第8話ひねくれ研究の部屋

 焼肉屋から出てまっすぐ我が部屋、佐間荘208号室へと向かった。

 我が部屋には矢田氏以外の人間を入れるのは初めてのことである。


「……戻ってきてしまったか」


 矢田氏が佐間荘に着いた途端ため息をつく。

 全くこの男は……。

 天音さんを見習いたまえよ。ワクワクしてくれているではないか!なぜ矢田氏はこうならないのだ……。


「ふっふっふ!さて、矢田氏のような凡人はほっといて、我が部屋を紹介するとしようではないか!」


「はい!行きましょう」


「なんでノリノリなんだ!やめておけ天音さん!奴の部屋はゴミ屋敷なんだぞ!」


「おいおい矢田氏よ。一緒に片付けたではないか?もう忘れてしまったのかね?」


「表面綺麗にしただけだ!」


「まあまあ。とりあえず入りましょうよ」


 うむ。やはり天音さんは物分かりがいい。先を行く天音さんを追い越して私が部屋の鍵を開けて扉を開く。

 錆びついた扉はギィーっと古めかしい音を立ててゆっくりと開く。

 真っ暗な部屋の中に入って蛍光灯を点灯する。


「さあ、入りまたえ」


「では遠慮なく。……うわぁー確かに汚れてますね」


「だから入らない方がいいと言ったじゃあないか天音さん。入るなら土足でも構わないぞ」


 矢田氏め!なんたることを言うのだ!

 土足など真っ平御免だ!


「そうはいきません。ちゃんと脱ぎますよ」


「よかったよかった。全く矢田氏よ。君と言うやつはとんでもないことを言うな」


「これだけ汚れていれば土足でも変わらんだろうが」


 私は押入れから座布団を取り出して適当に埃をはたいて置いた。

 一応人をもてなすわけだからな。それくらいはしないでもないのだ。

 矢田氏は座布団の上に嫌々座り、天音さんは部屋の中を見て回っている。


「これはこれは。本当に大量の創作物と研究道具で溢れてますねこの部屋は」


「ただのガラクタだろう?」


「矢田氏よ、わかっていないな。ガラクタなど今この部屋にはないのだ」


「そうですよ。結構考えられて作られてるものばかりですよ。これはいいネタになりそうです」


 そう言って天音さんは私の創作物や研究道具を写真に収めはじめた。

 矢田氏はそんな天音さんの行動を不思議そうに眺めている。


「……俺にはさっぱりだな!こんな物は」


「だから凡人なのだよ。君と言う奴は」


 私は部屋の隅に置いてある小さな冷蔵庫から飲みかけの500mlペットボトルの緑茶を取り出して飲み干した。


「矢田氏、天音さんよ何かいるかね」


「俺は結構だ!」


「私もいいです。さっき結構飲み食いしましたので」


「そうかね」


 私は空になったペットボトルを投げ捨て敷きっぱなしの敷き布団の上に座った。


「ちゃんとゴミ箱に捨てろ」


「構わんのだよ。何故ならここは私の住処なのだからな」


「すみません。随分と写真を撮ってしまいました」


 写真を撮り終えた天音さんが我々の近くに座った。

 結果的に丸い古臭いちゃぶ台を囲んで座ることになった。


「……何もないなら帰るぞ?」


「それは困る」


「じゃあ何かする気なのか?」


「当然だ。何のためにわざわざ君を連れ戻しに焼肉屋まで赴いたと思っているのだ?」


「……じゃあ何だよ」


「我が研究施設の作成を手伝いたまえ」


「ふざけんな!なんで俺が……」


「面白そうですね」


 おっと?天音さんよ。なかなかわかってくれるではないか!こんなに私の考えに賛同するものは今までいなかったぞ!


「やるかね?」


「ええもちろん」


「ではやろう。よし矢田氏。準備するぞ」


「…………。もう好きにしてくれ」


 矢田氏が諦めた。こうして仕舞えばもう私の勝利と言えるだろう。

 さあ、我が研究施設の作成を始めよう!

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