第202話
「だからって、此処に連れて来るのは勘弁して欲しいわね」
「・・・すまん」
「むっ‼︎」
「ぐっ‼︎」
「・・・はぁ〜」
非難の視線を隠そうとせず、俺へと向けて来るフェルト。
生徒も行き交う廊下で、揉め事を続けさせる訳にもいかず、フレーシュとアンジュを連れて来たのはザックシール研究室。
然し、2人は冷静さを取り戻す事は無く、部屋の主であるフェルトは、ウンザリした様に溜息を吐いていた。
「それにしても珍しわね」
「え?」
「ポーヴルテは何時も冷静な態度を気取っているのに」
「・・・そ、そうかぁ?」
「失礼ですねっ、どういう意味ですか?」
「ふふ、そのままの意味よ。何時もペルダンのお子ちゃまの背後で、対照的なお陰でクールで知的に見えるでしょ?」
「・・・」
俺は最初、フェルトから発されたポーヴルテと言う名称に、何の事を言っているのか分からなかったが、フレーシュの反応に、彼女の姓がそんな名だった事を思い出した。
(面倒事を持ち込まれた所為か、フェルトが挑発的だよな)
フェルトは俺とローズに対しては、日頃から若干そういう態度も取る事は有ったが、他の人間に対してこの手の対応は珍しく感じた。
「ふっふっふっ、痛いところを突かれてるんじゃない、フレーシュ?」
「うるさいわね、アンジュ」
「まあ、そのポーヴルテと言い争っているのだから、貴女も対してレベルは変わらないわよ?」
「ぐぐぐ・・・」
「言われてるわよ、アンジュ?」
「うっさいっ‼︎」
「貴女がでしょっ‼︎」
「・・・はぁ〜」
「ふふ、大変ね、司?」
一向に落ち着く雰囲気の無いフレーシュとアンジュ。
どうやら、どうしても生理的に互いにの事を受け付けないらしかった。
「そういえば、司」
「どうした?」
「この間、言った実験の件なのだけれど」
「あぁ、もう準備出来たのか?」
「ええ、試作品なのだけど」
そう言って、フェルトが作業机から手に取ったのは1枚の紋章の刻まれた護符だった。
「其れは・・・、もしかして⁈」
「ふふ、転移の護符よ」
フェルトが手にしている護符は、先日、俺達を終末の大峡谷へと一瞬で運んだ、転移の護符だった。
「作れたのか⁈」
「どうかしら?全く、同じ制御の紋章では無いのだけれど・・・」
「それで、大丈夫なのか?」
「何とも言えないわね。同じ物を刻めば良いという訳でも無いのよ」
「そうなのか?」
「ええ。あの時目にした制御紋の意味は、私には正確に理解出来なかったのよ。だから、あれを元にして、市場に出回っている帰還の護符も参考に、此の護符を作ったのだけれど・・・」
まだ、実験段階だからだろう。
フェルトの言葉からは、自信や確信は感じられなかった。
「でも、使ってみるしか無いよな?」
「ええ、そうね」
「良し、分かった」
「ふふ、何なの?協力的過ぎないかしら?」
「ん?あぁ。実用化出来れば、かなり便利な代物だからな」
「ふふ、それはそうなのだけれど」
「使用方法は同じなのか?」
「ええ、先ずは何処か離れた場所を記録して、此処から其処へ転移して貰えるかしら?」
「了解」
俺はフェルトから転移の護符を受け取り、とりあえず校門辺りで使用してみる事にした。
「おい、2人共・・・」
「むむむ」
「ぐぐぐ」
「・・・行って来るよ、フェルト」
「ふふ、お願いするわ」
俺は未だ睨み合うフレーシュとアンジュを連れて行く事は諦め、研究室から校門へと向かうのだった。
「此処で魔力を込めてっと・・・」
流石に登下校時間では無い校門は、閑散としていて、俺は照りつける陽の光の下、手早く護符へと魔力を込め、研究室に戻るのだった。
「ふぅ〜、ただいま」
「ふふ、おかえりなさい」
「これで、此処で魔力を込めれば良いんだな?」
「ええ、そうよ」
「良しっ、じゃあ・・・」
俺は完成すれば、かなり便利な物な事もあり、少し興奮気味に護符を持つ手に意識を集中し、魔力を込め様とした、・・・其の瞬間。
「司っ、聞いてよっ‼︎」
「あっ、司様に触らないでっ‼︎」
「おわっ・・・」
「ちょっとっ、貴女達・・・」
背後からアンジュに左腕を、フレーシュには右腕を引かれ、集中が途切れてしまったが・・・。
「お、お、おいっ、何だっ‼︎」
「「えっ?」」
「護符を捨てなさいっ、つか・・・」
「・・・っ⁈」
魔流脈を流していた魔力迄は止まらず、自身でも其の妙な流れを意識出来て、フェルトからの指示通り、護符を捨て様とした刹那。
身体は宙に引かれる様な感覚を覚え、瞬きの間に眼前は雑然とした研究室では無くなっていた。
「此処は・・・?」
此処が何処かは分からなかったが、当初の目的地で無い事は瞬時に理解出来た。
「海・・・。港か?」
眼前には海が広がり、何隻かの船も目に入る事から、自身の立っている場所が、何処かの港である事も分かった。
「何処かしら?」
「ええ、突然どうしたのですか?」
「えっ?アンジュ⁈フレーシュ⁈」
どうしてと聞くのは無駄だろう。
本家の転移の護符も、帰還の護符も、使用時に身体に触れていた者も一緒に運ぶのだから・・・。
ただ、先程迄、揉めていた2人に状況を説明する事は、かなり骨が折れる事だろうと、俺は少しげんなりするのだった。
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