第49話


 ルーナを拾ってくれたフェルトと言う少女。

 そのフェルトが室長を務める研究室にスカウトされたのだが、俺には全く理由が解らなかった。


「なんで俺をこの研究室に入れたいんだ?」

「そうね、それはまずこの子の説明からした方が良いのかしら」

「ん、この等身大ルーナのか?」

「ええ、そうよ」

「説明って、何をだ?」

「そうね、少し待って頂戴」


 そう言ってフェルトは等身大ルーナの背後に回り、服の背のボタンを外いていた。

 俺は慌てて視線を外して叫んでいた。


「お、おい・・・‼︎」

「ん、もうちょっと待って?」

「いや、そうじゃなくて・・・」

「う〜ん・・・」


 フェルトは俺の叫びにも上の空の反応で、何か作業をしている様だった。

 仕方なく俺は目を閉じるのだった。


「へぇ〜、やっぱり凄いのねぇ」

「・・・」

「ねえ?」

「何だ?」

「そろそろ目を開けたら?」

「あ、ああ」

「ふふ」


 見るとフェルトは作業が終わった様で、その隣に立っていた。

 だけど、何だこの違和感・・・。

 俺の目の前にはフェルトが居て等身大ルーナが有るだけで、先程までと変わらぬ光景なのに、明らかに違う空間になってしまっていた。


「ふふ、どうかしたの?」

「い、いや・・・」

「それでこの子の事だったわね」

「・・・」

「話の続きよ?」

「ああ・・・」

「まず私がこの子の作った理由から説明しようかしら」

「ああ、頼む」


 俺は拭えない違和感を感じつつも説明を聞く事にした。

 フェルトが等身大ルーナを作った理由、それは人工魔流脈の研究の為だそうだ。

 フェルトは生まれつき魔流脈が弱く、苦労してきたそうだ。

 その為自らの手で魔流脈を作り出し、自身の身体にそれを移植しようとしているそうだ。


「でも、魔流脈って移植出来るものなのか?」

「さあ?」

「さあって・・・」

「だって、まだ実現した例が無いのだもの」

「それはそうだが・・・」

「でもだからこそやる意味があるのよ」

「そういうものか」


 根っからの研究者とでも言うのだろうか、フェルトはそんな事を口にした。


「でも人工って事は形が有る物なんだろう?」

「ええ、そうよ」

「魔流脈って形が有る物なのか?」

「無いわよ」

「じゃあ人工魔流脈を移植しても、元々の魔流脈が無くなる訳じゃないんだろ?」

「勿論よ」

「じゃあどうやって機能的な移植をするんだ」

「それは制御装置で行う事になるわ」

「なるほどな・・・」


 フェルトは失敗しながら徐々に開発を進めるしかないと続けた。


「それじゃあ、この等身大ルーナには・・・?」

「ええ、人工魔流脈が搭載され、魔石で魔力を供給して動いてるわ」

「へぇ、どうやって操作するんだ?」

「ん、操作なんかしないわよ、この子は自分の意思で動いてるのよ」

「え〜と、人工知能みたいなものか?」

「人工知能?それってどういう物なの?」

「う、う〜ん、俺も詳しく説明出来る訳では無いんだけど・・・」

「そうなの、残念」


 フェルトは本当に落ち込んでいる様だった。

 仕方なく俺は自身の持ち得る知識で答えたが、きっと正しい情報とは言えないだろう。

 しかし、それでもフェルトは少し喜んでいた。


「でも、今聞いた話だとこの子は人工知能なんて凌駕しているのでしょうね」

「ん、そうなのか?」

「ええ。・・・ねえ、そうでしょ?」

「はい、マスター」

「ん、今、何か・・・?」

「ふふ、私じゃ無いわよ?」

「はい、私です」


 俺はまじまじと等身大ルーナを見た。

 確かに今この娘の口が動いて声が発せられた。


「何でしょうこの方は、少し失礼ですね?」

「あ、ああ・・・」

「ふふ、ルーナ。この人は貴方を見て驚いているのよ」

「ルーナですか?」

「そうよ、貴方の名は今日からルーナよ」

「そうですか・・・、解りましたマスター。現在より試作3号機はルーナとなります」

「お、おい、その名前は・・・」

「良いじゃない、これも何かの縁よ」

「縁って・・・」

「・・・」


 フェルトは何のつもりかは解らないが、等身大ルーナにルーナと名付けていた。

 当然?と言えるのだろうか、俺は複雑な感情なのだけど・・・。


「そう言えばこの娘って、魔石で動いてるんだっけ?」

「そうよ特別なね・・・」

「特別って?」

「ふふ、秘密」

「ふぅ、どうやら答える気は無い様だな?」

「ええ、勿論よ」

「まあ良い、だがそんな特別な魔石が幾つも有るのか?」

「無いわよ、必要も無いし」

「え?魔石って使い続けると廃魔石になるんじゃなかったか?」

「そういう事、ルーナに搭載している魔石は廃魔石化しないわよ」

「じゃあ、魔力が尽きた場合って・・・」

「補充するのよ」

「補充?」

「ええ、貴方がさっきやってくれたみたいにね」


 そう言って俺を指差すフェルト。

 だが、俺にはそんな事した覚えが全く無いのだが?


「ふふ、理解して無いみたいね」

「あ、ああ・・・」

「やっぱり凄いわね」

「ん、何がだ?」

「ルーナを起動させる程の魔力を供給したにもかかわらず、貴方は全く魔力が減った様子が無いのだから」

「そうなのか?因みに俺はどの位の魔力を供給したんだ?」

「そうねぇ、上級魔法数十発分かしら、その魔力でルーナは一日は活動できるわ」


 単純比較は出来無いだろうけど、龍神結界・遠呂智は中級魔法八発なのだからその魔力量はとんでもない物なのだろう。

 そうなると懸念は魔空間が発生しないのかという事だ。

 それだけの魔力により発生する魔空間はかなりの汚染が考えられるが・・・。

 俺の考えにフェルトは心配無いと答えた。

 魔力を使うのと供給するのとでは全く別物だそうだ。

 なのでこのルーナの活動についても問題は無いそうだ。


「その上で最初の話に戻るのだけど?」

「最初の話って、俺にこの研究室に入れって事か?」

「ええ、やっぱり貴方位の魔力が無いと、ルーナの起動は難しい様だし、毎日供給となると一緒に活動した方が便利だしね」

「成る程な・・・」


 そういう事なら俺へのスカウトは理解出来る。

 だけどなぁ・・・。

 確かにこの娘は見た目は完全にルーナで、魅力的ではあるのだが・・・。


「ちゃんと報酬も有るわよ」

「報酬ってのは?」

「勿論ルーナよ」

「「え?」」

「ふふ」


 俺と今まで黙って事の成り行きを見守っていたルーナの声が揃ってしまった。

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