厨二おっさん召喚される

第157話

　アークデーモンの配置は前衛に３匹、後衛に２匹。

「静かな連中だな・・・」

「連中は知性の高い魔物で有名だからね」

「なるほど、此方の出方を伺ってるのかな？」

　対峙する俺達とアークデーモン達。

　此方が武器を手にし構えても、連中に動きは見えなかった。

　どうするか？

　一瞬、そんな事が頭を過ぎったが、無駄な思考と首を振った。

（連中は魔法を使うのだ、ならば先手必勝っ）

「ディア、ルチル距離を詰めろっ。フレーシュはディアにスピードエフェクトを」

「ふんっ」

「了解っ」

　号令に飛び出すディアとルチル。

　フレーシュは詠唱を始め、ルーナは隙を伺い、ミニョンは俺の横で相手の出方に備えている。

「狩人達の狂想曲っ」

　俺は詠唱を行い闇の狼を生み出した。

　フレーシュも詠唱が完了し、ディアへと支援魔法を掛けた。

　其れを受けディアは、僅かに先を駆けていたルチルの横を過ぎ、アークデーモンに対し槍による刺突を放つ。

　半身になり其れを躱したアークデーモンは、短剣でディアに斬りかかろうとするが、槍による牽制に距離を詰められなかった。

「行けっ‼︎」

　ディアと交戦するのとは別の奴を狙い狼を放つ。

　狼は相手の頭部を狙い跳び掛かるが、頭を下げ前傾姿勢になり躱される。

「ルチル」

「当然・・・、はあぁぁぁ‼︎」

「・・・っ」

　見事、狼を躱したアークデーモンだったが、距離を詰めていたルチルに、その頭部を掴まれ膝蹴りを入れられる。

「グガッ‼︎」

　ルチルは短い呻き声を漏らしたアークデーモンの掴んだ頭部を、自身の肩に乗せ跳び上がり地面に叩きつけた。

「たあぁぁぁあ‼︎」

「ガアアアーーー‼︎」

　骨の砕ける鈍い音が此方まで聞こえてきそうな衝撃に、空間に響き渡る魔物の悲鳴。

「行きます」

「了解っ」

　素早く立ち上がり体勢を立て直したルチル。

　まだ、指先に反応のあるうつ伏せのアークデーモンに、とどめを刺そうとしたが、ルーナより掛かった声に奥の２匹に向かった。

「・・・っ」

「やりました」

「良いぞ、ルーナ」

　言葉通りアークデーモンの頭部を撃ち抜いたルーナ。

　撃たれたアークデーモンは声も上げられず、絶命してしまった。

「司様、奥を」

「ん？ディア‼︎」

　フレーシュの声に奥を確認すると、アークデーモンが短縮詠唱を始めいるのが見え、ディアへと指示を飛ばした。

「ちっ、人使いの荒い‼︎」

「文句を言うなっ」

「むっ」

　詠唱を完了し、黒く染まる炎を此方に放つアークデーモン。

　狙いはミニョンの様だったが、其れは着弾するどころか、眼前に迫る事も無く、ディアの炎を纏った尾により掻き消された。

「ガアァァァ」

「ちっ‼︎」

「ロックシールド‼︎」

　隙の出来たディアへと斬り掛かったアークデーモンの短剣を、ミニョンは岩の盾により防いだ。

「良し、行けっ」

　自身の斬撃を防がれた事に、一瞬身を固めてしまうアークデーモンに狼を放ち、其の足と肩を喰い千切らせる。

「ギヤアァァ・・・、ガッ」

　高く上げた絶叫だったが、其れを短く途切れさせたのは、ルーナとフレーシュによる頭部への射撃だった。

「残り、３匹。ディア、ボヤボヤするなっ」

「むっ、しておらんわ‼︎」

　魔法を掻き消した後、動きを止めていたディアへと檄を飛ばす。

　ディアは文句を言いながらも、後１匹となった前衛へと掛かった。

　ディアの槍による突きを短剣で受けたアークデーモンの側面から、俺の放った狼が襲い掛かる。

　バックステップで狼を躱したアークデーモン。

「逃すかっ」

「グガッ」

　其の足首をディアは槍で払い、アークデーモンは地面を転がった。

　其の瞬間、俺は狩人達の狂想曲の詠唱を行い、ミニョンはルチルと２匹のアークデーモンとの距離を詰めた。

　駆けるミニョンの横をルーナの放った弾丸が、倒れたアークデーモンの頭部に向かって飛んだ。

「ロックシールド‼︎」

　ミニョンの唱えたロックシールドが、２匹のアークデーモンの間に現れ、２匹を分断する。

「良しっ、駆けろっ」

　アークデーモンに駆ける５匹の狼達。

　多勢に無勢だろう。

　抵抗虚しく、アークデーモンは喰い千切られ、鮮血と肉片が飛び散った。

「ひゅ〜」

「ルチル」

「大丈夫。こっちは貰うよっ」

　戯けた様に口笛を吹いたルチル。

　ただ、集中は切らしておらず、自身に振り下ろされた短剣による斬撃に、躱しながら踏み込み肘をアークデーモンの顔面に当てる。

「グッ」

「まだまだぁ‼︎」

　其の勢いのまま、側頭部への裏拳を決め、自身の肩にアークデーモンの後頭部から首にかけてを乗せ、倒れ込みながら地面へと叩きつけた。

「ガアァァァ‼︎」

「これで・・・、終わりだっ‼︎」

「グゴッ・・・」

　とどめの一撃と、頭部にフルスイングの蹴りを喰らわせると、アークデーモンは完全に止まってしまった。

「終わったかぁ・・・」

　こうしてアークデーモン達との初戦は、俺達の完封勝利となった。