第19話 天才重戦士、真実を知る

「どうぞ、こちらです」


 メルに案内されて、俺達はその部屋に通された。

 冒険者ギルドの建物の最上階にある、やたらだだっ広い部屋だった。


 何じゃあ、この部屋。

 一言でいうと、超豪華。

 二言でいうと、ものすっごい超豪華。


 まず壁がすごい。見たことがない色の壁してる。

 それが全然安っぽくない色で、こう、何だろう、高級感! って感じ。


 そして置いてある家具もすごい。

 ベッドもなんか上に屋根がついてるベッドだし、テーブルも椅子も立派。

 こ装飾もすさまじいんだけど全然けばけばしくないの。

 こっちは、すごく伝統と格式! って感じなのね。


 なーんじゃここ。

 なーんじゃここ。

 ギルドの最上階に通されたと思ったらお貴族様のお部屋でした。的な?


「あ、ここわしの部屋ね」

「はぁ~~~~?」


 一緒についてきたウルがそんなことをのたまう。


「最初に言うたじゃろ、わし、この街のオーナーじゃって」

「言ってたけど、この部屋は何事だよ、この――」


 俺はしばし言葉を探す。


「この……、このなんかすっごい部屋!」

「ランよ、おんしの相方、ちょいと語彙力がレベル3すぎぬか?」

「それは今後上がる見込みが薄いということですか、ウル様」

「それきいちゃう? わしにも言葉にせぬ優しさくらいはあるぞぇ?」


 おまいら……。


「ギャッハッハッハッハッハッハッハ! あ、わき腹、わき腹痛ェ!」

「もぉ~、パニちゃんったらぁ~。……フ、ックク」

「おまえも笑い噛み殺すのに必死じゃねーか、この凸バスがァァァァ!」

「ひぃん!? グレイさん、ひーどーいー!」


 泣き出しそうになるアムを無視して、俺は近くにある椅子に座った。


「ほら! 話! 話をしろやチビロリ! ハリーハリーハリー!」


 ひじ掛けバシバシ! バシバシ!


「おんし態度デカのぉ」


 うるせぇな、“大地の深淵”に行けなんて言われたらそうなるわ!

 だって“大地の深淵”よ? Sランクダンジョンよ?

 そこに行けってことはつまり、“英雄位”になるチャンスってコトじゃんか!


「では、こっちも単刀直入にいくかの」

「おう、そうしろそうしろ!」


 聞く気たっぷりでウルに促す。

 すると大賢者の姿をしたチビロリの姿をした千年妖怪は言った。


「このままでウルラシオンが滅びる可能性がある。それを止めてもらいたい」

「…………あっれー?」


 想像してたのと何かちがーう……。

 つか、え? 滅ぶって、ウルラシオンが?

 何それどゆこと。ちょ~っとさすがに意味が分からんのですが。


「“大地の深淵”の門番がXランク化した可能性が高いんじゃよ」

「いやあの、何スかね、そのXランク化ってのは」


 門番って“魔黒兵団”のことだよな。

 『エインフェル』にいたときに一回戦っちゃいるけど、それがどうしたって?


「モンスターにもレベルがある、という話は知っておるか?」

「えー、うっそだー」

「ここでウソをついてわしにどんなメリットがあるんじゃい」

「え、ドッキリ大成功とか?」

「ガキ」

「やっかましいわ! ……けど、モンスターにレベル、ねぇ」


 分からん話じゃないが、それがどうしたってのさ。

 まだちょっと、ウルの言いたいことが見えてこねーなー。


「そもそも、レベルというのは加護の強さを数値化したモノじゃ。一般人はレベル上がらんじゃろ?」

「そうなんだ~」


 そうなんだ~、としか言えないよ。

 それは今まで知らなかったけど、知ったところで俺のレベルは上がらんし。


「実はモンスターやダンジョンも加護の力を秘めておる。倒したり踏破することで、冒険者はそれらが持つ加護の力の一部を奪って己を強化することができる。これが『レベルが上がる』、ということじゃ」

「ん、じゃあもしかして……?」


 俺が言うと、ウルが「気づいたか」とこちらを見た。


「モンスターが冒険者を倒したら、モンスターのレベルが上がるのか?」

「その通り」

「いや、待ってくれ。そんな話は聞いたことがないですよ、ウル様」


 チビロリはうなずくが、ランがそれを否定しようとする。

 しかし、


「うむ。基本的には上がらん。何故ならば、ほぼすべてのモンスターは冒険者を倒すまでもなく己の力量の限界。つまりレベル上限に達しているからじゃ」

「ははぁん、そういうことかい、御師匠……」

「何だよ、パニさん。何か気づいたのか」

「応よ、御師匠は今、『基本的には』っつった。つまり、例外が存在する。ってこったろ?」


 あ、なるほど。

 例外。特例。つまり――Xランク。


「うむ。数十万、数百万体に一体というごく低確率で己のレベル上限を突破してしまうモンスターが出現する。ただのモンスターであれば、それは災害獣と称される個体となるが、ボスモンスターがレベル上限を突破した場合、これはXランクモンスターと呼ばれる最悪の個体となる」


 Xランクモンスター。

 冒険者を殺して経験値を得た結果、レベル上限を突破したボスモンスター。


 厄い。

 こいつはスゲェ厄いぜ。

 だが同時に、天才重戦士グレイ・メルタの英雄伝説に語られるに相応しい相手でもあるな!


「で、でも、べ、別にほっといたら、い、いいんじゃないかなぁ……」


 だがあろうことか、アムがそんな信じがたいことを言いだした。

 オイオイ、嘘だろう。何でそんなこと言っちゃうワケ、アムちゃんよぉ~。


「ほぉ、何故そう思うね、アムよ」

「だ、だって、門番だったらその場から動かないし……。別に危険は……」


 あれ、言われてみればそうだわ。

 いくら強くなったって門番だもんね。その場から動いたりはしないよなぁ。

 ん? じゃあウルラシオンが滅びる可能性とは?


「三百年前、わしは今のアムと同じ判断をして、この街を滅ぼしかけたよ」

「……何ィ?」

「Xランクになってしまったボスモンスターは必ず外へ出てこようとするんじゃよ。詳しい理由は明らかになっておらん。己の限界を突破したことで役割という枷も外れしまうのかもしれんが、それはさだかではない。ただ、外へ出ようとするのは確実であり、過去に実際に起きた出来事じゃ」


 語るウルの声は重かった。

 ただ語っているだけなのに、こっちに対して事実であることを十分に理解させてくる。

 それだけの説得力を持つ、大賢者の言葉だった。


「すでに“魔黒兵団”が動き始めている可能性もある。悠長に討伐隊を編成している時間も――、いや、『エインフェル』が勝てぬならば討伐隊を組んだところで結果は目に見えておるか」

「俺らだったら大丈夫だってのかよ」

「逆じゃ。おんしらが勝てんなら他の誰も勝てん」


 オイオイオイオイ、おまえ、ここまで散々脅しておいて急にそれかよ。

 ちょっとやる気漲っちゃうだろうが。


「依頼内容はXランクモンスター化した“魔黒兵団”の討伐。無論、報酬はわしの名で約束しよう」

「……チビロリが自分で倒しに行くってのは、ないのか?」

「それは、冒険者ギルドとしましては承服いたしかねますなぁ」


 ロクさんがそこで口を出してきた。


「何分、この大陸におけるウル様の影響力というのはウルラシオンに限らずかなり大きく、下手に動いてしまわれると方々にどのような影響が出るのかわかったものではございません。動かないことにこそ意味があると申しますか、いや、あたくしも当然、ウル様が最強。ウル様こそこの街の究極戦力、最終兵器、最後の希望であるということに一切の疑問はございませんが――」

「皆まで言わんでええわい、ロク坊。……ま、しがらみ色々じゃよ」


 ウルの言葉の全部を俺は察することはできないが、とにかくウルが直々に倒しに行くことはできない、ということらしい。偉いってのは大変ですなぁ。

 俺は仲間三人の方に目を走らせた。


「僕は受けてもいいと思うぞ。こんな大任、それこそ光栄な話じゃないか」


 ランはどことなく声が弾んでいた。

 強いモンスター、というのに期待しているのだろうか。

 こいつそんなに戦闘狂だったっけ?


「アタシとアムは旦那の判断に任せるぜ」

「いいのかよ」

「ギャッハッハ。無理するなよ旦那。受けたいんだろ、この依頼」


 ウグゥ、見透かされてるぅ……。


 ああ、受けたいさ。受けるつもりだよ。

 だがその前にどうしても確認しておかなきゃいけないことがある。


「ウル」

「何じゃ、坊」

「“魔黒兵団”がXランク化した原因は『エインフェル』だな?」

「――――うむ」


 少しの沈黙ののちに、ウルはきっぱりうなずいた。

 度重なる挑戦と繰り返された敗北が、“魔黒兵団”に経験値という糧を与えちまった、と。


 何やってんだよ、あいつらは。

 『エインフェル』はAランク最強のパーティーじゃなかったのか。情けねぇ。


「いいぜ、受けるよウル。俺達が“魔黒兵団”を叩き潰してやる」

「そうかそうか。おんしらであれば安心して任せられるわい」

「ところでそのまま“大地の深淵”を攻略してもいいッスか?」

「あっれ~、おんし、Aランクじゃったっけ?」


 ガッデム!!!!


「そこは目こぼししてくれたっていいだろうが! 街の救世主様になるんだぞー!」

「報酬はがっつり払うと言ったじゃろうが!」

「ンだよー! いじわるー! チビロリー! ウルラシオンの深き闇ー!」

「ええい、騒ぐでないわ、貧弱重戦士め!」


 千載一遇の“英雄位”チャレンジチャンスだと思ったのにー! もー!


「ま~ったく、しょうもない。……しかし、坊よ」

「なーによー、今、グレイさんはインフィニットハートブレイク中だよ!」

「おんし、何故この依頼を受けようと思った?」

「ンあ~?」


 急に何聞いてくるんだ、このチビロリ。


「おんしの幼馴染共の尻ぬぐいでもしようというハラかぇ?」

「ざっけんな。そんなんじゃねーよ」

「ほぉ、だったら理由を聞いていいかの」

「大した理由じゃねーぞ」

「構わんよ」


 俺はランを見る。


「ランはスゲェよな」

「な、何だよいきなり……!?」

「ランは最強だ。スゲェ強ェ。人型のゴリラの形をしたドラゴンみたいな女だ。それくらい強ェよ」

「なぁ、グレイ。褒めてるのか? それ褒めてるのか、なぁ?」


 どう聞いたって褒めてるだろうが。

 何言ってんだ、このゴリラドラゴン女は。思いながら俺は次に、アムを見た。


「アムもスゲェよ」

「え、え……?」

「ダンジョンで脱ぐとか並の神経でできることじゃねぇし、盗賊いらずとか本当に意味わかンねーよ。それにえっちだし、脱ぐし、黒のレースだし」

「は、はぅぅ……、そんな、え、えっちじゃないもん……!」


 いや、えっちだよ?

 盗賊いらずのまっぱのマッパーだよ? 自覚ないの? ヤバくない?

 そして最後に、パニを見る。


「パニだって、スゲェしな」

「そうかよ?」

「ああ。だって魔法少女とかあんなノリでやられたら誰だって腹筋が滅亡するだろ。それに花びら、甘いし美味いし疲れなくなるしな!」

「ギャハハハハハハハ! 褒められてると思っておいてやるぜ!」


 え、褒めてるよ。それ以外にどう聞こえたんだよ、おまえは。


「ま、とにかく三人ともスゲェってこったよ。心の底からそう思うぜ」

「ほぉ、それで?」

「俺だけだ」

「む?」

「俺だけが、こいつらにまだ俺のスゲェところを見せちゃいねぇ」


 俺は壁役だ。

 モンスターからこいつらを守る、最前線、最前衛の回避タンクだ。

 だが俺は、こいつらと組んで以降、その役割をまるっきり果たせちゃいない。


「だからよ、見せつけてやんなきゃいけねぇだろうが。ランに、アムに、パニにも。おまえらが組んだグレイ・メルタは、最速無敵の天才重戦士なんだぞってトコをよォ」


 俺はウルに向かって強気に勝気に笑って見せた。


「グレイ、おまえ……」


 ランが俺を呼ぶが、ちょっと気恥しくなってるのでそっちは向かない。


「なるほどのぅ」


 ウルは感じ入ったように、深くうなずいた。


「つまり、おなごの前でええカッコしたいだけじゃな」

「ねぇ、せっかくカッコよくキメたのにその一言で全部台無しなんだけど、ねぇ?」


 まぁ、間違ってないけどさ! 実際その通りだけどさ!

 だって三人とも可愛いじゃん! いいところ見せたくもなるじゃん!


「クッヒッヒ、分かった分かった。よく分かったぞぇ」

「おまえホンット、そのうち決着つけてやるからなチビロリ」


 幼女フェイスに浮かぶ笑みの生ぬるいこと生ぬるいこと!

 っかー! ムカつくー! 依頼人だから無碍に扱えないのが余計腹立つー!


「ふむ、そうか……」


 なんてことを思っていると、何だ、ウルは天井を見て考え事をし始めた。

 こいつ、割としょっちゅう物思いにふけるよなー。老衰かな?


「坊、あとでお仕置き」

「心読まないで!?」

「顔に出ておる」

「おまえこっち向いてないじゃんかよォォォォォ!」


 俺が悲痛な叫びをあげると、ウルは「うむ」と小さくつぶやいて俺を見る。


「……何スか?」

「少しばかり悩んだがの、最後にもう一つだけ話してやろうと思ってな」


 反射的に身構えた俺に、この千年妖怪はそんなことを言ってきた。

 話って、まだ何か俺に話すことがあるってのか?


「この話を聞いて、おんしがどんな判断を下すかはわしも分からん。だが、いずれどうしたところでおんしは知ることになるであろう話。ならば今この場で教えてやるのもよいかと思ってな」

「思わせぶりじゃねーの……。一体、どんな話よ」

「うむ、それはの――」


 そして、ウルから聞かされた話に、俺は言葉を失った。

 冗談じゃねぇ。

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