第40話 天才暗殺者、声をエコーさせる

 ――説明しよう!


『ドキッ! 温泉宿でバッタリ遭遇!? かーらーの、雨降って地固まる感じな、グレイの旦那とランのお嬢仲直りラブラブ大作戦!』とは!


 すごい気まずい雰囲気のグレイ・メルタとラン・ドラグが、温泉でバッタリ遭遇!

 ヤバーイ! このままじゃさらに気まずくなるのでは!?


 おっと大丈夫、こんなこともあろうかとちょっとイイカンジにしておいたからね!

 ワーオ、それは本当かい? それだったら大丈夫だね!


 これで二人はバッチリ仲直りして、それどころかさらに先に進んじゃうかもね!

 え、さらに先って何だい? も、もしかして……、ドキドキ!


 それはやってみなくちゃわからない! だからバッチリキメようぜ!

 いえす、おふこ~す! ゆあはいねす!


 という作戦なのさ!

 と、私は壁ドンされた状態でパニ・メディから聞かされたのだった。


「……質問」


 全てを聞き終えて、私は若干声に震えを残したまま、そう切り出す。


「パ、パニちゃん、この子、質問……、あるって……」

「あ? 質問だァ? 今の完璧な内容のどこに疑問があるか知らねぇが、何だよ」


 本気かこの凹バス。

 今のを作戦ということにまず戦慄を禁じ得ないが、さらに完璧て。……完璧て。


「な、何か震えてるよ、この子……」

「フン、アタシの作戦の完璧さに今さら感じ入ったようだな」


 私の震えを見たアム・カーヴァンに言われ、パニ・メディが腕を組んで得意がる。

 うわぁ、マジのマジの大本気で本気でやんすよ、こやつ……。マジか。


「で、質問って何だよ」


 パニに促され、私は今聞いた内容の最大の疑問点を口に出した。


「ちょっとイイカンジにするって、具体的には?」

「は? 何言ってんだ、そこはテメェがどうにかするトコだろ」


 全部こっちに丸投げかァァァァァァァァァァァい!!?


「……パ、パニちゃん?」


 骨まで焼き尽くす地獄の劫火な無茶振りに、アム・カーヴァンすら目を丸くする。


「ンだよ?」

「あの、さ、さすがに無理が過ぎるんじゃないかな、って……」


 ジロリと自分をねめつけるパニに、それでもアムはおずおずと意見を述べる。

 すると、パニ・メディはフゥと一度息をつき、


「ンなこたぁ、アタシだってわかってンよ」


 わかってるのに何故そんな無茶振りができるのか!

 聞こえないの? あっしが全身であげている悲痛な叫びを! この絶望の嘆きを!


 ……聞こえるワケないか。


「けどよ、それをするのが『責任を取る』ってコトじゃねぇのか?」


 急に、パニ・メディの声音が神妙なものになる。


「ここにいる透明人間様が何考えてあの二人にちょっかいかけたのかなんぞ知らねぇけどよ、理由はどうあれ、ちょっと見てらんねぇ状況なんだよ。旦那も、お嬢も」


 グレイ達のことを考えているのか、パニ・メディは目を伏せて、また重い溜め息。


「このままランのお嬢がパーティーから抜けるなんてことになってみろよ。きっと、アタチ達はそのまま空中分解だ。……そんなのァ、御免こうむるんだよ」

「う、うん……、それは、いや、かな……」


 声を低くするパニに、アムもコクコクうなずく。


「う……」


 そんな二人の様子が、私の胸の奥に痛みをもたらす。

 この、ゆるくも厳しく締めつけてくるような感覚は、馬車の中でラン・ドラグの独白を聞いたときに感じたものと同じ――、心に生まれた呵責が、私を苛む。


「――居心地がいいんだよな、旦那のそばは」


 フッとパニ・メディが笑って顔を上げる。

 その表情には、仲間に対する確かな親しみと好意が素直に表れていた。


 やめてほしい。

 そんな顔をされたら、私の胸が余計に痛む。もう、やめてほしい。


「だって賭場でスッてもあんま怒られねぇしな」

「うんうん、そーだよね。時々、競馬代貸してくれたりするもんね」


 おっと、胸の痛みが一気に消えたゾ。


「っつーワケで、アタシらの明日のギャンブル代と安寧のため! テメェにゃ絶対に責任取ってもらうからな! 逃げられるたぁ思うなよ。透明人間さんよォ~?」


 パニ・メディにめっちゃガンつけられてる、あっし。


 あー、でもなー。何だかなー。

 そっかー、ギャンブル代かー。そっちかー、そういう理由かー。


 何か、残念だ。


 いや別に、私がこの二人に何かを求めてるワケじゃない。

 むしろ、逃げられるならさっさと逃げ出した。

 それでも、ラン・ドラグ達のことだから、と、私もここまで話を聞いてきた。


 しかし結局、この二人は己の都合を優先して動いたのみに過ぎなかった。

 当然、二人には二人の都合があり、理由があって、行動を起こそうとしている。

 そんなことは私だってわかっている。


 ……なのに、どうして私は残念だと思っているのだろう。何故。


「今の環境を壊されてたまるかってんだ。アタシは心安らかに博打してぇんだ」

「だ、だよね~、うん、私もそうだよ~」


 私が見ている前で、人間のクズ×2が通じ合っている。


「――っていう、建前なんだけどね~」


 ……ん?


「あ? 何言ってやがる、アム」

「フフ~、パ、パニちゃんは、こういうとき、ぜ、絶対に本音、出さないもんね」


 アム・カーヴァンが、ニコニコしながらのパニ・メディを見ている。

 あれ、何か風向き変わってきた?


「ほ、本当は、グレイさん達に、ただ、仲良くしてほしい、だけだもんね」

「何言ってやがんだ、テメェは。アタシはそういうのは――」


「私はね、グレイさんのこと、好きだよ?」

「は?」

「ぴ?」


 ……え? 好きって、ん? え?


「もちろん、ランちゃんも、す、好き。だから、仲直りしてほしいなぁ」


 あ、はいはい。そういう好きね。うん。友愛、親愛、麗しいなー。


「……フフ、そっち、だけじゃない、けど」


 笑みを深めるアム・カーヴァンの頬は、ほんのり朱に染まっていた。

 あれ、あれぇ? はにかむようなその笑み、何でやんす?


「パ、パニちゃんも、だよね?」

「…………チッ」


 アム・カーヴァンに笑顔を向けられると、パニ・メディは押し黙ってしまった。

 あ、こっちも顔赤くなってやんの。お、目ェそらしましたね?


「……うっせぇよ」


 そして半ば顔を背けての小声でのそんな一声。

 何だこのサキュバス可愛いな。抱きしめてほっぺすりすりしたくなる。


「とにかく! とーにーかーくッ!」


 いきなり、パニ・メディが声を荒げた。ごまかす気満々なのが透けて見えるゾ♪


「いいか透明人間! テメェがまいた種なんだからテメェがどうにかしろ! そしてグレイの旦那とランのお嬢を仲直りさせてそのままネンゴロにさせちまえ! そうしたらあとは入れ食いだ! 誰に憚ることなくアタシとアムも旦那を食っちまえる! だからできればあの二人をくっつけろ! できなくてもくっつけろ! いいな! いいなッ!?」


 ごまかすどころか本音ブチまけてきたァァァァァァァ――――!!?


「元々あいつらコンビだったんだ。そこに割って入る気はねぇ! むしろランのお嬢が旦那と結ばれるなら、こんなめでてェコトはねェ! そしてそうなりゃ、アタシらだって堂々と旦那のベッドに忍び込めるってモンだぜ! だから絶対くっつけろ!」

「え、あの……」


 私は、ついつい尋ねてしまった。


「………………………………そんなに好きなの?」


 アム・カーヴァンが、ちょっと難しい笑みを浮かべる。

 それを感じ取った様子のパニが、アムに「何て言ってる?」と問う。


「え、えっと、LIKEじゃなくて、LOVEなのか、って……」

「~~~~~~~~ッッ!」


 パニ・メディは顔を真っ赤にして、右手で壁をバンバン叩きだした。


 うひゃあ! やめてぇ!?

 当店は台パン禁止! 台パン禁止でやんすよぉ!


「……ワリィかよ」


 そして、急に叩くのをやめて、パニ・メディがそっぽを向く。


「アホみたいな加護授かってロクにパーティーも組めずにいたアタシらを、文句の一つも言わずに受け入れてくれて、体力クソザコナメクジのクセしてアタシらにいいところ見せるんだとか張り切って、踏ん張って、敵から逃げまくって、アタシラらのことちゃんと守ってくれて、しかも信じてくれるような、腹芸もできない頭足りてない超絶甘ちゃんなバカを、カッコいいって思っちゃワリィのかよ……」

「ううん、そ、そんなことないよ。私も、パニちゃんと一緒、だから」


「テメェはダンジョンが恋人だろうが!」

「そうだね。だから、グレイさんは、ダンジョンの、次、くらい、かな……」


 ふてくされたようにして唇をとがらせるパニの頭を、アムが優しく撫でた。

 その様子を、私はただただ絶句したまま眺めるしかなかった。


「だからさぁ。なぁ、頼むよ……」


 そしてパニが私を見上げてくる。

 その顔が、今にも泣きだしそうな感じに歪んでいた。


「どうにかしてくれよ……。あの二人を、仲直りさせてやってくれよ」


 それは、これまでとは全然違う、あまりにも真摯で切羽詰まった懇願そのもの。


「アタシらじゃ無理なんだよ。下手に触るのも怖ェンだ。触って、それで二人の関係を本当に壊しちまったら、そうしたらさぁ、もう。もうさァ……」


 そんなコト、私に言われたってどうしろというのか。


 言っていることはわかる。

 けれど、自分の意気地のなさをこっちに押し付けないでほしい。

 自分の言い分がどれだけ身勝手なものか、わからないワケではないだろうに。


 私はそう思った。思った上で――、


「……結果については保証できかねますが、微力は尽くします」


 それでも今の私には、そう答えることしかできなかった。

 だって、はねつけることなんてできない。あんな顔で頼まれたら、断れないよ。

 彼女の言う通り、これは私がまいた種でもあるんだから。


 ――はぁ、ジンバの兄貴に会いたいなァ。


 パニとアムが去ったのち、一人その場に残された私は、深々と嘆息した。



 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



「一緒に温泉入って! お互いこれまでのことはお湯に流そうぜ、大会――――!」


 ドンドンパフパフ! イェア!


「……え、何?」


 場所は旅館のグレイ・メルタの部屋。

 畳敷きのそこに寝そべっていたグレイに向けて、私はやんややんやと手を打った。


「ほら、早く行くでやんすよ! 温泉!」

「え~……、もうちょっと休ませてくれよ~。歩きづめで疲れてんだよぉ~」


 言って、畳の上でゴロゴロするグレイ・メルタ。

 こいつマジでやんすか。旅館まで歩いただけでどんだけ疲れ果ててんの?


 こんな体力なしの根性なしに懸想するとか、あの凸凹バス、絶対趣味おかしいよ。

 やっぱ、ジンバの兄貴以外の野郎なんて、たかが知れてるでやんすよねー。


 ま、それはそれとして、やるべきことはしちまうでげす。

 これもまたグレイ・メルタ暗殺完遂のためには必要なステップでやんす。


 そう、仲間との絆を取り戻し、すっかり安心したこの男を背後からさっくり。

 う~ん、相変わらず完璧なマイプラン。

 あっしにこやつを葬られて泣きっ面に蜂な凸凹バスの顔が目に浮かぶでやんす。


 ……うっ、良心の呵責が!


「いきなり胸押さえてうずくまって何してんの?」


 グレイ・メルタが私に声をかけてくる。


「はぁ~!? 誰が自分のおっぱい揉みしだいて悦に浸ってる痴女でやんすか!」

「自分を犠牲にして人に冤罪おっかぶせんじゃねぇ!?」


「そんなことより温泉! 行くでやんすよ!」

「だから、何で俺も一緒なんだよ。一人で入ってこいよ~」


 再度私が言っても、やっぱりこの男は動こうとしない。

 何というグ~タラ。これは間違いなく将来女に養ってもらう系ダメ人間になるな。


 私の未来予測は未だかつて外れた試しがない。

 何せ、未来予測自体、今生まれて初めてやったからね! やったぜ100%だ!


 いや、そーじゃなくて。


「今じゃないとダメなんでやんすよ~。グレイ・メルタも一緒じゃないと~」

「何でだよ~、俺疲れてんだよ~……」


「あっしの綿密かつ正確な事前調査によって、今このとき、ラン・ドラグが温泉に入ってる事実が明らかになったんでやんす! ほらぁ、今! 今でげすよ!」

「……ランが?」


 私が急かすと、グレイ・メルタはやっとそれらしき反応を返してきた。


「そうですよ、ラン・ドラグですよ」

「いや、ランのヤツが温泉に入ってるとして、それで俺にどうしろってのよ」


「一緒に温泉に入ってごめんなさいすりゃいいんでやんすよ」

「おまっ、一緒に温泉ってなァ!?」


 こういう反応を見せるところがどーてーだって話なんでやんすけどねぇ。

 男の奥手なんて今どきどこに需要があるっつーんだか。


「別に混浴じゃないんだからいいじゃないですか」

「いや、でも、その……」


「男湯と女湯を隔てる壁越しにでも話せばいいんですよ。難しくはないでしょう」

「まぁ、そうだけど。だけど、なぁ……?」


 なぁ、じゃないが。


「もー! そんなトコで挙動不審やってる間にラン・ドラグが出ちゃったらどうするんでやんすか! あっしが考えた作戦が全部パーになっちまうでやんしょ!」

「作戦て、おまえは俺に何をさせてぇんだよ!?」


 ガバッ、と、グレイ・メルタが畳の上から跳ね起きた。


「俺とランのコトだって、元はといえばおまえのやらかしだろうが!」

「そうですよ! だから二人が仲直りできるように、口を出してるんでしょ!」


「えぇ……?」

「私だってね、おまえとあの人がこのままギクシャクし続けるのなんて望んでないんですよ! だからさっさと私の口車に乗って温泉に行って仲直りしてください! そしてそのあとで清々しく私に暗殺されてください! それで万事解決です!」

「最後だけは断固としてノゥ!」


 むぅ……。

 勢いに任せれば案外簡単に暗殺されてくれるかと思ったが、そうはいかないか。


「……で、俺が温泉に行ったとして、それで?」


 おっと、それでもどうやら、グレイ・メルタは私の話を聞く気になったらしい。

 これは助かる。私はかねてより考えていた策を、彼に授けた。


「別に、特別なことはしないでいいです。ただ、謝ればいいんです」

「謝るだけ? ……っつってもなぁ」


 グレイ・メルタは苦い顔をしながら自分の髪を掻いた。

 馬車でのこと、そして牛舎でのラン・ドラグの反応などを思い返しているのか。


「温泉って、気持ちいいですよね」

「ん? ああ、そうだな」


「リラックスできるでしょ?」

「だな。体の芯まであったまれるしな」


「つまり、安らいでるんですよ」

「……あ~、だから気分的にも落ち着けてる、って?」


 気づいたように言う彼に、私は小さくうなずいた。


「話を聞く土壌さえできてれば、あとは謝って終わりです。理由は、おまえの洗濯物の中にたまたまラン・ドラグの下着が紛れ込んでいた、とでもすればいいでしょう」

「…………う~ん」


 私が説明するも、しかし、グレイ・メルタが返す反応は渋いものだった。


「何ですか」

「いや、それ信じてもらえるかな、って」


 何だ、何を言い出すのだ。


「俺ってさぁ、あんまりあいつに信頼されてねぇんじゃねぇか?」


 ……は?


「下着云々以前にさ、俺はあいつを相棒って思ってるけど、それって実は俺だけで、ランは俺に合わせてくれてるだけじゃねぇのか、って……」


 言い終える前に、グレイ・メルタは激しくかぶりを振った。


「クソッ、そう考える自分にイラつくぜ。そんなヤツじゃねぇのは知ってるはずなのによ。……けどなぁ、あそこまで突き放されるとさぁ、自信なくなるんだよなぁ~」


 と、グレイ・メルタはその顔に苦悩を浮かべてのたまうのだが――、


「もういいからとっとと温泉行ってこいでやんす。おまえらお似合いだから」

「はぁ?」


 はぁ? じゃないが?

 それこっちのセリフだよ! 確実にこっちのセリフだから!


 ラン・ドラグとほとんど同じようなこと言いやがって!

 何だよ、結局こいつら徹頭徹尾似た者同士じゃんか! ぴー!


「オラオラ! 温泉行ってくるでやんすよ!」

「わかったよ、行く。行くから、腕ひっぱんなって!?」


 そして、私は強引にグレイ・メルタを部屋の外に連れ出して、大浴場へ向かった。


「じゃ、行ってこいでやんす。ちゃんと自然な感じで偶然を装って『おまえいたのかよ! 気づかなかったわ~、これは気づかなかったわ~』っていう風な態度でね!」

「それ逆にわざとくさいだろ。怪しさの上に胡散臭さをコーティングしてるだろ」


「口答えはなっしんぐ! さぁ、行くのです! 怪人仲直りしようぜ男!」

「へいへい、わかりましたよ、っと」


 そして、大浴場へ続く廊下を歩きゆくグレイ・メルタを、私は見送った。

 は~、やれやれ。

 これであの二人に気を揉むこともなくなりそうかなー。


 そう考えると、自然と口からため息が漏れた。

 それが安堵の息であることは、自分でもわかっている。不思議だとは思わない。


 ただ、意外だとは思った。

 どうやら私は、自分が認識していたよりも、彼と彼女に感情移入していたらしい。

 何たること。彼は暗殺対象で、彼女はそれを阻みかねない障壁なのに。


「う~ん、どうしたものか……」


 腕組みして、ひとまず部屋に戻ろうとする。

 そこで、フヨフヨと浮遊している大妖怪とスレ違いそうになった。


「およ、おんし一人かえ?」

「え? ええ。部屋に戻るところですが」


「坊と一緒じゃなかったんかい」

「グレイ・メルタでしたら、大浴場に行きましたよ」


「え?」

「え?」


 え?

 何でやんす、その「え?」は?


「ランも、大浴場に行っておるよね?」

「はぁ、そうみたいですけど、それがどうかしましたか?」


「え? え?」

「え? え? え?」


 大妖怪と私、疑問符大増殖。

 何でやんすか、この大妖怪の反応、一体何事でやんす!?


「おんしら、もしかして知らぬのかえ?」

「な、何がでげすか……?」


 ヤダ、すんごいヤナ予感するんでげすけど……。


「今の時間、大浴場は混浴の時間帯じゃよ?」


 はい、すんごいヤナ予感、的中――――! って、混浴ゥ!!?


「あれぇ! さっき確認したときは男湯と女湯に分かれてましたけど!?」

「時間帯によって変わるシステムなんじゃって」

「そのシステム、本当に必要なのかなぁッ!!?」


 いや、そうじゃない。

 ここで大妖怪と和気あいあいしてる場合じゃない!


 あっしの計画はあくまでも、男湯と女湯に分かれてることが前提!

 壁に隔たれながらもお互いを近くに感じる。その風情あってこその仲直り大作戦!

 それが混浴などとなれば、失敗! 瓦解! げ~むお~ば~!?


 私は駆け出した。


「ち、ちょっと大浴場行ってくるでやんすー! やんすー やんすー……」

「……エコーつきで走っていきおったな」


 大妖怪の声が聞こえたが、そっちに向ける余裕は一切なかった。

 お願い、間に合ってェェェェェェ――――ッ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます