第64話
サンクテュエール国リアタフテ領。
俺、真田司がこの春召喚された地も、秋が深まりつつあった。
此方に来て半年、色々な事があった。
そもそも俺が召喚された理由は、このリアタフテ領の次期当主候補のローズの婚約者としてだった。
最初は戸惑いも有り、ハッキリとした態度は取れなかったが、ローズの人となりに触れ、屋敷でのリールやアナスタシアやアンとの生活、そして大きな事件を経て晴れて正式に婚約となった。
また春より通い始めた学院では学院長のデリジャンの指導、ローズの親友であったルチルや級友アルメ、サンクテュエール貴族の娘ミニョンにその従者フレーシュとの出会い。
そしてアッテンテーター帝国からの留学生でザックシール研究室の室長フェルトとの出会い、それによりフェルトの作り上げたルーナを預かる事になるのだった。
(もう半年かぁ・・・、正直あっという間だったな・・・)
このサンクテュエールは日本と同じで四季のある国だ。
そろそろ冬も迫り、瞳に映るのはセピアの風景となってきた。
アンなどはそれを理由に朝寝坊が増えていたが、あの娘の場合は年中の事で、アナスタシアに布団の中から引き摺り出されていた。
(寝る子は育つっていうのになぁ、アンは・・・)
これ以上はアンの名誉に関わるからな、そう思い俺はそこで思考を止めた。
「んぅ・・・」
「?」
日頃使うベッドに比べかなり大きめの物、両手を広げてもどちらの手も端にはつかないそれ。
俺は隣で愛くるしい寝息をたてるローズに、腕枕を敷いていた。
「ん・・・、つかさぁ〜」
「ん?」
一瞬起きたのかと思ったが、寝言の様だった。
毎日会っているのに夢の中で迄俺と居るのか・・・。
そんなローズの何時もはルビーの輝きを放つ瞳に掛かっている長い睫毛に、より一層愛しさが増した。
「むにゅ・・・」
「・・・」
隣で眠るローズ。
その髪に触れた。
其れはまるで其処に何も無いかの様に柔らかく、然し其の桃色の瑞々しい輝きが確かな存在を放っていた。
「ん〜、?司・・・」
「おはよう」
「う、う、おはよ〜」
「悪い、起こしたか?」
「ううん、そろそろ時間でしょ?」
今日は休日で学院は休みだったが、そろそろ朝食の時間で、基本リアタフテ家では食卓は皆で囲むものというのが考え方なのだ。
「まだ少し時間はあるけどな」
「うん、でも起きるわ・・・、?」
ローズは身体を起こす時、俺が髪に触れていた為、引っ張られたのか其の手に視線を向けた。
「あ、あぁ、すまない」
「・・・、ふふ、司、変なの」
「え?」
ローズは俺の髪に手を伸ばし軽く触れながら、謝る事なんて無いのにと言った。
「だって、私の全部は司のものなんだから・・・」
「・・・ローズ」
「きゃっ」
折角の起こした身体を俺によって再びベッドに沈められたローズ。
「あんっ、だ、だめ司ぁ〜」
「・・・」
「あっ、あん、ん〜、・・・、んっ」
「・・・」
「も、もうぅ、司たらぁ」
俺はローズの華奢な守りたくなる身体を、激しく求めたのだった・・・。
「もう、遅いにゃご主人様もローズ様もっ」
「ああ、悪いな、アン」
「ごめんね」
「あらあらぁ、二人ともお寝坊さんなんだからぁ」
「・・・」
俺達が目覚めの情事を終え、食卓へと移動すると既にリール、アン、ルーナが席に着いていた。
「でもご主人様何処に行ってたにゃ?」
「何がだ?」
「さっきご主人様の部屋に洗顔道具を持って行った時には居なかったにゃ」
「ん?部屋は鍵掛けてた筈だが?」
「いにゃ、開いていたにゃ」
「そうだったか・・・」
そういえば昨日の夜はウキウキでローズの所に行ったから、部屋の鍵を掛け忘れていたか・・・。
(ローズの部屋に泊まりに行くの1週間振りだったからなぁ・・・)
身体が若返った影響か、宿る精神とそちら様がアンバランスになった最近の俺だった。
「ちょっと演習場に行ってたんだ」
「にゃ?でもベッドは冷たかったし匂いが残って無かったにゃ。夜中からトレーニングしてたにゃ?」
「ん、ん〜、そうかぁ、気の所為だろ?」
「にゃ〜?」
気まずそうに視線を逸らす俺に、食らいついてくるアン。
ローズも何処か居心地悪そうにした。
「でもにゃ〜、アンの鼻が間違える筈無いのににゃ〜」
「お、おぉ・・・」
「ふふ〜、あらぁ」
「・・・」
面白そうにするリールと瞳を閉じ鎮座するルーナが対比的だったが、何方も事実に気づいている事は伝わってきた。
「さぁ、アンちゃんご飯食べないと冷めちゃうわよぉ」
「にゃ、そうだったにゃ」
「お、おう、さあメシだ、メシ」
「そ、そうねっ」
「ふふふ、さぁ、いただきましょう〜」
リールからの助け船に有り難く乗る俺達だった。
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