部屋になっていて、中には剣に槍、鎧や各種回復薬が大量に並んでいた。


「当然、ディシプル軍には」

「勿論です。その為の隠し部屋ですよ」

「ですよね」


 昨晩、俺がフォールへの協力を約束すると、グランによりマランの下に案内された。


(フィーユに対する、この国の作業員の態度から何となく想像出来ていたが・・・)


 マランもフォールの協力者という事だった。


(そもそも、領民は全員フォール派との事だが)


 ただ、これだけの物資を用意しているという事は、フォールは俺と昨晩会わなくとも、近日中の反乱を企てていたという事だ。


(100対7000ねぇ・・・)


 正気の沙汰とは思え無い感覚だったが、国家規模の長になるという事は、時にその位の覚悟を持って決断する必要が有るのだろう。

 自分がその手の立場で無い事に感謝するがな・・・。


「決行日は?」

「フォール将軍が決定しますが、増援が来るのなら、予定は延ばすかと」

「では、元々は?」

「私どもの船の出航に合わせての予定でした」

「なるほど」


 そのタイミングで此れ等の物資を降ろして、マラン達は港を離れた訳か・・・。


「私としてはフォール将軍に国を出て欲しかったのですが・・・」

「仕方ないでしょう。本人が覚悟の上なら」

「ええ。ですから今回のサンクテュエールからの増援には、本当に感謝しているのです」

「そうですか」


 リエース大森林での激突を考えると、ルグーンの魔法による増援の可能性は捨てきれないが、とりあえず現在のディシプル全軍とサンクテュエールからの増援なら、問題無く此方が勝利出来るだろう。


「司様」

「ん?フレーシュ、どうしたんだ?」

「いえ、いらっしゃらないから探してたのです」

「あぁ・・・」

「・・・」


 俺を探していたらしいフレーシュ。

 俺が協力を約束した事で、隠し部屋への通路を教えて貰えて、此処迄辿り着けたらしかった。


(う〜ん、昨日の事を余程恨んでるのかな)


 そのフレーシュは移動する事無く、俺の背後に霊の様に無言で張り付いていた。


「フレーシュ」

「何ですか?」

「いやぁ・・・」

「・・・」

「うん、昨日は俺が悪かったよ」

「いえ、とんでもありません」

「今度はちゃんと連絡するから・・・、なっ?」

「はい」

「・・・」

「・・・」


 返事はしつつも、俺の下を離れるつもりは無いらしいフレーシュ。

 まぁ、落ち着かない以外は、居られて困る事も無いので、俺は諦める事にした。


「フレーシュ、今回の件だが・・・」

「お供しますっ」

「・・・う〜ん」

「お願いします、司様」

「でもなぁ・・・」

「・・・」


 以前のミラーシの任務の件はデュックの許可も有ったし、ダンジョンの件はミニョンも同行していた。

 現状フレーシュはペルダン家に仕えている為、もし今回の件で何か不測の事態が起こると、その責任の所在が俺なら問題無いのだが、リアタフテ家となると話が別だからなぁ・・・。


「司様にはご迷惑はお掛けしません」

「いや、俺に迷惑なんて・・・」

「勿論、お家に対してもです」

「う〜ん」

「私はどうせ学院を卒業すれば、ペルダン家とは無関係ですし、そもそも奥様は私が居なくなる事を望んでいますから」

「・・・」

「だから・・・」

「デュック様はどうなんだ?」

「・・・っ」

「やはり・・・」

「いえ、お願いします」


 デュックの名を出した俺に、一瞬返答に詰まってしまったフレーシュ。

 俺は勢いのままに諦めさせ様としたが、それでも懇願して来たフレーシュの瞳には決意の色に染まっていた。


「私は自由です」

「・・・分かったよ」

「・・・っ、ありがとうございますっ」

「ただ、絶対無理はしないでくれよ?」

「勿論です。ご迷惑はお掛けしません」


 俺は結局押し切られる様に、フレーシュの作戦参加に許可を出したのだった。

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