第20話 天才重戦士、笑い飛ばす

 ウルラシオンは平常運行。

 午後を回って、青空市場は買い物を目的とした市民でごった返していた。


「安いよ、安くしておくよー!」

「ちょっと、この果物を三つと――」

「あれっ、財布どこにしまったっけ……」


 耳に届く声も様々で、この街には本当に多くの人が住んでるなと実感する。

 月並みな感想なのかもしれない。だが、大事なことだ。


 三百年前、この街は滅びかけたことがあったという。


 地下のダンジョンの奥底から、現れたのは変異種のボスモンスター。

 今ではXランクモンスターと呼称される、最悪の敵だった。


 迎え撃ったのは、三百年前の時点ですでに賢者として名を馳せていたウル。

 戦いは三日三晩に及び、最終的に街の六割が壊滅したのだとか。


 だが、ウルは見事にXランクモンスターを討ち果たした。

 そのときの功績から、あのチビロリは大賢者と呼ばれるようになったんだと。


 要するにXランクモンスターってのは、それだけのオオゴトなワケだ。


 ――そして新たなXランクモンスターが生まれてしまった。


 生まれたそいつは、いつ地上に向かって動き始めてもおかしくないらしい。

 これから俺達は、そんなバケモノを叩きに行く。数時間後に。


「……あー、煙草吸いてぇわ」


 いや、吸ったことなんて一回もないけどよ。

 でも気分的にはそんな感じ。

 こうしてただブラブラ歩くだけってのは、つまんねぇモンだ。


 今、俺は一人だった。

 ラン達はダンジョン突入のための準備をしている。

 俺は、あいつらから気分転換をしてこいと言われて、こうして散歩していた。


 気ィ、遣われちまったなぁ……。

 この散歩の帰りに何か甘いモンでもお土産に買って帰ろうか。


 ちょっと参ってるのを自分でも自覚する。

 理由についちゃ明白だ。

 さっき、冒険者ギルドでウルから聞いた話がなー。あー……。


「どうすっかなー……」


 あてもなく歩きながら、ボンヤリと考える。

 ああ、どうしようもないんだけどな。結論は分かりきってるんだ。

 でも何つーか、俺自身の中で整理がつかないというか。う~~~~~ん。


「…………ん?」


 ふと、俺は道の脇に寄って足を止める。


「…………」


 歩き出す。


「…………」


 もう一度、足を止める。


「…………」


 また歩き出す。


「…………」


 そしてみたび足を止めて――


「ふむ……」


 つぶやいてから歩き始めた。

 すると、それに合わせてまた聞こえてくる幾つかの殺し切れていない足音。

 ああ、やっぱつけられてるわ。


 ここは大通りで周りには人も多い。

 足音以外にも様々な音が混じっているが、三度も確かめりゃ分かりもする。

 何人くらいだろうか。そこまでは不明だが。


 このまま冒険者ギルドに戻るべきか。

 あー……、いや、やめよう。戻る方が無難なんだろうが、やめておく。


 何故かそんな判断をした。

 理由は俺自身もちょっと分からないんだが、とにかく歩く。


 街の中心から外れの方へ。

 奥まった道へと入り、行きついた先は街の最外縁ある大きな廃墟だった。


「さーて、と」


 屋根のない家の中で、俺はゆっくりと体を反転させる。

 そこには三、四、五、六人。いかにも冒険者でございという風体の男達。


 中に三人ほど、見覚えのある顔があった。

 さっきギルドで会ったばかりの連中――ウォーレン達だ。


「もうお礼参りかよ。速攻じゃねぇか。行動力はあるのな、おまえら」

「余裕をカマしてるじゃないか。女を盾にするような卑怯者が」


 ウォーレンは強気に出てきた。

 まぁ、そう見えるよね。さっきは思いっきりランに頼ったモンね、俺。


 しかし、それを言うこいつらは果たしてどうなんだか。

 廃墟の中で俺を囲うように立っている男六人。

 だが真ん中に立つのはウォーレンではなく、別の大柄な男だった。


「その真ん中のおにーさんはどなたさんよ?」


 やたらとガタイのいい、顔中に傷跡が残るいかつい男だった。

 とにかくがっしりしててしっかりしてる、壁みたいなイメージの野郎だ。


「ヘッ、おまえみたいな雑魚でも“鋼壁”は知ってるだろ!」

「……“鋼壁”? ああ、そうか。おまえが」


 ウォーレンがやけに得意げに語ってきた。

 別におまえのことじゃねぇだろうに、だが、告げられた名前に納得した。


「――って、待てよ。“鋼壁”のザレックは今は『エインフェル』じゃ?」

「過去の話だ。あの連中では俺は扱いきれん」


 ザレックは落ち着き払った低い声でそんなことを言った。

 ふぅん、そうかい。


「で、今度は『千里飛翔の鷹』にご厄介になる、って?」

「そうだ。この街では最も有望なクランだからな」


 ま、確かに?

 Bランクを複数抱えてるクランなんて、ウルラシオンじゃそこだけだし?

 その選択は間違いじゃないんだろうけど。


「だからってAランクがBランクのケツ持ちってどうなのよ?」


 Bランクっつってもウォーレン達は相当アレな方だけど。

 いや、多分事情を知りながらそれに加担するこいつもやっぱアレか?


「何もおかしくはないだろう? 冒険者同士、序列を決めるならこれが一番だ」


 ザレックが笑っていいながら、拳をギチリと握りしめた。


「間違ってるとは言わねぇよ」


 ああ、間違ってはいない。

 こいつの言い分は間違ってはいないが、ムカつくかどうかは別の話。


「俺はおまえがどこの誰かも知らん。興味もない」


 サレックは俺に向けて、そんなナメたクチを叩いてくれた。

 アッハッハッハッハッハ、スゲーや。こいつものスッゲームカつくわ。


「だったらほっといてくんね?」

「そうもいかん。こいつらに頼られた以上、その信頼には応えねばな」


 ザレックは一歩前に出て、指の骨を低く鳴らす。

 後方ではウォーレンを含めた五人の男がヘラヘラと笑っていた。


 自分達が狩る側であることを信じて疑わない、何ともきったねーツラだった。


「歯と骨、それぞれ二、三本ずつは覚悟しておけ。名も知らぬ雑魚殿」


 ザレックがさらに近寄ってこっちへの圧を強めてきた。

 一応、帯剣はしちゃいるが、この間合いだと抜くより先にブン殴られるか。


 “鋼壁”の腕は、それこそ丸太のように太かった。

 重い盾を扱うんだから腕力はあって当たり前だし、全身は筋肉の塊だろう。


 その腕からくり出されるパンチとか、想像するまでもなくヤバイだろ。

 一発当たればそれだけでこの世とおさらばできそうだ。


 ま、俺には当たらないけど。


 いやー、こいつらもバカだねー。

 俺の加護のことも知らないで。

 図体デカイだけの筋肉ダルマなんざ、よゆーよゆー。マジよゆー。


 ――ウソです。正直、チョー怖いです!


 でも怖いからって怖いですとか今さら言えるかァァァァァ!

 こうなったらアレよ、もう、とことんまでイキってやんよチクショー!


「フ。相手が悪かったな。俺は最速無敵の天才重戦士だぜ」


 俺は不敵な笑みを浮かべ、ザレックへと告げた。

 虚勢だよ、虚勢に決まってんだろ――!


 大体、何が“鋼壁”だバカヤロウコノヤロウ。

 こちとら最速無敵の天才重戦士様やぞ! 文字数からして圧倒的勝利だわ!


「最速無敵? ――クック、フッフッフ。そうか、おまえが」


 ……あ?


 何よ、そのリアクションは?

 いきなりこっちを見下すような目になりやがったし。


「おまえ、ヴァイス辺りから何か聞いたのか?」

「フ、クックック、そうだな。逃げ回るしか能がない寄生虫、とかか?」


 あんにゃろう……。

 そういう陰口は叩いちゃいけないって習わなかったのか!


「いや、そうかそうか。なるほどな。ク、ハッハッハッハ!」

「派手に笑ってくれるじゃねぇか、ザレックさんよ」

「おお、すまんな。ヴァイスの言っていた通りだと思ってな」


 ああ? 何言ってやがんだ、こいつは。


「ウォーレン!」

「はい、何ですかザレックさん!」

「この男は、ギルドで女戦士に頼って自分は何もしなかった。そうだな?」

「そうですよ! この野郎、高レベルっぽい女の威を借りるばっかでしたよ!」


 あくまでも被害者ヅラを貫き通すのか、ウォーレン。


「クック、情けない。やはり見下げ果てた男のようだな」


 ザレックがそんなことを言い出した。

 だったらたった今Aランクに頼ってるウォーレン達はどうなんじゃいと。


 そんなことだって思っちゃうでしょ、こっちは。

 ま、言ったところでどうせ聞きゃしねぇんだろうけどなー。


「ザレックさん、こいつのことを知ってるんですか?」

「おまえ達は知らないのか? こいつは『エインフェル』を追放された男だぞ」

「え、こいつが!」


 ウォーレンが驚きの声をあげる。

 俺のことは知らなくても、それについては知ってたか。

 ああ、そうだろうな。どうしたって目立っちまうもんな、『エインフェル』は。


「マジですか、ウォーレンさん! じゃあ、こいつが噂のレベル3野郎ッスか!」

「そうだ! 『エインフェル』を追放された低レベル寄生虫だ!」


 ザレックを含めて、連中は盛大に笑い始めた。


「聞いたことがありますぜ、そうか、アレおまえかよ!」

「女に頼らなきゃ何もできないクズだモンな! 追放だってされるよなぁ!」

「あんだけイキがってたクセに、ただの根性なしかよ、くだらねぇ!」


 笑う。

 笑う。

 男共が一切の遠慮なく、俺を囲んで笑い続ける。


「回避盾などと、名前ばかりの弱虫め! いや、おまえなど虫にも劣るわ!」


 罵倒が、笑い声が、次々と突き刺さってきた。


 嗚呼、あの日と同じだ。

 俺が『エインフェル』を追放された、あの日、あのときと。


「…………はっ」


 苦しい。息ができない。俺は手で胸を押さえた。

 なんだこの、心臓をギュっと掴まれたような圧迫感。痛い。胸の奥が苦しい。

 目の奥がチリチリとして、まばたきすらおぼつかない。


 景色が揺れる。

 ザレックが、ウォーレンが、グニャリと歪んで人の形でなくなる。

 俺は泣いているのか。それとも、気絶しようとしているのか。


 俺は、俺は――


「はっ、はっ、はっっ……!」


 呼吸がうまくいかない。

 心臓の音も不規則で、体の芯が不快な疼きに囚われた。

 今や俺の意識に届くのは、連中からのいつまでも終わらない嘲笑だけだ。


 あの日と同じ。

 あの日と同じ――!


「はっ、はっ! はッ……! ハッ……!」


 言葉を紡ぐこともできず、開けっぱなしの口は上ずる呼吸を繰り返す。

 俺は、俺は、俺は、俺は……!


「ハッ、ハッ、ハハッ! ハ! ハ! ハ! ハ! ハ!」


 俺は――死にそうになる自分を激情のままにねじ伏せた。


「ハハハハハハハハハハハハハ! ギャーッハッハッハッハッハッハッハ!」


 そして笑ってやったのさ。

 パニの笑いを真似しながら、目をいっぱいに見開いて俺から笑ってやった。

 何だよ、この笑い方、結構気持ちいいじゃねぇか。


「な……」


 俺の突然の呵々大笑に、逆にザレック達は笑うの止めた。

 おうおう、急に唖然とすんじゃねぇよ。

 おまえらがそんなに笑うなら、そら俺だって笑うわ。笑い返してやるわ。


「な、何がおかしい!」


 だが、ウォーレンは一転して表情を怒りのそれに変えてがなり立てた。

 あーあー、知らん。知らんもんねー。あー、爆笑気持ちいいわー!


「ギャッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハ!」

「やめろ、その笑いを止めろ! 笑うんじゃねぇ!」


 ウォーレンが両手を振り上げて俺に掴みかかろうとしてきた。

 だが俺はひらりとかわす。

 バーカ、おまえなんぞに捕まる俺じゃねーわ。


「なるほど、逃げるのは達者らしいな」


 腕を組んだザレックが俺を観察していた。

 泰然たるその様子、Aランクっぽい大物めいた雰囲気があふれ出ていた。


「何を大物ぶってんだ、おまえは。猿山の大将がエラっそーに」

「フン、口もそこそこ達者なようだが、しかし、どうやってここから逃げる」


 うるせーな。今それを考えてんだろうが。

 目は見える。耳は聞こえる。肌は風と気温を感じ、舌先で吸う空気を味わった。


 意識は正常。五感はクリア。

 ああ、俺は今ここにいる。


 グレイ・メルタはここに立ってる。

 あんな連中の嘲笑になんぞ負けやしない、Xランク冒険者グレイ・メルタは。


 そうさ、立ってる。立ってはいるが――


「ムカつく野郎だぜ」

「殺してやろうか……」

「チッ……!」


 Bランク冒険者の皆さんがついに武器を抜き始めた。

 わーお、目がマジだよこの人ら……。


「ヘッ、いいのかよ。こんなことして、ギルドに知られたら……」

「知られなければいいだけだ」

「あれー、そんなこと言っちゃうの? Aランクの“鋼壁”さんってば」

「死体は外にでも放れば勝手にモンスターが食う。処理は簡単だ」


 ザレックは俺の挑発にも乗らず平然と言った。

 待って、待って、この人ちょっと慣れすぎじゃない?


 もしかして過去にもこういうことあったりしたの?

 実務経験あり? 実務経験あり!?


 んー、よし、状況を整理してみよう。


 俺、廃墟の壁際に立ってる。

 連中、俺をすっかりしっかり囲んでる。


 ……これヤバくね?


 “はぐれの恵み”って対人でも発揮されるかな。されるよね。されてよね。


 いや、ランの暴走時にはしっかり使えたけど、あれはなー。

 暴走したときのランを人間にカウントしていいかどうかっつーと、微妙?


「おまえ、また変なこと考えてるだろう」


 声がしたのは、まさにそのとき。

 廃墟の入り口側から、見知った女の声が飛び込んできた。


 びっくりしたわ。

 だって、おまえのこと考えてるそのときに、おまえの声がしたんだぞ。


「誰だァ!」


 ウォーレンが怒鳴りながら振り向いて、お、背中がビクってなった。

 だろうなぁ。そーもなるよなぁ。

 だって、そこにいたのはラン・ドラグだったんだから。


「何でここが分かったんだ、ラン」

「んー、勘!」


 ああ、そうなんだ。

 すごいねドラゴン女。野性味も完備とか、ますますゴリラだね。


「グレイこそ、何でこんなところにいるんだよ。探したんだぞー」

「いやー、ちょっと散歩してたら怖いおにーさんらに絡まれちゃってさ」


 その怖いおにーさんを間に挟んで、俺とランはやり取りをする。

 ウォーレン達がそれを遮らないのは、ランを見て完全に固まっているからだ。

 うーん、この反応の分かりやすさよ。


「あ、あの女、あの女ですよ、ザレックさん!」


 声を引きつらせ、ウォーレンが早速ザレックに泣きついた。

 何という見事な小物ムーブ。実はおまえ、Fランクとかだったりしない?


「わめくな。俺がついている」


 一方でザレックは実にAランクらしい大物な物言いをする。

 落ち着き払ったその声と態度は、いかにも頼れる兄貴分って感じだ。

 傷にまみれた大男は、ゆっくりとランの方を向いて、


「どうやらこいつらが世話に――」


 途中で言葉が止まった。

 あれ、今、ウォーレン達みたく背中がビクってならんかった?


「ん? もしかしてザレックさんか」


 言ったのは、ラン。

 待って、おまえら知り合いなの?


「ラ、ラ、ラ、ラン・ドラグッッ……!!?」


 ザレックがものすごいオーバーリアクションで後ずさった。

 靴裏こすれて、キュキュキュー! って鳴るレベルで。


「オイ、暴力女! おまえがいくら腕っぷし強くてもなぁ、こっちにゃAランクのザレックさんがついてんだよ! “鋼壁”の名前は知ってんだろうが! そうだ、あのザレックさんだ! 俺達のバックにゃ、あの! “鋼壁”の! ザレックさんがついてんだよ! 運がなかったなァ! 冒険者なんぞになっちまった自分のツキのなさを恨むがいいぜ! さぁ、ザレックさん、この女をやっちまぶべら!?」


 王道的小物セリフを熱く叫んでいたウォーレンがザレックに顔面パンチされた。

 あ、ランが目をぱちくりさせてる。

 展開についていけてない顔だな、あれは。


「え、あ? え? ザ、ザレックさん……?」

「や、や、や、やぁ、ラン! ひ、ひひ、ひ、久しぶりだな! ハハハハー!」


 うわぁ、何あれ。

 ザレックったら、声も体もハイパーバイブレーションなんだけど。


 顔とかすごい青い。

 顔色が蒼白を通り越してゾンビ化してる。


「そ、そ、そうか。こ、この男はお、おま、おまえの仲間だったのか!」

「え、グレイのことですか? そうですけど?」

「そうか、そうか! あ、あははははは! いやー、そうだったんだなー!」


 “鋼壁”さんの声がめっちゃ裏返ってる件。

 ウォーレン含めた周りの連中も完全にきょっとーんってなってる。


「実は道に迷っていたところを教えてもらってな、うん! 実に助かったぞ!」

「はぁ……。そうなんですか」


 ランは未だ事態を把握できず生返事をするだけ。

 あ、ランこっちを見てきた。いや、何が起きてるかなんて俺も知らんし。


「よし、道も分かったしそろそろ行くか!」

「そんな! 話が違う! 待ってくださいよザレックさべぶらぁ!?」


 ザレックを止めようとしたウォーレンがまた顔面パンチされた。


「で、ではまたな、ラン! さようなら、永劫にさようならー!」

「ザレックさん、待ってくださいってば! ザレックさぁぁぁぁぁぁぁぁん!」


 一目散に逃げていくザレックと、そのあとを追いかけていくウォーレン達。

 残された俺とランは、とりあえずお互いの顔を見合わせた。


 ポカンとなってるランの顔、可愛い。

 違うよ、そーじゃねーよ。


「なぁ、おまえ、“鋼壁”と知り合いだったの?」

「ちょっとだけ。前に一週間くらい同じパーティーにいたんだ」

「そっかー」


 きっとそのときに何かあったんだろうなー。暴走されたのかな。

 俺から聞くつもりはないけど。


「おまえこそ、ザレックさんと何を話してたんだ?」

「んー……」

「言いにくいことか?」

「いや。道をきかれただけだ」


 ああ。そんな程度の、ちょっとした軽い立ち話さ。

 今の俺にとってはな。


 『エインフェル』を追放されたときと今と、俺は何か変わったのか。

 はっきりとは分からない。

 分からないが、どうやら変わってはいるらしい。

 俺はランを見る。


「……? 何だよ」

「いや、別に。……で、俺のこと探してたってのは? 準備終わったのか?」

「ああ、それなんだけどな……」


 ランが何やら歯切れの悪い言い方をしてきた。

 何だろう、問題でも発生したのか?


「なぁ、グレイ。……あんな話を聞かされたあとで、なんだけど」

「いいよ、大丈夫だ。今は割と落ち着いてるよ」

「そうか? じゃあ言うけど――」


 何だってのさ、一体。


「さっきの『エインフェル』の子が、またギルドに来たんだ」

「……クゥナが?」


 何でまた。

 もう俺達のところには来ないと思ってたのに。


「ヴァイスってヤツが、ギルドの許可なく“大地の深淵”に行った、って」

「…………わぁい」


 それ、絶対めんどくさいことになるヤツじゃないですか――――!

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