『桜の木の下で』④
サコツは骨折した鎖骨が完治した途端、
「俺は格闘家を目指す」
といきなりの小学四年生からの格闘家転向の意向を表明した。それを聞いた俺たちが「こいつはまた、性懲りもなく……」と思ったのは言うまでもない。
しかし、サコツは本気だった。
サコツはよっぽどリベリオンのスタイリッシュガンカタアクションに入れ込んでしまったらしく、ことあるごとに「クリスチャン・ベールの身のこなしは~」とか「近接格闘においてまったく隙がない上に銃、剣の類を寄せ付けないガンカタの動きは~」などとのたまっていた。
普段は極めて無口なサコツだったが、この時だけは堰を切った濁流のように滔々と熱い思いを語ってくるので、俺たちは驚くよりむしろ白けてしまった。
そんなサコツが始めた格闘技は、なぜか少林寺拳法だった。
「リベリオンは? ガンカタはどうしたんだよ?」
と訊く俺に、
「いや、あっちこっち探してネットでも検索してみたけど、ガンカタを教えてくれる道場が日本になかった」
と、サコツはぐうの音も出ないセルフ論破で、自らの唇を噛んだ。
それでも、サコツが少林寺拳法を始めたことは間違いではなく、それどころか当たりも当たり。大当たりの大盛況、大フィーバーの満員御礼大感謝祭だった。
サコツはめきめきとその腕を上げ、小六の時にはすでに十五歳以下の少林寺拳法国内第五位の座に就くまでに至った。
そうして、腕っ節の強さでは学区外にもその勇名を轟かせていたサコツであったが、中学へ上がると同時に、その名はたちまちの内に辺りを席巻した。
「あれが噂の遠藤瞬だ」
「少林寺が送り込んできた刺客だ」
「近付くと鎖骨を折られるらしい」
「牛乳三本一気飲みのサコツだ」
「市内陸上のフライングバカだ」
と、虚実入り混じった情報の数々が飛び交った。
そのせいもあってか、サコツのことは知っていても、その背後に俺という黒幕がいることは、最初の内こそあまり表立って知られることはなかった。
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