第190話


「・・・」

「・・・波っ‼︎」


 俺が闇の衣を纏う腕を払い、其処から闇の衝撃波を放つと、スヴュートは其れを自身の尾鰭で打ち消した。


「くっ・・・、そぉ」

「ガアァァァ」


 スヴュートが一々動きを見せる度に、突風が発生し、周りの空気が振動するのが伝わって来た。


(尾鰭は強靭って事か・・・、ならっ)


「静寂に潜む死神よりの誘い‼︎」

「・・・ッ」


 俺がスヴュートの右眼に狙いを定め不可視の魔法を詠唱すると、奴は魔力の流れを感じたのか頭部を、より上空へと退いた。


「グッ・・・」

「な・・・、ちぃっ‼︎」


 太陽を背にしたスヴュートは、俺を見下ろしながら其の口の中に、陽の光よりも眩い光を貯め始めた。

 翼に力を込め、全速力でスヴュートの背後へと空を駆ける俺。


「ゴオォォォーーー‼︎」

「・・・っ‼︎」


 スヴュートの口から、俺が直前迄居た位置へと極大の光線が発せられ、狙いを失った其れは、其の先に有った海へと着弾した。


「・・・⁈」


 着弾と共に、戦闘中で無ければ耳を塞いでいたであろう爆音が上がり、舞い上がる水飛沫は空を撃ち落とすが如く激しい物だった。


「ぐうぅぅぅーーー‼︎」


 後に続いたのは其の場に居る者全てを弾き飛ばす様な衝撃波と、低く飢えた獣の唸り声の様な轟音だった。

 俺が一時、衝撃波に逆らわずスヴュートから距離を取ると、スヴュートは其れを追撃する事はしなかった。


「・・・」

「くそっ、眼中に無いって事か‼︎」


 苛立ちを口にしながらも、俺はスヴュートより上空を取る。


「行けぇーーー、剣っ‼︎」


 スヴュートを包囲し、一斉に襲い掛かる無数の闇の剣。

 流石に其の胴体は尾鰭程の堅固さは無いらしく、闇の剣は突き刺さって行った。


「ギャアァァァンンン‼︎」

「良しっ‼︎」

「・・・ガアァァァーーー‼︎」

「・・・っ⁈」


 大峡谷全体に響き渡る程の咆哮を上げ、再び口に光のエネルギーを貯め始めたスヴュート。

 俺は素早くスヴュートの背後へと飛んだが・・・。


「ガアァァァッッッ・・・‼︎」

「な、何だ⁈」


 スヴュートは先程とは違い、極大の光の塊を上空へと放ち、空にまるで二つの太陽が昇っている様に錯覚した・・・、刹那。


「オオオンーーー‼︎」

「・・・っ‼︎」


 スヴュートの生み出した太陽は弾け、光の矢の流星雨が辺り一面に降り注いだ。


「衣ゥッ‼︎」


 俺は躱す事は諦め、闇の衣を生み出し、自身の上部を覆った。


「くうぅぅぅ‼︎」


 闇の衣に触れた事で、降り注ぐ光の矢は若干勢いを削がれ、俺へと被弾した。


「ぐっ‼︎」


 痛む全身を押して、損傷した纏し闇の衣と翼に魔力を注ぎながら、スヴュートへと視線を向けると、奴は再び口に光のエネルギーを貯め始めていた。


「ちっ‼︎、やらせるか・・・、剣ッ‼︎幻ォーーー‼︎」


 無数の闇の剣と闇の幻影がスヴュートの口元へと襲い掛かり、光のエネルギーを消滅させる。


「グッッッーーー‼︎」

「はあぁぁぁ‼︎」


 俺は悲鳴を上げ、動きを止めたスヴュートの上空を取った。


「雨アァァァーーー‼︎」

「ギャアァァァンンンーーー‼︎」


 蒼穹を漆黒に染め上げる程の闇の雨粒が、スヴュートへと降り注ぎ、純白の巨体をキャンパスに漆黒の雨と深紅の鮮血が地獄絵図を描いた。


「霧アァァァ‼︎」

「・・・グウゥゥゥ」


 漆黒の霧に其の身を包まれ、動きが止まったスヴュート。


「グッ」

「良しっ、集束しろ‼︎」


 スヴュートは力を振り絞る様に、口の中に光のエネルギーを貯め様とするが、漆黒の霧から体力と魔力を吸収されている為、先程迄よりエネルギーの貯まりは遅くなっていた。

 俺は此の好機を逃さない様に、スヴュートを包んでいた漆黒の霧を、太陽の光を遮るかの様に一箇所に集束して行く。


「はあぁぁぁーーー‼︎」

「グウゥゥゥッッッ‼︎」


 スヴュートの光のエネルギーの貯まりは、先程迄の物と比較し7割程だろう。

 対して、俺は漆黒の霧は集束しきり、漆黒の闇の大槍を形成した。


「遅いっ‼︎行くぞっ・・・、『大槍サリーサ』アァァァーーー‼︎」

「・・・ッ‼︎」

「貫けえぇぇぇ‼︎」


 俺の放った漆黒の闇の大槍は、スヴュートへと襲い掛かり、其の頭部、胴体、尻尾を貫き、海へと着弾し、爆音を上げ、海面は嵐の最中の様に荒れ狂うのだった。


「ギ、ギ、ギ・・・、ギャアァァァンンンーーー‼︎」

「はぁはぁはぁ・・・、っ‼︎」

「・・・」


 スヴュートは絶命への絶叫を上げ、其の巨体は地上へと墜落して行った。

 スヴュートの巨体が地面に落ちると、激しい振動に、大地に散乱していた色とりどりの魔石は跳ね上がり、色彩豊かな魔石の雨が降り注ぐのだった。

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