第21話 天才重戦士、判断を委ねる

 ランと一緒にギルドに戻ったら、


「グレイにーちゃぁぁぁぁぁぁん! 助けてなのよ――――!」


 これである。


「やだ」


 だから俺は丁寧にお断りした。


「どーしてなのよー! 可愛い妹分がお願いしてるのよー!」

「お礼も言えないような子はうちの子じゃありません!」

「あうう……」


 場所はギルドの二階にある部屋。

 またしてもここである。何か縁があるのか? そんな因縁いらんけど?


 周りには、俺とラン以外にメルとロクさんがいるだけだ。

 パニ達は“大地の深淵”突入のための準備を進めてるんだって。


 お土産買ってきたからあとで渡さないとなー。

 その前に、こっちをどうにかしないといけないけどさ。


「――で?」

「ひぅっ」


 俺がクゥナに目を向けると、こいつ、それだけで身を震わせてやんの。

 完全にビビっちまってんじゃねぇかよ。……ハァ。


「まず、言うべきことあるだろ」

「ううう……」

「言・う・べ・き・こ・と、あるだろ?」


 トントンと指先で新しく用意されたテーブルの上を叩きつつ、俺は言う。

 少しばかり、俺の追求はしつこいのかもしれない。

 だが、この辺りは人としてたがえちゃならん道理ってモンだろ。


「う……、――さい、なのよ」

「何て?」

「さ……」

「さ?」

「さっきは助けてくれて、ごめんなさいなのよ!」

「惜しい! 80点はあげるけど、まだ正解じゃなーい!」

「なーんーでー、なーのーよー!?」


 クゥナがさっきみたいに両腕をバタつかせて抗議してきた。

 う~~ん、仕方ねーなー。今回のところはサービスしておいてやるか。


「助けてもらったらありがとう。悪いことしたらごめんなさい。分かった?」

「うーうー! むーむー!」


 おまえはご機嫌ナナメな小動物か!

 だがこっちも退かんぞ。絶対に退かんからな。


「…………これまでごめんなさいなのよ。それと、ありがとなのよ」


 長い沈黙ののちに、クゥナはやっときちんとした謝罪と礼を口にした。

 や~~~~~~~~っとか、このバカ娘。

 俺は腕組みをしながらも、もう一度ため息をついて、


「はい、よくできました」

「何なの何なの何なのよー! どーしてそんなにクゥをいじめるのよー!」

「いじめとらんわ! このままじゃあかんから教えとんじゃい!」

「むー!」

「ええい、うるさい! 閑話休題! 話題切り替え! 話題を出せェい!」


 これ以上、こんな駄々っ子に付き合っていられるか!

 俺は自分の冒険準備に戻らせてもらう!


「う……、ヴァイスにーちゃんが……」

「マジで“大地の深淵”に行っちゃったの、あいつ?」

「多分……」


 断言はできないようで、クゥナはしょぼんとうなだれた。


「街中探したのよ。にーちゃんが行きそうなところ全部。でもいなかったのよ」

「で、それ以外だと一番可能性がありそうなのが――」

「“大地の深淵”、なのよ……」


 俺はメルとロクさんの方を見る。


「メルたん、『エインフェル』から攻略の申請ってのは?」

「メルたんではありませんし、そのようなものもありません」


 ――じゃあマジで申請なしで攻略に? ヤバくね?


「その場合って、どうなるんだ?」

「そうでございますねぇ。例えウルラシオンの若き雄たる『エインフェル』様でございましても、規約を守っていただけない、というのではギルドとしても示しがつきません。特にSランクダンジョンの攻略などは、数ある依頼、数ある冒険の中でも最も重要度が高いものでございますので、これに関する規約を無視されてしまってはギルドとしましても厳罰を課す以外にはございませんなぁ」


 さすがロクさん、セリフが長い。

 でもまぁ、語られた内容的には、そうなるよなぁ。って感じ。


「厳罰って……」


 顔を青ざめさせるクゥナに、メルが説明する。


「まず、ギルドから提供されるサービスの使用権利は全て停止されます」

「え、それって……」


 気づいて、クゥナは目を見開いた。


「そ、蘇生資格も……!」

「そうなります。ヴァイスさんが許可なしに“大地の深淵”に向かったと仮定した場合、そこで死亡しても蘇生されることはないものとお考えください」

「グレイにーちゃん!」


 説明を受けたクゥナが、飛びつくような勢いで俺にすがってくる。


「お願いなのよ! ヴァイスにーちゃんを助けてなのよ! もう他に頼れる人がいないのよ! クゥも一緒に行くから――」

「残念ですが、クゥナさんの同行は認められません」


 だが、メルが冷ややかに告げてきた。

 ビクリ。クゥナが震える。

 ただでさえ青ざめていたその顔から一層、色がなくなった。


「な、何でなのよ……」

「『エインフェル』はギルド規約に違反している疑いがありますので、その容疑はヴァイスさん個人ではなくパーティー全体にかけられます」


 つまり、今となっちゃクゥナも自由にはさせられない、ってことか。


「何でなのよ! クゥは悪いことしてないのよ! なのに……!?」

「落ち着け、クゥナ。おまえはここで待ってりゃいいだろうが。どうせウルラシオンのダンジョンにはこれから俺達も行く。だから――」

「グレイにーちゃんだけで何ができるのよ! いつまでもレベル3のクセに!」


 その一言――

 その一言はきっと、感情的になりすぎたがゆえの言葉だったのだろう。


 それが証拠に、言った直後、クゥナ自身がハッとして言葉を止めた。

 そして気まずそうに俺を見て、こいつはまたうなだれる。


 だが謝罪を口にしようとも、クゥナの本音がどこにあるのか。

 一発で分かる一言だったな。


「ふざけるなよ?」


 そしてランがキレた。


「おまえ、グレイに頼りに来て今の一言は何だ。どういうつもりだ」

「オイ、ラン」

「グレイなら助けてくれると思って来たんだろ? なのにそれか!」

「ランってば」

「グレイのレベルが上がらないのだって、もとはといえば――」


 おっと。


「ラン。それ以上言うなら一時間ぶっ続けで乳揉む」

「やめて!?」


 両腕でお胸の凶器をバッと覆って、ランが大きく後ずさった。


「おめーもブチギレて余計なこと言いなさんなっての。ったく」

「う、悪かったって……」


 ランが俺に謝ってきた。こいつも素直なこって。

 ま、大して気にしちゃいないし、それに、と、クゥナを見れば、


「うう、怖かった。すごく怖かったのよ……」


 すっかり縮み上がっていらっしゃる。

 天下の『エインフェル』が。最上位のAランクが。最強の王位級が。


 あー、いいザマですこと。

 そして、ここでグレイさんに絶好のチャンス到来ですわよ?


「おい、クゥナ」

「ひゃい!?」


 名を呼ぶと、クゥナはただちに背筋を正した。


「もう一回ナメたクチ叩いてみろ。こちらのラン先生をけしかけるからな」

「待て、僕は狂犬か何かか!?」


 獰猛注意という意味では似たようなモンじゃろが。


「で、おまえの狙いはそこなワケね。自分が“大地の深淵”に行くために俺達を口実にしようとした。一人で行くのが嫌だから。……そんなトコだろ?」

「……むぅ」


 クゥナは頬を膨らませてそっぽを向く。

 その通りでございますって言ってるようなモンですよ、その反応は。


「だがざーんねーんでしたー! おまえは今メルたんから言われた通り、『エインフェル』の規約違反容疑でダンジョンには入れませーん! そして俺もそんな風に扱われてまでヴァイスを探すつもりなんてありませーん!」

「むーむー!」

「では、依頼という形にするのはいかがでしょうか」


 言い出したのはメルだった。


「メルたん、どゆこと」

「メルたんではありませんが、言葉通りです」

「依頼にするって。ヴァイス達の探索を、かよ?」

「そういうことですね。これについては禁じられておりませんので」


 なーるほど。まぁ、そういうことだったら話は変わってくるかね。


「いいのか、グレイ」

「ラン、俺ら冒険者よ? ちゃんと報酬が出るなら、そりゃ受けることもあるっしょ」

「ほ、報酬なんて、そんな……」


 おー、困っとる困っとる。

 まぁ、金がないのは噂にゃ聞いてるけど。蘇生費用って高いらしいしなー。


「お金なんてないのよ! 本当なのよ、払えるものなんて何も……!」

「本当か? マジでなーんにもないのか?」

「うう……、あっても拠点のハウスくらいしか……」

「あるじゃん」

「え゛」

「あるじゃん。ハウス。街の一等地にある、あのデカイ拠点」

「待って、本当に待ってなの! そんなの報酬にしたら、クゥがヴァイスにーちゃんにものすっごく怒られちゃうのよ!」

「このままだと、そのヴァイスにーちゃんも戻ってこないけどな」

「う」

「見殺しにするか、生還後に叱られるか。どっちがいいよ?」

「うううううう~……!」


 ああ、聞くまでもないことだよな。

 だが判断するのは俺じゃない。おまえだよ、クゥナ。


 これ以上は何も言わない。俺はただ、彼女の反応を待った。

 すると数秒ほどしてからクゥナが弱々しく俺の腕を掴んできた。


「依頼、するから。だからヴァイスにーちゃんを助けてなのよ……」


 はいよ、毎度ありー。

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