第145話
(此れ程迄に、此の魔法が魔流脈を含む身体に負担を掛けるとはな・・・)
今にも自身を飲み込みそうな深淵の冥闇を背に、俺は漂っていた。
確かに通常想定している範囲を超え、魔法を発動させたが此処までとは・・・。
(そういえば、ディアが逃走するのはギリギリ見えたが、フレーシュは大丈夫だっただろうか?)
きっと全ての火の玉を飲み込めたから、俺が此の状態になっている、即ち其れはフレーシュの無事を意味すると信じたかったが、此処まで苦しい思いをして彼女の身に何かあれば、其のショックは計り知れなかった。
(国王の御前で頼むと言われ、了承をしたのだし流石に何かあると問題だろうしな・・・)
「・・・つか・・・まっ」
遠くから声が聞こえてきた。
ルーナだろうか?
耳に閉塞を感じ、内容は聞き取れなかったが、俺を呼んでいるのだろう。
(何時迄も此処に居る訳にはいかないしなぁ・・・)
やっと、今回の任務の目的を発見したのだ。
国王に報告して終了にするにしても、ディアを捕らえるにしても動き出す必要があった。
自身を包み込む倦怠感を振り払う様に、俺は漂う其の身を起こすのだった。
「・・・痛っ」
「司様‼︎良かった無事で‼︎」
「ああ、ルーナ・・・、心配掛けたなぁ・・・」
「良いんです。大丈夫ですか、司様?」
「あ、あぁ・・・、ただ背中が痛むんだが?」
「・・・司様?」
「ん?どうした?」
俺を呼んでいたのはやはりルーナだった様で、身体を起こすと少し安堵の表情を浮かべたが、俺が背中が痛む事を伝えると驚きと心配の入り混じった表情に変化したのだった。
「背中は魔法を喰らったではないですか?もしかして、まだ魔法の影響が?」
「あっ、いや、大丈夫だ。そういえばそうだったな・・・」
「・・・本当に大丈夫ですか?」
「あぁ、本当に背中は痛むが、意識ははっきりしているよ」
「そうですか・・・」
俺からの返答にルーナはまだ納得はしていない様で、俺はルーナには悪いと思いつつも、状況確認をさせて貰う事にした。
「其れで此処は・・・、馬車の中の様だが?」
「ええ、あの後九尾の銀弧が逃走し、私達もブラート様の先導でリエース大森林より出たのです」
「幻術は大丈夫だったのか?」
「・・・ルーナには分かりかねますが」
「そうか・・・、フレーシュは?皆んな無事なのか?」
「はい、其れは司様の魔法のお陰でフレーシュ様も無事でした。今は他の皆様が周囲の警戒に当たって下さっています」
「そうか・・・、っ」
「司様、まだ・・・」
「いや、大丈夫だ」
「・・・」
俺が立ち上がろうとするとルーナは手を握り引き止めてきたが、俺は其の手を握りしっかりと握り返し、逆にルーナを引き寄せた。
見つめ合うのは一瞬。
俺は自身の唇をルーナの唇に重ねた。
「・・・んっ」
時は真冬、ルーナの薄紅色の唇はクールな双眸に似つかわしく冷たくなっていた。
其処に熱を生み出す様に、自身の唇を押し付け蠢かし、俺は自身の無事を伝えるのだった。
「・・・司様」
「な?大丈夫だろ?」
「・・・はい」
「行くぞ、ルーナ」
「はい」
俺からの口付けに生気を理解してくれたか、ルーナは馬車を出る俺に続いて来たのだった。
「おお、真田殿。気がついたか」
「はい、フォール将軍。ご心配をおかけしました」
「いや、貴殿ならきっと大丈夫だと思っていたよ」
「フォール将軍・・・」
「ふっ」
「其れで、ブラートさんとフレーシュは?」
「ああ、2人は此の辺りを見回りに行っている。・・・どうやら、1人戻った様だ」
「え?あれは、ブラートさん」
大森林の中より出て来るブラート。
当然、あちら側の警戒は俺が気絶していた事を考えると、彼にしか出来無いだろう。
「気付いたか、司」
「はい、ご迷惑をお掛けしました」
「ふっ、何が迷惑なものか」
「ブラートさん・・・」
「其れよりも、背中の傷を治そう」
「え?ブラートさん、回復魔法を使えるのですか?」
「いや、薬を使うのさ」
「薬ですか?」
「ああ、背中を出してみろ」
「はい・・・」
ブラートの指示に従い、服を捲り上げ背中を出す俺。
ブラートはアイテムポーチから、緑色の液体の入った瓶を取り出し、其れを俺の背中に垂らした。
「があああ‼︎」
「ふっ、沁みるぞ?」
「お、遅いですよっ、ぐあぁっ」
「ふっ、大袈裟な」
「ぐうぅぅぅ」
明らかにディアの魔法を喰らった時より痛む背中に、俺は本当に薬なのか一瞬疑いそうになってしまった。
「直、楽になる」
「は、はい・・・」
「遅れたのは悪かった。気絶したという事は、魔力の回復の為に、身体が強制的に意識を飛ばした可能性が有ったからな」
「そうなのですか?」
「ああ。其の状況で薬を使用して意識を戻すと、司の様に魔流脈に魔力を循環させ力を得る者は、逆に回復を遅らせる場合も有るのさ」
「・・・なるほど」
そういう理由で此のタイミングでの、薬の使用だったのか・・・。
俺はブラートの告げた事実に、彼からの遠回しの教えを感じ、其の知識を自身に刻み込むのだった。
「そろそろ、どうだ?」
「ええ、大分楽になりました」
「相手もかなりの使い手だ。今出来る治療は此れが限界だな」
「はい。ありがとうございました」
薬が染み渡り効果を実感出来る程回復する迄10分程だろうか?
俺は背中を普通に動かす分には問題無い状態迄回復したのだった。
「フレーシュ様も戻った様ですね」
「え?」
ルーナの言葉に顔を上げ、示す先に視線を向けると、フレーシュが馬に乗り此方に戻って来ていたのだった。
馬から降り俺の側へと来たフレーシュ。
「良かった。無事だったんだな」
「はい、真田様のお陰です」
「いや・・・、本当に無事で良かったよ」
「・・・」
聞いていたとはいえ、実際にフレーシュの無事を確認し、俺は安堵するのだった。
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