『俺の一番大切なトモダチ』①
「人間は、不自由の中でしか幸福を感じることはできない」
マシバ。
本名、
こいつとの出会いは幼稚園の時――とは先にも述べたことだが、マシバとはその後も小・中・高を通じてずっと同じクラスになるという、根っからの腐れ縁だった。
恐らくは前世からの因縁か、俺に「バカの箱」をくれた神様の思し召しかなにかに違いあるまい。
兎にも角にも、俺とマシバはいつも一緒だった。
こいつとの間に特別なにかあったというわけでもないが、それでも俺たちはいつの頃からか、メロンと生ハムのような、切ったら切れそうで切れない関係になっていた。
ある時、仲間内でバカ話に花を咲かせていると、不意に話題が俺とマシバの出会いの話になり、俺がマシバにそそのかされて糊を食わされたという話を恨み節のように茶化しながら話していると、マシバは俺に向かって、
「俺は一目見た時から、おまえが百年に一人のバカであることを見抜いていた」
と、素敵に失礼なことを言ってくれた。
間違いなく、こいつは俺の一番の良き理解者であると思った。
こいつの名前「孔明」は、三国志好きのマシバの父親が臥竜・諸葛孔明にちなんで付けた名前だった。その影響かなんなのか、マシバ本人もかなりの三国志好きだった。それじゃあ、自分に付けられた孔明という名前も気に入っているのかと問うと、マシバは「それとこれとは別だ」と言って不満そうな顔をするのだった。
そのせいか、マシバは人から下の名前で呼ばれることを嫌がった。だから俺たちはみんな「マシバ!」「マシバ!」とマシバを名字で呼んだ。
しかし、実際マシバはその名に恥じることなき優秀なやつだった。
小さい頃からかわいい顔をしていて、成長するにつれ、それはそれは端正なイケメンへと進化を遂げていった。
学校の成績も常に上位をキープしていたし、誰に対しても分け隔てなく明るく振る舞い、人から
「バカの才」である。
マシバはその明晰な頭脳を全力で間違った方向に使い、多くのバカげた計画を企てた。日常の取るに足らない細々したバカ、突発的なバカなどは俺の主導で行っていたが、その時々に訪れる大掛かりなバカに関して、そのアイデアのほとんどはマシバの頭脳から出た物だった。
まったく、こいつは本当に諸葛孔明の生まれ変わりなんじゃないかと思う。世が世であれば、こいつは一国一城の主か、天下人の側近として存分にその手腕を発揮し、世界史の一ページを塗り替えるほどの大働きをしたことだろう。しかし、今この時代に生まれ、俺のようなバカと一緒になったことがマシバの運の尽きだった。
といったようなことを俺が言うと、マシバはへらへら笑いながら
「バーカ。おまえらがいるから楽しいんじゃねえか」
と、嬉しいことを言ってくれるのだった。
そんなマシバの座右の銘は「エロスは世界を回す」である。
マシバ曰く、このエロスとは「知的好奇心を満たす飽くなき探求欲」ということらしかった。
マシバはVHSやインターネットの普及に、アダルトビデオやアダルトサイトが一役買っていると言い、ギリシャ神話や古事記のエロ話を持ち出しては「エロスこそが世界を回す原動力である」と、無駄に力説した。
その上で、マシバは俺のことを「おまえはエロスの塊のようなやつだ」と呼んだ。これには、さすがの俺も素直に喜べなかった。
つまりなにが言いたいかと言うと、マシバにとっては俺の存在その物が知的好奇心の対象なのだ、とそういうことらしかった。
そう言われれば、まんざら悪い気もしないではない。
では、そのエロスの塊であるこの俺は世界を回す原動力なのか? マシバに問うと、
「おまえには人を動かす力がある。それは、世界を回すことに繋がる」
などと、もっともらしいことを言った。
「それを言ったら、俺よりも人気のあるおまえの方が、力は上だろう?」
俺がそう言うと、マシバはへらへら笑って、
「確かに、人を集めることに掛けては俺はおまえよりも上だ。でも、集めた人間をどう使うかということにまで、俺は頭が回らない」
と言った。
そして、さらにこう言った。
「だから、シン、おまえが動かせ。俺はそれを、さらに良い方へと導いてやる」
とても、小学四年生が口にする言葉とは思えない。
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