第156話


 いよいよダンジョン開通迄1週間となったある日、俺はリールに執務室へと呼び出されていた。


「リール様、用事とは何でしょうか?」

「司君にぃ、プレゼントがあってぇ」

「プレゼントですか?」

「ふふふ、此れよ」

「え〜と・・・?」

「私がまだぁ、現役の冒険者の時にぃ、使っていた物の残りなのよぉ」


 そう言ってリールから、両面に紋章が施された護符を5枚渡された。


「『帰還の護符』よぉ」

「帰還の護符ですか?」

「そうなのぉ、使い方はねぇ・・・」


 リールから受けた帰還の護符の使い方は、先ずダンジョンの入り口で片面の紋章に魔力を送る。

 そうして、ダンジョンの奥へと進んで行き、帰還したくなったら、残りの片面に魔力を込めるとダンジョン入り口に戻る事が出来るとの事だった。


「ダンジョン脱出のマジックアイテムって事ですか」

「う〜ん・・・、脱出だけでは無くてぇ、再開も出来るのよぉ」

「え〜と、つまり帰還する時に、もう一枚の帰還の護符を使っておけば、其処からダンジョン攻略が再開出来るんですか?」

「そうなのよぉ」

「かなり、便利なアイテムですね。本当に頂いて良いのですか?」

「勿論よぉ。無くなったらぁ、冒険者ギルドでも販売してるからぁ、補充すると良いわよぉ。・・・ちょっと高いのだけどぉ」

「そうですか。ありがとうございます」

「ふふふ、どういたしましてぇ」


 リールより他にもアイテムは有るので、一度アームの所に顔を出す様に言われた。


 その翌日の放課後。

 リールからのアドバイス通り、俺はルーナと街のギルドへと来ていた。


「お久しぶりです。アームさん」

「おお、若様。今日はどう言ったご用件ですかな?」

「はい。新ダンジョンの開通に向けて、冒険に必要なアイテムの購入をと思いまして」

「そうでしたか、では先ず此れを渡しておきましょう」

「此れは、魔石と制御装置ですか?」

「そうですじゃ。ダンジョンは闇に包まれておりますので、此れを使用して下さい」

「ああ、なるほど」


 そういえば、最初にルチルとダンジョンに入った時にそんな話をしたな・・・。


(・・・あれからもう1年かぁ)


 俺はこの1年を振り返り、あっという間だったと感じた。

 その後、アームから傷薬と魔力回復薬を購入した。

 傷薬3000オールに対して、魔力回復薬は10000オールとその価格差に驚いてしまった。


(まぁ、帰還の護符に至っては50000オールで、取り敢えずリールから貰った分を使用してから、購入する事にしたのだが・・・)


「そういえば、新ダンジョンはどんな魔物が出るんでしょうね?」

「そうですなぁ、強力な者なら此のギルドも賑わうのですが」


 アームの言葉通り、現在、リアタフテ領に有るダンジョンには、比較的弱い魔物しか居らず利益も少ない為、冒険者の質・量共に、活気があるとは言い難かった。


(まぁ、スタージュ学院も有るので、初心者冒険者向けの物が良いという考え方もあるのだが)


 そうしてダンジョン開通後の初の週末。


「いよいよ、だなぁ」

「そうですわね。緊張してきましたわ」

「そう?ミニョンって、ダンジョン初めてなの?」

「そうですわ。ルチルは違いますの?」

「うん。僕は去年の春、司と一緒にダンジョンの奥迄進んだからね」

「むっ、ですわっ。どういう事ですの、司さん?」

「ああ。ローズを助けるのを手伝って貰ったんだ」

「わ、私に頼んでくれたら良かったですのに・・・」

「いや、出会って無かったから」


 そんな事を話しながら、新ダンジョンの入り口に着いた俺達一行。

 メンバーは俺、ルーナ、ディア、ルチル、ミニョン、フレーシュの6名となった。


「それじゃあ、帰還の護符に魔力を込めて・・・」

「手慣れたものですね、司様」

「リエース大森林での成果だな」

「そうですね」


 俺がアイテムポーチから帰還の護符を取り出し、魔力を込めていると、ルーナから声が掛かった。

 帰還の護符は俺の魔力に反応し、片面の紋章が輝き、ダンジョン入り口の壁に溶け溶け込んで行った。


「此れでいつでも戻れる筈なのだが」

「取り敢えず、帰還時に使用しないとどの様な物か、分からないですね」

「そうなるよな」


 1度に使用出来る人数は10人迄らしく、それ以上の人数で使用した場合は、使用者以外の人数を超えた者達が弾かれるとの事だが・・・。

 そうして準備も済み、俺達はダンジョンへと進入した。


 踏み入ったダンジョンは、既に冒険者達が制御装置を壁に設置していて、灯りが点いていた。


「流石に入り口付近はもう明るいなぁ」

「その様ですね」

「ディア」

「・・・」

「ディア」

「なに、ちゅかさ?」

「そろそろ、戦闘形態になるんだ」

「ぶ〜。おねえちゃん、ちゅかさがいじめる」

「ディア、司様の言う通りにしなさい」

「え〜‼︎」

「ちゃんと言う事を聞いたら、今度お菓子を作ってあげるわ」

「ほんと〜?おねえちゃん、やくそくっ」

「ええ、約束よ」


 フレーシュに説得され、やっと九尾の銀弧の姿になったディア。

 屋敷に有った槍を貰い受け、其の手に握っていた。


「自分の役目は分かっているな、ディア?」

「妾に指図するでない」

「・・・」

「・・・」

「・・・ディア」

「・・・ふんっ、分かっておるっ」

「良し、行くぞ」


 ダンジョンを奥へと進んで行く俺達。

 先頭はディアとルチルが行き、その後ろを俺とミニョン。

 殿はルーナとフレーシュが務めた。


「そういえば、此のダンジョンの主要モンスターって、アークデーモンらしいね」

「あぁ、上級のモンスターなんだろ?」

「そうだね。人間と同じ様に武器も使うし、何より魔法も使えるしね」

「へぇ〜。詳しいな、ルチル」

「えへへ。でも、人から聞いただけだから、僕も見た事無いけどね」

「そうなのか・・・」


 見た事が無い。

 ルチルからそんな言葉を聞いた直後。

 5匹の魔物達と鉢合わせしてしまった。


「構えろっ、皆んな‼︎」


 俺は自身も首のネックレスに手で触れ、号令を飛ばした。

 其々に配置に着くパーティメンバー達。

 相手も其れに対応するかのごとく、フォーメーションの様なものを組むのだった。


(此れが、アークデーモンかぁ)


 対峙する魔物は頭に太く捻じ曲がった角を2本持ち、其の体躯は筋骨隆々で、鋼の硬さを想像させるものだった。


(手には短剣を持っているなぁ)


 パーティメンバー達が其々、武器を構えるのを確認し、俺は剣を手にして吠えた。


「行くぞっ、皆んな‼︎」


 こうして、俺達とアークデーモン達の闘いの幕が切って落とされた。

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