第93話


 突然のローズの妊娠発覚に沸くリアタフテ家の屋敷。

 だがまだ一応、フェーブル辺境伯軍との戦争は続いており、緊張感を失うわけにはいかなかった。


「私もアームさん達に合流しましょうか?」

「ううん大丈夫よぉ、司君は此のまま屋敷で休んでいてぇ」

「はあ、でも・・・」

「ふふ、もう山場は越えているからぁ、油断はダメだけどぉ、心配しなくても大丈夫よぉ」

「分かりました。では休ませて貰います」

「此れは現当主としてぇ、本当にお疲れ様でしたぁ」

「はい、では失礼します」


 俺とリールは女医からのあまり大勢で居座って、妊婦を疲れさせるなとの指示に、部屋を後にし廊下で今後の方針を確認した。

 俺はリールからの休養の指示に従い部屋に戻る事にした。


(アームやミニョンとフレーシュには悪いが・・・)


 アームとミニョン、そしてフレーシュはローズが倒れた事により俺が混乱している時に、1度屋敷まで届けてくれて、フェーブル辺境伯軍と睨み合いを続けるリアタフテ私兵団に、残りの兵士を連れて合流しに向かったそうだ。

 この合流で兵力差は逆転し、その場は此方が倍の兵力を擁する状況になった。

 この事で相手側が打って出る可能性は、ほぼゼロとなり、後は遅くとも王都からの応援が到着し挟み撃ちの状況になれば、降伏するのは決定的になったと言える。

 なお、フォールとディシプル軍は街の付近に捕らえられているそうだ。


「はあ〜・・・」


 部屋へと向かう廊下で、自然と溜息が出てしまった。

 突然の宣戦布告から約1日、本当に疲労が凄かった。


(暗闇を駆る狩人は外傷は治してくれたが、流した血までは戻らなかった様だ)


 お陰で俺の身体は一見無傷に見えるが、其の実中身はボロボロなのだった。


「司様」

「ルーナ、戻ってたのか?」

「はい、先程」


 俺が重い身体を必死に引きずり、やっと部屋に到着すると、そのドアの前にはルーナが待っていた。


「そうか、無事で良かったよ」

「ええ、ありがとうございます」

「それで・・・」

「はい、マスターにも無事会えました」

「そうなのか⁈で、何処に居たんだ?」

「学院の部室、ザックシール研究室にです」

「そうか・・・」


 ルーナから知らされたフェルトの無事に、俺は一先ず胸を撫で下ろした。


「それで、フェルトは何と?」


 此処での問い掛けは、消えた連合軍についてだった。

 フェルトが無事という事は、やはり彼女の仕業なのだろうか?


「ああ、その事については極秘事項だそうですよ?」

「・・・」

「何か?」

「いや、そうか・・・」

「・・・」


 今朝の会話から、方法について言及する事は無いと分かっていたが、想像した通りの答えに然し少し不満気な態度だったのか、ルーナから少し冷たいツッコミを受けた。


「司様、何故そんなに相手側の事が気になるのですか?」

「何故って・・・」

「もし其の戦場に私が居れば銃で射殺したでしょうし、司様が居れば魔法で仕留めたでしょう」

「・・・」

「そして、今回はマスターが居たので、私達では想像もつかない方法で仕留めたのでしょう」

「・・・」

「方法が酷ければマスターを責めるおつもりですか?」

「いやっ、そんな事は無い‼︎」


 理路整然と言葉を発するルーナ。

 其のポーカーフェイスも相まって、自身が責められている様な状況に、つい大声で反論してしまった。


「・・・でしたら、マスターが無事だった。それが全てで良いのでは?」

「あ、あぁ・・・」

「・・・失礼しました」

「いや、俺こそ急に大声ですまない」

「先程・・・」

「え?」

「先程、マスターの無事を伝えた時の司様の表情」

「あ、あぁ・・・」

「ルーナは、あの司様が好きです・・・」

「そ、そうか・・・、ありがとう」

「いえ、それでは、1度部屋に戻らせて貰います」

「あ、いや、俺達はもう戦場には戻らない予定だ」

「そうですか・・・」


 俺はリールからの指示をルーナへと伝えると、ルーナももう休むそうだ。

 魔力について確認すると、俺の身体を気遣って明日で良いと言ってくれた。

 そうしてルーナと別れ、部屋のベッドへと直行した俺は布団へと沈んでいった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る