第170話


「ガアァァァア‼︎」

「・・・ふぅ〜」


 俺の斬撃で首を飛ばされ崩れ落ちるアークデーモン。

 俺は1人でダンジョンへと来ていたのだった。

 ローズの出産を間近に控えたこの時期に、何故俺が1人でダンジョンなどに来ているかと言うと・・・。


「お〜い、酒持って来〜い」

「・・・」

「ひっく、おいっ」

「・・・もう、全部渡したよ」

「足り〜んっ・・・、ひっくぅ」

「はぁ〜・・・」


(やっぱり、失敗だったなぁ・・・)


 ルグーンと街で出会した翌日、触発された訳では無いが、ラプラスを倒すヒントが無いかダンジョンへと顔を出してみると、此奴に敗者は勝者に従えと言われ、酒の買い出しを命じられたのだった。


(まぁ、色々と質問に答えて貰ったしな・・・)


「・・・ひっく、うぅぅ」

「お前、いくら何でも一気に空けすぎだよ」

「あぁん、酔ってなどおらんわっ」

「いやいや」


 俺の用意した酒はワイン20本。

 ラプラスは其れを1時間程で空けてしまっていた。


(俺もそう弱い方では無いが、流石にこの短時間でこの量は異常だな)


「そういえば・・・」

「ん?どうした?」

「ひっく・・・、お前がさっき使った魔法」

「あぁ」

「我と戦った時には使わなかったな」

「あぁ、まだ開発途中だからな」

「くく、なるほどな」


 買い出しを終えダンジョンに戻った俺はラプラスに捕まってしまい、時間を潰す為に叛逆者の証たる常闇の装束の開発に勤しんでいたのだった。


「まあ、我ならあんな物喰らわんがな・・・、ひっく」

「そうかい・・・」

「うぅぅぅ」

「・・・」


(駄目だな、これは・・・)


 ラプラスの完全に酔ってしまった様子に、俺は呆れてこの場を立ち去る事にした。


「じゃあ、そろそろ俺は帰るぞ」

「あぁん?おうっ、また買い出しか?」

「一言も言って無いぞっ」

「・・・ちっ」

「・・・舌打ちするなよ。また今度買って来るさ」

「まだ、帰る時間じゃないだろう?」

「悪いな、婚約者がお腹を大きくして待ってるんだ」

「・・・お前みたいな小僧が父親になるのか?」

「まぁな」


 中身は実は小僧でも無いのだが・・・。

 ラプラスは俺にもうすぐ子供が生まれる事を伝えると、不遜で余裕に満ちていた表情に驚きが浮かんだ。


「そうか・・・、子供か」

「ん?どうかしたか?」

「さあな・・・」

「そうか?」

「・・・」

「・・・そういえば、魔人にも子供が出来たりするのか?」

「・・・」

「・・・」


 急に黙り込んでしまったラプラス。

 俺はいよいよ酔い潰れてしまったのかと思い、そのままにして立ち去る事にした。


「じゃあな・・・」

「・・・居るぞ」

「え?」

「我にも子供が居る」

「っ⁈そうなのか?」

「ああ・・・。前回の復活の際に娘が1人な」

「・・・へぇ〜。・・・って⁈」

「くくく、そうだ。絶世の美女だぞ」

「いやいや、そうじゃなくて・・・。前回って事は十数年前だろ?それなら、娘さんもしかして・・・?」

「・・・くく、ああそうだな。今も何処かで暮らしているだろう」

「会わないのか?」

「くくく、必要なかろう」

「必要って・・・」


 そういう問題では無い様に感じられたが、当のラプラスは、自身の娘にどうしても会いたいという感じはしなかった。


「じゃあ、そろそろ本当に帰るぞ」

「くくく、次回は焼酎を持って来るが良い」

「分かったよ。じゃあ、またな」


 俺は今度こそ本当にダンジョンを後にし、屋敷へと帰るのだった。

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