第36話 天才暗殺者、天才重戦士に必勝の策を授ける

「話せば長くなり申すが……」


 コーコ老人は語り始めた。


「今から3億5000万年前――」


 え、冒頭からツッコミドコロ?


「この辺り一帯には超古代湯煙文明オルルタが存在しており申した」


 あ、冒頭からツッコミドコロですね。

 しかもかなり主張が激しいヤツ。


「皆も知っての通り……」


 知らないし。


「その頃、世界には七大古代文明が存在していたのですが――」


 世界規模かぁ。


「このオルルタ文明には全く関係ない話でしてな……」


 関係ないんかーい。


「だって超古代湯煙文明とか自称でしかありませんしな」


 自己顕示欲強い古代人もいたもんだなぁ。びっくりしたなぁ。


「そもそもこの話自体、オルルタを宣伝するためのでっちあげですし」


 おーっとついに自分からテーブルひっくり返したでやんすよ。


「ではそろそろ、本題に入らせていただきましょうか」


 本題じゃなかったんかーい!


 長い!

 前置き長い!


 そして無駄!

 ここまで一切無駄無意味!


 話せば長い? だけど意味ない?

 古代文明? 誇大妄想?

 妄想暴走、聞いてるこっちは絶叫しそう!


 YO! YO!

 チェケラッチョ、HEY!


 ……ハッ、あまりの無駄話っぷりに思わずライム刻んじゃったでやんす!


「おんし、相も変わらず前置きが長いのう……」


 大妖怪までもが半ば以上あきれ顔でそう言った。

 つまりはこのご老人、昔っからこんな感じなのかー。校長先生かな?


「恐悦至極であり申す」


 コーコ老人は控えめに笑ってそう言った。

 そこは「恐縮です」だろーが。


「で、早い話、何でチビロリ呼んだの。爺さんは」

「うむ、話せば長くなり申すが……」


「おおっと永久ループはやめておけよ。ウチのチビロリが火を噴くぜ?」

「待って坊、わしってサラマンダー扱いなの?」


「噴けるだろ?」

「噴けるけど」


 噴けるんだ……。

 マジでこの大妖怪、何でもありでやんすねー。

 でもあっし、「大賢者=何でもあり」はホントにどーかと思うよ?


「とゆーワケで爺さん、状況説明スパっとどうぞ!」

「“協会”が怖いので助けてくだされ」

「結論だけを述べりゃそりゃ短く済むわなぁ!?」


 いつもの如く響く、グレイ・メルタのツッコミ絶叫。

 くっ、あっし分かっちゃった。

 この爺さんも大妖怪とかと同じトンデモ面白人間でやんすね……!


 ハイ消えた!

 たった今、平和な湯煙旅情消えたよ!

 こんな爺さんとか“協会”とかが関わる一件が平和なワケないモン!


 ウン、知ってた知ってた! ……は~、泣きそ。


「オイオイ爺さん。あんた、アタシの兄弟子なんだろ? 大賢者ウルの弟子ともあろうモンが、何が『“協会”が怖い』だ? なっさけねぇな」


 しかしそこで、パニがズズイと前に出てきた。

 その口ぶり、そういえば彼女も大妖怪の弟子だったっけ。


「おまえ様は?」

「アタシはパニ・メディ、大賢者ウルの百八番弟子だよ!」

「今のところ、最後の弟子じゃのう~」


 その平らな胸を大きく張るパニの頭上を、大妖怪が浮遊する。

 私はパニと大妖怪を見比べて、なるほどとうなずいた。

 その小ささ、その胸部、そのちんちくりん加減。まさに師弟だな!


「ギン!」

「ぴッ!?」


 いきなりパニが鬼の形相でこっちを向いた。

 あれおかしいな! 見えてないよね? あっしのこと見えてないよね!?


「何か今猛烈にブン殴らなきゃいけない気配を感じたが、気のせいか」

「クッヒッヒッヒ、そうかもしれんの~」


 大妖怪も私を見てほくそ笑んでいる。

 こいつ、見えるからって! 私のこと見えるからって愉悦しやがって!

 ぴー! でも驚いた、今のはすんげー驚いたでやんしょ!


「ふむ、それがしの妹弟子であり申したか」


 コーコ老人がパニを眺めて自分のあごを撫でる。

 値踏みしている、というよりは孫でも見るかのようなまなざしだ。

 だがパニはそれが気にくわないらしく、露骨に嫌そうな顔を見せた。


「ンだァ、そのツラ。アタシを見下すつもりか? あ?」


 もはやパニの方はいつゴングが鳴ってもいいんだぜ感がみなぎっている。

 このままでは本当にハチャメチャバトルがスパーキングしてしまいそうだが、しかしコーコ老人はすっと手をかざして言った。


「それがし、戦う力もなき一介の魔術師でありましてな。ご勘弁を」

「ホントなっさけねーな! 大賢者ウルの弟子の名が泣くぜ!」

「されど、それがしが魔術師となった理由は戦う為ではありませぬゆえ」


「元冒険者とかじゃねーってか?」

「然り然り。それがしがウル様の弟子となった理由は――」


「理由は、何よ?」

「村の賢者ぶって余裕ぶっこくためにどうしても必要だったからですな!」


 最低な理由だった。


「村の連中やこの村をごくごくまれに訪れる若手冒険者にちょっとした雑学程度を仰々しく披露すればいいだけの簡単なお仕事! 何ということでしょう、それだけで金は入ってくるわ、村人からは賢者様と呼ばれるわ、別に体を張って戦わなくても村の重鎮ポジションに落ち着けるわ、まさによいことずくめ! それがしただいま老いらくのスローライフ青春最高満喫中ですぞ!」


 最低で、しかも最悪な動機だった。


「くっ、アタシより先にそれをやってるヤツがいただって!?」


 おたくもそれ狙ってたんか、ロリバス。


「大妖怪の弟子って、基本的に残念・オブ・残念でやんす?」

「…………そうでもないぞぇ?」


 大妖怪は言いつつも目の前の現実から目をそらした。

 こいつ、実は師匠するの下手なのでは?


「しかし! こたびはそれがしの最高スローライフに危機が!」


 あ、コーコ老人の説明、まだ続いてたんでやんすね。


「そう、あの忌まわしき“協会”の連中が現れたことで、村は混沌の坩堝へと叩き落とされたのであり申す! ゆえに御師様をお呼びした次第でありまして……」

「うんうん、なるほど。依頼の概要はちょっと分かった。でさ、じいさん」


「何ですかな?」

「温泉どこ?」


 おおっと、ここでグレイ・メルタが核心に切り込んだ――――ッ!


 それそれ、それよ! あっしらの最優先事項はまさにそれ!

 ジジイのくっだらねースローライフ青春白書とかマジいらねーでやんすし!


 おーんせん! おーんせん!

 ハイ皆さんご一緒にー! おーんせん! おーんせん!


「おーんせん! おーんせん!」


 あっしのことが見えてないはずのパニが一緒になって騒ぎ立ててきた。


 …………。


 見えてないよね

 見えてないよね?

 ちょっとこれ、あっし怖いよ?


「そこまでして温泉の場所を知りたいと……?」

「いや、それが楽しみでこの受けたワケだし、俺ら」


 グレイがこちらを振り向いて、「なー?」と同意を求めてくる。

 どうせ他の連中には見えてはいないだろうが、私は全力でうなずいて見せた。

 しかし、ところがコーコ老人、


「――実はその温泉への欲求こそが“協会”の狙いだとしたら?」

「な、何ィィィィ~~……!」


 瞳をキランと輝かせて、老人が話を変な方向に向かわせようとしてきた。

 律儀にも、グレイはその言葉に反応してしまう。


「それがしが知る“協会”の恐るべき点はまさにそこ……。そこなのです!」

「オイオイ、俺達は単に温泉に入りたいだけで……」


「以前もそう言われた人らがおり申したが、しかし彼らは――」

「え、どうなったの? その連中どうなったの!?」


「…………」

「眉間にしわを寄せながら無言でうつむくな! 気になるだろォォォォォ!」


 うううううううううううん、まさにジジイの思うツボ。

 どういうワケか、コーコ老人はここで時間を稼ぎたいようでやんすね。

 傍目に見てそれが丸分かりな程度の、雑で下手な演技なことよ。


 だが問題は、グレイ・メルタがそれにあっさり引っかかってるコト。

 何で? どーしてこの三文芝居を真に受けられるの?


 実はそーゆーとくしゅのーりょく?

 うわ、いらねー!

 そんなのスキルとか異能じゃなくてただのおバカよ!


 ――ああ、グレイ・メルタはおバカだモンね。あっし納得。


「味わい深い表情しとるのー、おんし」


 私の表情に気づいた大妖怪が自分の方こそ味わい深い表情を浮かべて言ってきた。


「甘い。素直。ダマされやすい。それこそがウルラシオンの誇るカモ、坊じゃよ」


 それ誇っちゃいけないものなのでは?


 おッかしいなー!

 冒険者って経験豊富で裏社会にも通じてる海千山千じゃないっけー!


 あのイノセントバカのおかげであっしの冒険者観が屍山血河で死屍累々よ!

 このままいったらしざんじゅうにししじゅうろく!

 よーし、自分でもそろそろ何言ってるかわっかんなーい!


「くっ、このあふれ出る温泉への欲求が“協会”の罠。一体どういうコトなんだぜ!」


 おまえのその丸め込まれ具合の方こそどういうコトなんだぜ!


「冒険者殿、あなたはすでに“協会”の罠にハマっておられるのです!」

「な、何だってー!?」


 ねーよ。

 ハマってるのはジジイが仕掛けたチャチい罠だけだよ。


「ああああああもおおおおおおお! グレイ! グレイ・メルタ!」

「ぬおお!? ンだよ、いきなり!」


 もはや見ていられず、私はグレイの襟首を引っ張って強引にこっちを向かせた。


 もうダメ!

 全然ダメ! ダメ! ダメすぎる!

 こいつ、冒険者なのに交渉や会話の駆け引きが致命的にダメダメじゃんかー!


 彼にはもう任せておけない。

 このままでは、私のめくるめく湯煙ハッピータイムが遠のくばかりだ。


 ことここに至っては裏社会にも精通するこの天才暗殺者が出てやるしかないだろう。

 私はグレイに、目の前のジジイ攻略法を伝授した。


「えぇ……」


 と、返ったきたのは、そんな戸惑いの反応だった。

 やれやれだぜ。

 これだからおぼっちゃんは困る。私の提案の意味が全く分かっていないらしい。


 だが説明している時間も惜しい。

 私は一刻も早く湯煙ハッピータイムに突入したいのだ。


「とにかくいいから、今言ったやり方でいくでやんすよ!」

「でもさぁ……」


「口答えはなっしんぐ! 返答はハイかYESかしすてむおおるぐりぃんで!」

「あ~……、分かった、やってみるわ」


 渋々ながらもうなずいたグレイ・メルタが、再びコーコ老人の方に向かう。

 グレイが不安げにこちらを見てくるが、大丈夫大丈夫!

 あっしが授けた方法なら絶対勝てるって!


 元気づけるように何度もうなずくと、グレイも意を決した様子で向き直った。

 私から見えるのは彼の背中だけ。

 しかし、今の私には雄々しいグレイの顔が目に映るようだった。


「とにかく爺さん、俺達は温泉に行きてーワケよ」

「お若いの、逸る気持ちは分かり申すが、しかしそれこそ“協会”の罠……」


 来た来た、コーコ老人の必殺・危機感煽って時間稼ぐ=ジツ!

 だがそうはいくものか。私は温泉に入りたいんだ。


 さぁグレイ・メルタよ、今こそ私が授けた必勝の策を発動するとき!

 裏社会に伝わる最強究極の交渉術をあの話し長い系ジジイに叩きつけてやるのです!


「いいから、温泉どこよ」

「短絡的になってはいけませんぞ、冒険者殿。それもまた――」


「いいから、温泉どこよ」

「焦られますな、冒険者殿。我々はまずは腰を落ち着けてこの事態に対処を……」


「いいから、温泉どこよ」

「やはり気になられますか。しかしそれを教えるのは「いいから、温泉どこよ」


「…………」

「…………」


 思いっきり言葉をかぶされて、さしものコーコ老人も口をつぐんだ。

 それを、グレイ・メルタがジッと直視している。


 よし、やったぞ!

 ついに我々はジジイの長話を撃退することに成功したのだ!

 見たか裏社会交渉術『おまえの話なんか聞かないモンねバーカバーカ!』作戦!


「ガキのケンカかぇ?」


 大妖怪の一言が何故か胸に突き刺さったが、シカトである。シーカート!


「――仕方、ありますまいな」


 私が耳を塞いで現実から逃げようとしていると、コーコ老人の声が聞こえた。

 深い嘆息ののちの言葉であった。

 またまた勿体ぶって、このジジイさんは。


「いや、そろそろ準備もできている頃でしょう。……向かうといたしましょうか」

「向かうってどこにだ? 温泉か!」


 そこにパニが食いついてきた。

 こいつ、めんどくさい交渉事はグレイに丸投げしておきながら……。


「うう、お、温泉あるなら入りたいですぅ……。馬車旅でクタクタだよぅ……」


 控えめながらも、アムはしっかりと自分の意見を言ってくる。

 でもおたくら、デッカイ馬車の中で悠々自適に過ごしてただけでやんすよね?

 疲れてるってんならグレイの方がはるかに疲れてるでやんすからね?


「では、こちらへどうぞ」


 パニ達の話を聞いていたのかいないのか、コーコ老人は踵を返した。

 馬車を村の端っこに置いて、私達は彼のあとをついていく。


 そこに見える景色を眺めながら、私は思った。

 う~ん、田舎。圧倒的ド田舎!


 どこを見てもあるのは、山! 田! 畑! 林! 木! 木! 木! 時々、家!

 すごいなー、どっち見ても同じ風景しかないぞー。

 洞窟や森林とは違った意味で方向性見失いそうでやんすねー、これ。


 いや~、肌に合わない!

 やっぱあっしみたいな最先端シティガールに田舎の空気は合わないでやんすね!

 はぁ、我が故郷サンシタペテルブルグが懐かしい……。


「なー、オイ、ムールゥ」

「む。何ですかグレイ・メルタ、呼び捨てとは失礼な」


「フルネームで呼び捨てはええんかい……」

「私はよいのです。おまえは私の暗殺対象ですから!」

「話が一切繋がってないのに凄まじいまでの自信を見せてきやがるな!?」


 どうやらこの男、『自分だけは特別』という法律を知らないらしい。

 しかし、彼の方から話しかけてくるとは珍しい。


「一体、何用ですか?」

「おまえ、この先に温泉あると思う?」


「え、まだそこに期待してるんですか、おまえは」

「オォイ!?」


「だぁぁぁってあのオジジ、あからさまにはぐらかそうとしてたじゃーん!」

「…………せやな」


 ええ、ですからもう私は当初の湯煙ハッピーフューチャーは捨てましたよ。

 今となってはとにかくお風呂にゆっくりと入りたい。

 私が願っているのはそれだけです。


 そんだけ、あの豪雨はきつかったンでやんすよー!


「ヘイヘイヘ~イ、グレイの旦那、旦那ってばよ~?」

「……何だよパニさん」


 いきなりパニ・メディがグレイの隣まで寄ってくる。


「なぁなぁ」

「だから、なーんだよ」

「さっきから誰と話してンだよ、あんた」


 ンぎっくゥ!!?


「ンぎっくゥ!!?」


 なななな、何をそんなに驚いてるんでやんすかグレイ・メルタァァァァァ!

 あっしは別に驚いてもいいけどおたくはダメなんだから――――ッッ!


「いやちょっとちょっと、パニさん何言ってんの? 誰とも話してねーよ?」

「あ~ん? そうかぁ? 何かさっきっから虚空に話しかけてるからよー」


 虚空に話しかけるってアブないヤツじゃないですかー!

 まさかそんな、グレイ・メルタがそんなヤツだったなんて……。


「……おまえと話してるときのことだからな?」


 ボソッと呟かれたグレイ・メルタの一言が、私の心臓を突き刺した。

 フ、フフ~ン。知ってたし……、知ってたしー!


「いや、独り言。……独り言よ?」

「ほ~ん、なるほどなるほど。独り言、ねぇ~」


 パニが疑わしげにグレイのことをジロジロとねめつけている。

 そんな彼の隣にいるのが、私なんだなー。

 あー、視線すごい。視線すっごい。見てるよー、ものっそいこっち見てるよー。


「……そんな疲れてンのか、旦那?」


 やがて彼女の口から出た言葉には、心配の色がにじんでいた。


「やっぱあれか、ランのお嬢のことか?」

「いや、それは……」


 パニの意外な言葉に、グレイもどう答えればいいのか分からないようだった。

 それは私も同じだ。

 彼女はグレイとランの件について面白がっているとばっかり思っていた。


 いくら人間のクズでも、やはり仲間は仲間、ということなのだろうか。

 いくら人間のクズでも。


 ちなみに、ラン・ドラグはかなり離れた場所にいる。

 一応、そこにはアムもいるが、ランは一回もこちらを見ようとしなかった。

 やはり、おぱんてーの一件が尾を引いているのか。


「なぁ、旦那よぉ」

「ま、まだ何かあるのかよ……」


「いや、そんなに悩んでるならよ――」

「お、おう……」


 完全に狼狽しているグレイに小柄な身を寄せて、彼女は小声でささやいた。


「アタシが慰めてやろうか、ベッドの上とかでさ」

「な、な……、な……!!?」


 目を丸くしたグレイがその場から飛び退いてパニを見た。

 う~ん、反応がどーてー。こんなだからいいように遊ばれちゃうんだよなー。

 今のだって、パニがグレイをからかって遊んでいるだけに――


「旦那がその気なら、アタシはいつでもいいぜぇ?」


 …………あれェ?


「さて、着きましたぞ」

「おっと、やっとかよ。じゃ、行こうぜ旦那」

「あ、ああ……」


 パニに手を引かれて、グレイは豆鉄砲アタックされた鳩なツラのまま歩く。

 きっと、今の私も彼と同じような顔をしているに違いない。


 何だ、このどーてーそーろー、実は案外モテたりするのだろうか。

 えーウソだー、だってこいつ全然カッコよくないしー。

 男ったらやっぱジンバの兄貴みたいに知的かつワイルドじゃないとさー。


「こちらです」


 と、コーコ老人が案内してくれたのは――ンン? 牛舎……?


 そう、それは大きめに作られた牛舎だった。

 しっかりとした木組みの建物で、中に入ると積み上げられた牧草があった。


 しかし、牛はいない。

 そして牛舎特有の臭さも特にはない。


 見たところ、牛舎自体がかなり新しい感じだ。

 建てられたばっかりで使われていない、ということなのだろうか。


「皆様方、全員お入りになられましたかな」


 コーコ老人がこちらを向いて確認してくる。

 無論、彼には私のことは見えていないのだろうが。


「見えており申す」


 え?


「見えており申す」


 え?


「見えており申す」


 …………。

 よーし、もう深いところまで考えるのやーめた! 早くお風呂入りたーい!


 ここにいるのはコーコ老人と、私と、そしてグレイ達。

 あ、もちろん大妖怪もいる。相変わらずフヨフヨしていた。


「こんなトコに連れてきて、何するつもりだよ?」

「うむ、それですがな……」


 問うグレイに、コーコ老人が咳ばらいを一つ。


「実は先ほどの話についてなのですが」


 先ほどの話って、どれ?

 この爺さんの話とか、山ほど積み上げられた与太話しかねーんでやんすけど。


「――そう、超古代文明オルルタの話であり申す」


 …………あー、あったあった。最初の方にあったなー、そんな話。


「あれは九割、それがしの創作であり申したが」


 創作なんじゃん。


「創作は、九割までなのです」


 ん? 何て?

 皆が首をかしげる中、コーコ老人が壁にあるレバーを掴んだ。


 ん? レバー?

 皆が首をかしげる角度を五割増しにする中、老人がレバーをガコンと下げた。



 ズズ……、ン……。



「おぉ!?」


 いきなり地面が震えた。

 震動はすぐには収まらず、一度の大きな揺れのあとで小さな揺れが続いた。


「な、何!? 何何何何何何何何何何何――――ッッッッ!!?」


 グレイ・メルタ、驚きすぎ。

 おかげでこっちは一周回って冷静になっちまったでやんすよ。

 だからだろうか、私の耳ははっきりと、コーコ老人の言葉を聞くことができた。


「地下一階、古代遺跡オルルタに参りま~す」


 そこだけ猫なで声やめろ!!!!!!!

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