第2章 5-5 三種の炎
オレの死の瘴気と殺気を見て、火の服を着た小っせえおっさんが一瞬顔色を変える。だが、すぐにまたあのふざけた奇声をあげてヒョコヒョコと踊りだした。相変わらず万歳の姿勢で、その両手から真っ赤に燃える薪や石炭をばらまいている。この石みてえに硬え灰色の地面に、ころころと火花を散らして大量に燃え盛る薪と石炭が転がる。まるで無尽蔵だ。どれだけ出せやがるんだ、こいつ。
「……?」
っかしいな……オレの結界が効いてねえ……こっちの世界じゃ無効なのか……魔力が足りねえのか……魔法じゃねえのか……。オレの世界の魔法とは法則が異なるから、効果がねえというのは理解できるが……そもそも、やっぱりこいつ、魔法というほど魔力を遣ってねえ。法則が違うんだろうな。
と、なると力勝負だ。こんな、手から石炭だすような奴じゃ、火付けがせいぜいだろう。戦闘力なんざあゼロだろうぜ!
オレが隙をついて、そいつを掴みにかかる。マヌケな動きで大して素早くもねえから、ガッシとその細え胴体を掴めたが、その瞬間にそいつ自身が燃え上がって炎となり、オレの手からすり抜けやがった。
そして、ちょっと離れた場所でまた小っせえおっさんの姿となって、けたたましく笑いながら火付け踊りだ。
こいつ……やっぱり土蜘蛛とは違うな……物質と非物質を自在に転換できやがる。
しかも、オレの世界の概念で云う魔法じゃねえ。じゃあ、なんなのかってえと、これもさっぱり分からねえ。
ちょっと、厄介だぜ。
「ゾン! だいじょうぶなの!?」
いやはや、ユスラに心配されるたあ、世も末だねえ。どうしたもんかね。やっぱり、ほっとくか。
「おい、ユスラあ」
「なに」
「帰ろうぜ」
ユスラが悪魔みてえに笑いやがった。
「ふ・ざ・け・ん・な!!」
ごもっとも……。
早々に小っせえ火のおっさんへ振り返り、オレは戦法を変えた。魔法でもねえ、力技でもねえときたら、正直オレに打つ手はねえんだが……搦め手でやってみるぜ。
オレは自分の手へ火を吐きつけて、炎のグローブでもはめてるみてえに両手を燃え上がらせた。ゾンビなんだから本来、火はご法度だが、自分の火だしドラゴンの息吹は魔法の火でもあるので、これくらいの藝当は朝飯前よ。
火は火で相殺してやるぜ。
さらに小っせえおっさんの歩いてる先へ細く火を吐きつけ、蛇みてえにおっさんの周囲をはい回らせる。おっさんは最初、周囲に火が回って喜んでいたが、それが自分の火でねえと分かると歯を食いしばってこっちを睨みつけた。
生意気を通り越して滑稽だね。誰にガンつけてると思っていやがる。
「ゾン、逃がさないでよ!」
「わかってるよ」
オレは炎を操り、おっさんを囲っていった。同じ炎だが、根源が違うぞ。てめえにゃ同化できねえだろ。逆に炎の檻だ。
ハッ、小っせえおっさんめ、火に化けて逃げようにもオレの炎に阻まれ、にっちもさっちもいかねえぞ。こいつぁ、うまく行ったみてえだな。いま、この炎の手で握りつぶしてやるぜ!
そう思って間合いを詰め、引きつったツラのおっさんへ掴みかかろうとしたその瞬間。
横から、また別の炎が凄まじい勢いで巻きこんできやがった。
「……なんだ!?」
三種の炎が絡み合い、螺旋を描いて立ち上る。オレもグワッと口から火を吐いて、その風と共に逆巻く炎を払った。
するとその火め、翼をはためかせ、でっかい飾り羽のある鳥になりやがって、オレへその鉤爪を立てた!
「しゃらくせえ!!」
オレが両手で鳥野郎を攻撃すると、火が分散してかき消えたが、再び少し離れたところで集結して火の鳥となる。
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