第二章 俺たちのそのとき
Ⅰ‐ ①
月日は瞬く間に流れ去り、俺たちは輝かしい軌跡の数々と様々なバカの爪跡を残し、確かな一時代を築いた後、晴れて中学校を追放――卒業した。
俺とマシバとサコツとロッテの四人は、揃って同じ高校に進学した。
俺とロッテは大体同じぐらいの学力で、まあ普通に勉強すれば合格は間違いなかった。
マシバは狙えばもうワンランク上の高校に行けたところを「おまえらとまだバカがしたい」と言ってなにも勉強せずに楽勝で合格した。
サコツも同様に「おまえらとまだバカがしたい」と言って泣きながら猛勉強した末になんとか滑り込んだ。
ヤブだけは、学校推薦で地元の高専へ進学することが大分前に決まっていた。
さてそれでは、高校に上がった俺たちを待っていたものは一体なんだったのであろうか?
それは、非常に面白くない、不愉快な現実だった。
と言うのは、俺だけが感じたものだったのかも知れない。他の三人からしてみれば、状況はむしろ好転していたと言っていいだろう。
ただ一つ喜ぶべきことは、俺たち四人は一学年で十もあるクラスの中で、みんな揃って同じクラスになることができたということだ。
マシバの人気っぷりは、今やその隆盛を極めんとしていた。
この頃にはマシバも大分背が伸び、天性の爽やかイケメンフェイスも相まって、周りの女共からわーわーきゃーきゃー言われていた。
まあ、それはいつもと変わらないような光景ではあったが、一つ異様だったのは、同級生の女子よりも上級生の女子にモテていたということだ。
いやなに、マシバに愛しのラブビームを送る同級生の女子はそれはそれは多かったのだが、マシバの周りには常に上級生の女子が付き纏い、一年の小娘風情がそれに割って入る隙などまったくなかったのだ。
ところがその当時、俺たちの高校にはマシバと人気を二分するほどの絶世のイケメンがもう一人いた。
その男の名は、乱堂恭介(らんどうきょうすけ)。
成績優秀、運動神経抜群、生徒会書記にして次期会長候補筆頭、加えてバスケ部のエースという、天より二物も三物も与えられた、二年の化け物だった。ついでに言うと、親父が医者で、家は相当な金持ちだという。
そんなわけで、マシバの視界に入ることすら許されない一年の女子共の大部分がマシバをあきらめ、その視線は乱堂恭介に注がれることとなった。
そんな、天下を二分する二人のイケメンのことを、北中出身の乱堂恭介と南中出身の真柴孔明に掛けて「北の乱堂、南の真柴」などという声もあった。
そこへ行くと俺の存在というのは、マシバという上等なカシミヤのマフラーに付いた小さな毛玉のようなもので、まったくと言っていいほど誰からも相手にされなかった。
それでも、マシバは群がる上級生の女共を振り切って、毛玉である俺のところに来てくれた。俺はそれが嬉しかった。そんなマシバとこの先もずっと一緒にバカやっていけるんだったら、俺はもう毛玉でもビー玉でもパチンコ玉でもなんでもいいと思った。
さて、次はサコツの話だ。
サコツは高校に上がると同時に、イメチェンと称して側頭部に剃り込みを入れたり、ピアスを空けたりしていた。だから、ぱっと見のサコツはヤンキーの走りのようだった。
しかし、悲しいかな、サコツは背が低かった。そして、少し童顔だった。そんなサコツを見て、一部の女子はサコツのことを「かわいい!」と言って持て囃したのだ。
男に対しては無類の強さを誇るサコツだったが、女に対してはさほど免疫力が高くなく、女子に面と向かって「かわいい!」なんて言われると、顔を赤くしてそそくさとその場を立ち去ってしまうのだった。それがまた女心をくすぐるらしく、最初の頃、サコツはクラスの女子からいいように玩具にされていた。
だがしかし、やはり男連中にしてみれば、サコツはあくまでも「最強」の称号を誇るサコツこと遠藤瞬であり、女の視線を集めるマシバとは対照的に、男共の注目を一身に浴びていた。
やはりと言うべきか、ロッテも人気があった。
ロッテの身長はゆうに百九十の大台を超えており、バスケ部、バレー部辺りから日夜、熱烈な勧誘を受けていた。そしてなにより、ロッテのおっとりした優しい性格や雑事を率先してこなす気遣い気配り心配りが女子にもウけ、ロッテは早々にクラスのマスコット的ポジションを獲得するに至った。
そんな三人に俺を加えた四人が歩いていると、嫌でも周囲の目を惹いた。
ところが、俺が先頭切って歩きながら、ふと振り返ってみると、いつの間にか後ろに誰もいないというようなことがしばしばあった。
他の三人はみんな、どこかで誰かに捕まっていた。
この時ばかりは、さすがの俺も気が萎えた。
それでも、俺を見る周囲の目は少なからずあり、その評価は「あの真柴孔明、あの遠藤瞬、あの松本燿兵といつもつるんでる仲のいいやつ」という程度のものでしかなかったが、そこら辺のしがない一般生徒よりも、よっぽど俺の認知度は高かった。
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