第175話


 これ見よがしに仰々しく、自己紹介などして来たルグーン。

 勿論、奴の事は知っているのでそんな必要は無いのだが・・・。


「余程、俺の神経を逆撫でしたいらしいなっ」

「ふふ、ご冗談を。私など、真田様の様にサンクテュエール全土に其の名を馳せる大魔導士様に睨まれては、蛇に睨まれた蛙の其れと同じです。恐怖の余り平静を保てて居ないのですよ」

「・・・」

「ふふ、どうかされましたか?」

「子供達は何処だ?」

「さて、お答えしかねます」

「・・・子供達にもしもの事が有れば」

「ふふ、有り得ませんよ。お子様達は、我々の悲願を叶えるのに必要な鍵となるのです。其の方々を傷付けるなど、絶対に有り得ません」

「・・・」


 ルグーン達の悲願?

 其れに子供達が鍵になるだって?

 俺には、ルグーンの言う事が何を意味するのかは分からなかったが、どうやら子供達を傷付けるつもりは無いらしい。


(勿論、此奴の言う事なんて、僅かでも信用出来無いが)


「ふふ・・・」

「・・・何だ?」

「いえいえ、私の告げた事実を、信用して貰えないのが伝わって来たので、落ち込んでいるのですよ」

「吐かせっ‼︎」

「ふふ、お子様達を傷付け無いのは本当ですよ」

「・・・」

「・・・あっ、今はですけど」

「・・・っ、貴様ぁ‼︎」

「ふふ、我々に必要なのは何方か1人なのですよ。不要な方は当然・・・」

「・・・黙れ」

「ふふ」

「貴様の都合等どうでも良いんだ」

「ほお、此れは此れは」

「あの子達は、何方か1人であろうとも欠けてはなら無い俺の宝物だっ‼︎」

「ふふ、なるほど〜」

「今すぐ子供達を返せ。そうすれば償いはお前達の命だけで済ませてやる‼︎」

「ふふ、非道いお方だ」

「答えろ・・・。返すのか?返さないのか?」

「・・・ふふ、お断りしましょう」

「そうか、ならもう・・・、頼まないよっ‼︎」


 語尾に込めた力其のままに、詠唱を行い闇の狼達を生み出す。


「行けえぇぇぇ‼︎」


 一斉に放たれ敵へと駆けて行く狼達。

 流石に敵も其れを簡単に喰らう訳も無く、次々と躱していった。


(ちっ・・・、せめてアナスタシアが動ければ、空を飛んで優位に立てるのに)


 アナスタシアへと視線を向けると、未だ地面に伏せたままだった。


「アナスタシア、動けないか?」

「司様・・・。私の事は良いのです。お子様達を・・・」

「・・・良い訳無いだろ」

「・・・っ」


 地面へと顔を伏せ唇を噛みしめるアナスタシア。

 彼女が動けないのは間違い無いのだろう。


(そうだよなぁ、酷な事を聞いてしまったか)


 そもそも彼女が動ければ、自ら族を一網打尽にし、子供達を取り戻してみせるだろう。


(仕方ない、あの手の使うか・・・)


「どうしたのですか?もう終わりなのでしょうか?」

「・・・」

「ふふ、怖い顔だ・・・」

「安心しろ、直ぐに其の良く動く口を縫い付けてやる」

「ふふ、おおぉぉぉ」


 ルグーンが低い唸り声を上げると、其れに呼応する様に族達が短縮詠唱を始めた。

 俺はアナスタシアを背にし、敵の詠唱が完成するのを待った。


(此れを受け切って・・・)


 俺は攻守の切り替えの間を計りながら構えた。


「・・・」

「深淵より這い出でし冥闇の霧」


 族達は詠唱の完成と共に、予備動作なく魔法を放って来て、俺は其れを闇の霧を発生させ防ぎ切った・・・、刹那。


「行けぇ‼︎『スートゥーラ』っ‼︎」


 俺が闇の衣を纏った右腕を払うと、其処から鋭い漆黒の針が族達の足下へと飛んだ。


「・・・っ」

「ふっ、やっと反応が有ったな」


 俺の放った針が族達の足下の影へと刺さると、連中は一瞬息を呑む様にし、身体を硬くした。


「でも、悪いな・・・。此れで終わりだ、剣‼︎」

「・・・っ」


 俺から無造作に放たれた闇の剣を、身動ぎもせず受けた族達は崩れ落ちていった。


「ふふ・・・、ふふふ、素晴らしいっ‼︎」

「・・・」

「流石、真田様です。見事と言う他、有りません」

「止めろ」

「ふふ、そんな事を仰らずに」

「子供達を返す気になったか?」

「其れは無理な相談です」

「そうか・・・、ならっ‼︎」

「ですが・・・」

「・・・っ⁈」


 俺の魔法を見ても余裕を崩さないルグーン。

 俺からの要求を受け流しつつ、通常の詠唱を開始した。


(何だ?俺達から距離を取りつつ、囲む様に魔法陣が・・・)


 俺は魔法攻撃に備える様に構えたが、魔法陣から現れたのは魔法では無かった。


「あ、あぁぁ・・・」

「ふふ、どうです?数時間振りの再会は?」

「放せっ‼︎直ぐに子供達を返せえぇぇぇ‼︎」

「ふふ・・・無理です」


 魔法陣から現れたの新たな族達。

 其の1人が俺の子供達を抱えているのだった。

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