第68話~魔法瓶

 ワープして来たのだからと、雨が止むのを待たずに杭を確かめる事にした私達は、三人で杭の所に向かう。

 この世界にも普通にあったブルー色のビニールシートをかぶせてあったので、場所はすぐにわかりました。

 それでどうやってこの杭が、生命の枝か調べるのかと思ったら振り子を使うそうです。

 ユージさんが、振り子に魔力を注ぐ。


 「生命の枝を探して」


 ユージさんがそう言った途端、振り子は大きく円を描き揺れました!

 つまり、ここにあると言っています。


 「やっぱりこれは、生命の枝だったんだ」

 「うん。これで作れるね!」


 ユージさんの言葉に、私も大きく頷き言った。

 これが全部魔石になれば、結構凄い量だけどね……。


 「錬金術師様……今度は何を作るおつもりなのですか?」


 バジーくんの質問に私達は顔を見合わせる。作れる事が知れてしまえば大変だからです。

 錬金術師が選ばれる訳は、ここにあったかも。

 ユージさんは、こくんと頷きました。きっと大丈夫と。


 「君を信じて話すよ。魔石を作るんだ。作業を行うのにどうしても必要な物だからね。だけど、絶対に他の人には知られてはダメな事だから言わないでほしい」

 「うん! 誰にも言いません!」


 バジーくんは、信用された事が嬉しいのか、魔石が作れる事が凄くて興奮しているのかわからないけど、凄く目を輝かせている。


 「じゃ、また粘土作り手伝ってもらってもいいかな?」

 「はい!」


 私達はまた、虹の刻を粘土作りに当てる事にしました。

 一生懸命最後の魔石をユージさんが臼で粉にして、バジーくんと私は土に混ぜてバケツに入れて行きます。

 量は魔石の分だけになりますが……。

 それでもなんとかバケツ10杯分になりました。

 魔法陣を描く為に取って置いた魔石一個を除いて、全てを粉にしたので何だか心細いです。


 雨が上がり、暮れの刻になりました。

 外に出て、まだ湿った地面に粘土の魔法陣を描き、そこにバケツごと土を置いて粘土の完成です。


 って、ここからが大変なのですが。

 魔石の作り方は、魔法瓶に素材を入れてひたひたに水を入れた後に七色の種を入れ、魔法陣が描かれた魔法の蓋をすると、素材が魔石になるらしいのです。


 「本当は、全部を魔石にしたいところだけど無理だから、魔法瓶に入るだけだね」


 そうユージさんが言いました。

 私もそれしかないと思う。


 って、またもや私の考えが甘かった。

 魔法瓶ってリアルだと保温の入れ物の事を指すけど、ここでは違ったのです。

 言葉通り魔法のビンだった!


 ビンの底に風車みたいな感じで、三角形をずらして設置しなくてはいけません。その三角形は、全て同じ大きさで半円の魔法陣を描かなくてはいけなかったのです。

 三角形の作り方は、一応書いてありました。

 正方形の物に魔法陣を描き、三角形になるように切る。右上の角から左下の角に向かって直線で切れば三角形に切れるので、これを三つ作れば六個の三角形の出来上がり。

 因みに魔法陣を完成させてはいけないので、下書きの段階で三角形にします。


 なので、ビンと正方形三つ、ビンの蓋を作らないといけません。

 粘土の割合が大変です。


 それから、出来上がった正方形を三角に切る事が出来るのか? という疑問が湧き、窯で焼く前に三角形にする事にしました。

 下書きが焼き残る事を願いつつです。


 ビンは、底と入り口、つまり底と蓋を乗せる部分が丸ければ、他の大きさも形も問わないようなので、ユージさんの提案により花瓶のような形にする事になりました。

 途中が膨らみ、上が細くなっているツボのようなデザインです。

 大きさは、人がすっぽりと入れる大きさの入り口に高さの予定。


 取りあえず、底と入り口の大きさを決め、三角形と蓋の大きさを決めました。

 先にそれらをつくり、余った粘土でビンの大きさを決める事にします。

 蓋はマンホール程の大きさで、底はそれより少し大きい程度。

 これなら、魔法陣を描ける大きさなので大丈夫でしょう。


 三角形は出来るだけ薄く作ります。

 そういう訳で、正方形を三つ作り、魔法陣の下書きをしてからそれぞれ三角形に切ります。折り紙なら半分に折って、ピッと破くところなのですが、そうもいきません。幸い直線なので棒をあて切りました。

 それを作った六個の窯に、それぞれ入れます。

 その間に蓋の部分も粘土で作りますが、これはまだ焼きません。


 そして出来上がった三角形に魔法陣を描いて完成なのですが……よかった。下書きが少し黒く色づいて残っています。これならなぞれます。

 その間にユージさんとバジーくんは、ビン作りです。


 一息ついてユージさん達を見ると、バジーくんがビンを支えユージさんが肉付けをしてる。私も一段落ついたので、お手伝いです。


 「ユージさん私も手伝うわ」

 「ありがとう。でも、大きいとこうも大変なんだね」


 ユージさんの言う通り、大きなビン作りは大変でした。何が大変かと言うと、バランスです!

 ある程度背丈があると、重い方に倒れてしまう。微妙な重さで倒れてしまうので、苦肉の策で三つの棒のような物を付ける事にしました。

 これ、ビンとして認定されるのでしょうか?


 先に円を描かずに窯の魔法陣の模様を描き、途中からその上でビン作りをしました。

 出来上がるのに一時間以上かかり闇の刻になってしまい、しかも形は最初のイメージとは程遠い物になっている。

 ビンの底と入り口は、最初の予定通りの大きさ通りですが、ビンの形は一応丸いけど寸胴です。高さもユージさんの腰の高さまでしかありません。

 その半ぐらいの高さから三本棒が伸びていて、ビンを支える形になっています。

 わかりやすく言うと、コーヒー缶に棒がくっついている感じに見える。でも私達の力作です!


 最後に魔法陣の円をなぞり、発動させるとビンは無事に出来上がった。

 しかし不思議な物で、こんなに大きくても一人で持てる程軽いのです。

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