第214話


「すまんな、シエンヌ。・・・れ」

「・・・っ」

「・・・」


 何事か女に向かい語り掛けたフォール。


(あれ?シエンヌ?・・・んんん?何処かで・・・?)


「待たせた様だな。此の首をそんなに所望かな?」

「・・・え?」

「・・・ふっ。思いの外、幼い声だな」


 首をと言いつつも、纏う空気は愛刀と同じ冷たい斬れ味を感じさせるフォール。

 俺の事を忘れたのかと一瞬思ってしまったが、自身がマントを纏っていた事を思い出した。


「すいません、フォール将軍」

「・・・?」

「お久しぶりです。ご無事で良かった」

「・・・おお」


 俺がマントを脱ぎ素顔を見せると、フォールは纏っていた緊張感有る空気を引いたのだった。


「真田殿、どうして?」

「そうですね、何から説明すれば良いのか・・・」

「ふむ。互いに積もる話も有るが、先ずは彼女を自由にしてやって貰えないだろうか?」

「あぁ、そうですね。待って下さい」


 俺は地上に降り、フォールの知り合いらしきマントの女へと寄った。


「・・・」


 其処迄来てある事を思い出した。


(そういえば、此の魔法の解き方は考えていなかったな)


「う〜ん・・・」


 軽く揺らしてみたが、魔法が解ける事は無かった。


(やはりケンイチがした様に、強力な衝撃で無いと解けないかぁ・・・)


「どうしたのかな?」

「えぇ、実は時間を待たずに解く為には、手荒な方法を使う必要が有りまして・・・」

「そうか・・・」

「すいません」

「いや、戦闘で使用するのを想定した魔法なのだから当然さ」

「はぁ・・・」

「仕方ない。シエンヌには暫くこのままで居て貰おう」

「・・・っ」


 マントの女からは、身動きの取れない状態ながら、不満なのは伝わって来た。


「ですが、本当にご無事で良かったです」

「ご無事で、か・・・」

「フォール将軍?」

「本当の意味で無事と言えるかは分からないがな」

「・・・」


 フォールは無表情と言って良いだろう横顔だったが、場の空気は若干苦々しいものになった。


「フォール将軍」

「ん?どうかしたかな?」

「実は此れを・・・」

「ほお?」


 俺はネックレスを剣に変形させ、フォールに示した。


「打ち合った時にはかなりの業物と感じたが、何か有ったのかな?」

「妖刀白夜にやられました」

「・・・。そうか、出会ったのだな」

「はい」

「では・・・」

「いえ。多くの助力が有って、何とか逃げ延びました」

「そうか・・・。だが、互いに無事で良かった」

「えぇ・・・」


 そう言ってフォールは自嘲気味に笑ったのだった。


「彼奴は・・・、何者なのでしょうか?」

「ふむ・・・。だが、其れは真田殿の方が詳しいのでは?」

「・・・っ」

「すまんな。そういう意味では無いのだ」

「いえ、誰でもそう思いますよ」


 フォールの発言も致し方ないもので、仮面の男の使用する魔法は、大魔導事典に記されているものと同様のもので、奴の事は俺の方が詳しいと思って不思議では無かった。


「・・・ふっ」

「フォール将軍?」

「いや、すまない」

「?」

「まさか、同じ魔法に二度倒されるとは思って無かったのでな」

「・・・え、じゃあ」

「ああ。恥ずかしながら、あの魔法にね」

「そうですか」


 フォールは義足を示しながら言った。


「そういえば、奴とはいつ?」

「帰国からそう日は経っていなかったよ」

「経緯は・・・?」

「ふむ。何から説明したら良いかな」

「・・・」

「此の国の状況からじゃないかい」

「・・・っ⁈」


 俺は突然隣から聞こえて来た声に、一瞬ビクッとなってしまった。


「おお、解けたか、シエンヌ」

「ああ。ったく、とんでもない目に遭ったよっ」

「ふっ、仕方ないな。戦闘中の事だ」

「ふんっ、このガキにはダンジョンでも酷い目に遭わされたからねっ」

「・・・え?」


 そう言ってマントを脱いだ女。

 現れたのは女性らしくもかなりの高身長で整った身体と、燃える様な紅の髪を持つ女だった。


「貴女は・・・」

「忘れたとは言わせないよ?」

「え、えぇ・・・」

「ふんっ」


 聞き覚えのある名だったが、今思い出した。

 シエンヌというのは、俺がミラーシの件で世話になった、ブラートの一味のリーダーの事だった。

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