第17話 天才重戦士、介入する

 苦い記憶がある。

 つい、一週間前のことなのに。

 俺にとってその記憶は、人生全ての辛酸を凝縮したような記憶だった。


 辛い過去がある。

 つい、一週間前のことなのに。

 俺にとってその過去は、今ある全ての始まりとも呼ぶべき過去だった。


 ――ウルラシオン冒険者ギルド二階にある一室。


 まさか、またこの部屋に来ちまうなんてな。

 ああ、覚えてるさ。この部屋だ。

 ここだよ、ここが俺が辛酸を舐めさせられた部屋だ。百年経っても忘れるモンか。


「…………」

「…………」


 部屋には幾つもの沈黙があった。

 ここにいる人間の数だけ、意思があり、感情があり、思惑があって沈黙がある。


 部屋にいるのは俺と、ランと、パニと、アムと。

 そしてクゥナに、クゥナを囲もうとしてたBランク冒険者が三人。

 さらにウルと、メルと、ロクさんも。


 冒険者ギルドもそれなりにコトを重く見ていたらしい。

 しっかし、何でチビロリ千年妖怪まで一緒にここにいるのよ?


「チビロリ、何でいるの?」

「興味本位じゃ」

「おい」


 さすがにそれはいかんだろ、おまえ。


「クッヒッヒッヒ、おんしの活躍を見ておきたくてな?」

「おまえ、ロクな死に方しねーぞ?」

「何を言うておる。わしはあと一万年は生きるわい」

「これが、ウルラシオンの深き闇……!」

「そのネタはもうええわい! ほれ、さっさと始めんか!」


 ウルがテーブルをバンバン叩く。

 つま先立ちにならんとテーブルの上に顔も出せないクセに!


 ったく、今この場で一番関係ないやつが一番騒いでるってウゼーなこれ!

 あー、さっさと始めてさっさと終わらすべ。


「んじゃ、自己紹介からな。俺、天才重戦士のグレイ・メルタ」

「ラン・ドラグだ」

「パニ・メディだぜ!」

「ううう、アム・カーヴァンですぅ……」


 俺達四人が各々自分の名を名乗り、そして俺はクゥナを見た。

 下を向いていたクゥナも俺の視線に気づいて、慌てた様子で顔を上げる。


「エ、『エインフェル』のクゥナ・レルシィなのよ!」


 よしよし。よくできました。

 次に、俺は向かい側に座っているBランク冒険者三人を見た。

 おうおう、どいつもビキビキ青筋浮かべてらっしゃるわ。


「何だ、この茶番は」


 リーダーの戦士が腕を組んだまま俺に向かって凄んできた。


「グレイとか言ったな。何を仕切ってるんだ? おまえは無関係なんだろ!」

「そうだ、これは『エインフェル』と俺達の問題だ!」

「関係ないヤツがしゃしゃり――」


「…………おい」


 ランが口を開く。

 途端、部屋の空気が軋むほどに重みを増した。


「グレイは、自己紹介をしろと言ったんだが?」


 全身から強烈な威圧感を放ち、ランは三人を凝視した。

 すると、まるでヘビに睨まれたカエル。


「ひ……」

「う、ぐ……!」


 悪態をついていた三人は揃って顔を青ざめさせて息を飲んだ。


 よっしゃ! やった!

 さすがは僕らの最終鬼畜暴力装置ドラゴン女先生だぜ!


 これでイニシアチブはこっちが取った。

 話も楽に進められるってもんだ。

 いやー、相棒が物理最強ゴリラドラゴン女で助かったわー。


「……おまえ、絶対失礼なこと考えてるだろ」


 ランがジト目で俺を見るが、さてさて何のことだろーなー。


「――Bランククラン『千里飛翔の鷹』所属、ウォーレンだ」


 やっと落ち着いたらしく、まずは戦士が名乗った。


「同じクラン所属、アレイン」

「同、ドルク」


 そして残る魔術師、狩人も口数少なにそう名乗り、居心地悪げに目をそらす。

 クラン。そうか、こいつらあの『千里飛翔の鷹』の一員だったのか。


 クランってのは幾つものパーティーの複合体だ。

 数十人単位で徒党を組んで、それぞれの役割に従って動く、立派な組織だな。


 このウルラシオンにはクランが何個か存在している。

 その中でも、『千里飛翔の鷹』はそこそこ知名度が高いクランである。


 普通、クランに所属している冒険者は守りの姿勢に入る。

 決して無理をせず、生活するのに必要な分だけ依頼をこなすようになるのだ。

 そうなるのは、クランという組織が非常に安定しているから。


 組織に守られるってのはやっぱ強いんだよな。

 冒険者同士での徒党とはいえ、数十人も集まればそれなりの勢力にはなる。

 助け合いの精神ってやっぱお互いに利益が生じるからこそ成立するってことよね。


 だから、クランに所属している冒険者は大体中堅どころのCランクに落ち着く。

 しかし『千里飛翔の鷹』はそうではない。

 ここは上昇志向がかなり強いらしく、多くのBランクを抱えていたはずだ。


 必然、上を目指せばレベルは上がりやすくなり、安定を選べば上がりにくくなる。

 もちろん例外もあるが、おおよそBランクに到達するヤツは“英雄位”狙いだ。

 こいつらも、そうだってことなんだろうな。


 だから、


「グランツとローウェルはもう帰ってこない。その責任をどう取るつもりだ」


 ウォーレン達はクゥナに対し、そんなことを言ってくるんだろうな。


 冒険者ってのは苦楽を共にするからか、仲間意識が強くなりやすい。

 そこはパーティーもクランも同じ。

 いや、クランは多人数だからこそ家族意識に近いものを抱くのかもしれない。


「責任って言われても……」


 俺はクゥナの方を見る。

 こいつ、すっかり縮こまってんじゃねーか。

 味方がいればいくらでも横柄になれるクセに、一人になると途端にチキンよなー。


「グランツもローウェルも、『千里飛翔の鷹』には必要な人間だった」

「んー? 『エインフェル』に移籍したんじゃねーのか?」

「そんな一時的なものに決まってるだろ!」


 俺がきくと、ウォーレンは苛立ちを隠そうともせず叫んだ。

 そのグランツとやら達が“英雄位”になるまでの限定的な移籍、だったと。


「今回の件で『千里飛翔の鷹』の構成員は大きなショックを受けた!」

「そうだ、おまえらがグランツ達を見殺しにしたのは分かってるんだぞ!」

「ザレックさんがしっかりと話してくれたんだ。あいつらの死に様をなァ!」

「あ、うぅ……」


 三人に怒鳴られて、クゥナは完全に委縮していた。

 ザレックってのは俺の後に入った壁役だったっけか。名前だけは知っている。


 俺は詳しい話はなーんも分からんけど、ただなぁ――


「おまえら、結局『エインフェル』にどうしてほしいの?」


 何か要求があるから、クゥナに突っかかってたんじゃないの?


「無論、『エインフェル』には責任を取ってもらう!」

「そうとも。『千里飛翔の鷹』が被った損害、それを賠償してもらう!」

「待ってなのよ、お金はもう払ったじゃないのよー!」

「あれっぽっちのはした金が誠意の証になると思っているのか!」


 バン、と、ドルクがテーブルに手を叩きつけた。

 クゥナが身を震わせる。

 そして訪れた静寂の中に、男達の荒い呼吸音だけが流れていた。


 うーん……。


「クゥナ」

「う、はいなのよ……」

「何があったのか話してくんね?」


 深入りするつもりはないが、多少の事情は知っとかねーとどうにもならんわ。


「分かったのよ――」


 そして、クゥナは語り始めた。

 三回目の“大地の深淵”への挑戦。その際に引き入れたBランクの壁役達。


 それでも門番を倒すには至らず、逆に全滅の危険に陥って、帰還。

 だがそのとき、壁役の部隊は放置してヴァイス達だけで生還符で帰ってきた、と。


 おおむねそんな事情だったワケか。


「ひどすぎる……」


 アレインが怒りに任せて椅子から立ち上がり、厳しい顔つきでクゥナを指さした。


「グランツ達を捨て駒にしたんだ、こいつらは!」

「そのせいで、そのせいでグランツとローウェルは……!」

「ちくしょう! 『エインフェル』なんかの誘いに乗ったばっかりに!」


 涙ぐんだり、叫んだり、三人は周りも目に入らない様子で激情をまき散らす。

 なるほどねぇ、なるほど。……なるほどな。


「なぁ」


 タイミングを見計らって、俺は三人を呼ぶ。

 感情を発散した直後である三人の目は一斉に俺へと向けられて、だから尋ねた。


「――なんで蘇生資格とってなかったんだ、その二人」


 当然すぎる疑問である。

 そのグランツってのが生き返れない理由がそれなんだろ?


「何だ、結局おまえも『エインフェル』の味方なのか!」

「論点ちっげェェェェ~~~~……」


 誰がいつそんな話をしたのか。


「そうなのよ! グレイにーちゃんはクゥの味方なのよ!」

「おまえもおまえで乗っかってんじゃねーよ!」


 こんなん繰り返してたら、そりゃ話にならんわ!


「やはりこんな席での話は不毛だ!」

「そうだ、どうせギルドだって『エインフェル』の味方に決まってる!」

「だが屈しないぞ、『千里飛翔の鷹』をなめるなよ!」


 Bランク三人が、ちょっと理解できない方向でエキサイトしはじめた。

 何だこいつら、被害者意識が千里飛翔か???

 まぁ、このままではちょっとお話にならないので、俺はランに目配せした。


「せい」


 ズドバキャアッッッ!!!!


 おもむろに振るわれたランのチョップが、分厚い木のテーブルを叩き割った。

 音が轟き、そして静寂。

 Bランク三人もクゥナも、顔を真っ青にして固まっている。


「会話、しよーぜ?」

「「「「あ、はい」」」」


 後にランを従えて俺がにこやかに笑うと、全員が快く承諾してくれた。

 すなおってびとくだよねーかっこぼうよみかっことじ。


「でさ? 結局蘇生資格とってないのがあかんワケじゃん?」

「そんなことはない!」


 俺の言葉を、ウォーレンが否定しようとする。

 だが心なしか声の調子がさっきより弱い。もしやこれは――


「もしかしておまえら、自覚あったりしねぇ?」

「な、何の話だ……!」

「グランツとかが死んだ件、その本当の責任は、死んだ本人にあるってこと」

「…………ッ!」


 俺の指摘に、声もないまま三人は小さく身じろぎした。

 何だよ、自覚あるんじゃねぇか。


「まぁ、そうだよなぁ。そりゃあ自覚なきゃおかしいよな」

「な、どういうことなのよ……」

「冒険者は自己責任。それが原則だっつー話よ」


 英雄になるための唯一の道だから勘違いされる面もあるが――

 冒険者なんてのは結局ヤクザな商売でしかない。


 危険は常に身近にあり、いつだって死と隣り合わせ。

 とてもじゃないが立派な職業とはいえず、ゴロツキ・チンピラと変わらない。


 だから当然、自分の身の保証なんてありゃしない。

 自分の命を守るのは、自分でしかありえない。冒険者の大前提である。


「Bランクだったんだろ? 蘇生資格くらい取っておくモンだろ」


 蘇生資格の取得は別に義務じゃないが、自分の生死に直結する話だ。

 冒険者であれば、誰しもが蘇生資格の取得は考える。


 Cランク以上になれば受験資格は満たせるしな。

 まぁ、俺はレベル低すぎて一回も受験できてないワケなんですけどね?

 フハハハハハハハハ――――、ハァ……。


 しかしなー、何かちょっとなー、何なんだろーなー、この違和感。


「グレイとか言ったな」

「おう。何じゃい」」

「おまえは、グランツ達が蘇生資格を取っていなかったことを責めるのか」


 は?


「グランツ達の怠慢だとでも言うつもりか!」


 え?


「一方的な物言いだな。やっぱり『エインフェル』の味方か」


 ちょいちょいちょーい?


「待って待って、誰もそんなこと言ってないよね?」

「言ったじゃないか! 今! グランツが蘇生資格を取得してないのが悪いと!」

「悪いとか言ってねーし。テメェの死の責任を他に押し付けんなっつったの」

「同じことだ、俺達の仲間を悪者にしやがって!」


 あ~~~~~~ん?


 何かおかしいぞう。

 何だろうな、さっきからこいつら、自分から水掛け論に突入してねーか?


「ギャッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハ!」


 突然。

 パニが大きな声を出して笑いだした。何だァ?


「あー、腹痛ェ。ああ、こりゃあダメだ。面白すぎンぜ、グレイよォ」

「何だ何だ、何だってのよ」

「ああ、簡単な話さ。こいつら――」


 パニは不敵な笑みをそのままに、『千里飛翔の鷹』の三人をねめつける。


「全部分かってやってるぜ」

「……あー。そゆこと」


 言われて、俺も得心がいった。

 そうかそうか、だったら堂々巡りも望むところだわな。


「何なのよ。全然わかんないのよ!」

「おまえ、ホント誰かに頼るの大好きだよなー」


 少しは自分で考えなさいよ、このクソ『エインフェル』は。


「要するにこいつら、おまえを脅して自分の思うようにしたいだけよ」

「な、なんだってー! なのよ!」


 振り返ってみればなるほど、分かりやすいわ。

 クゥナに対して言うのは「おまえが悪い」、「責任を取れ」ばっかり。


 自分に都合の悪いことを指摘されたら論点をズラしてはぐらかす。

 それでも追及されれば、自分の正義を声高に主張して勢いでごまかそうとしたり。


 ハハ、何だよくだらねぇ。

 オイオイ、マジで勘弁してくれよ。おまえら曲がりなりにもBランクだろ?


「なぁ、もうこれくらいにしておいた方がいいんじゃねぇの?」

「な、何かだ!」

「これ以上ゴネたっておまえらにとっちゃ不利な結果にしかならんぜ」


 言って、俺はメルとロクさんの方へと視線を送った。

 ここまで、一切口を出すことなくことの成り行きを見守っていた二人。

 冒険者ギルドの受付ロビーで起きた騒ぎだから、この二人もいるんだろうが。


「目立つ場所で騒げば自分達の方に同情が集まるとでも思ったンか?」

「そ、そんなことは……!」

「もういいよ。どうせおまえらの思い通りにゃならんて」


 明らかに狼狽しているウォーレン達を、俺は軽く突き放した。

 本当に、心底から、別にクゥナの味方をするつもりなんてないが、だが――


「それよりおまえら、自分の仲間の死を利用しようとしたな?」


 俺が許せないのはそこだった。

 散々、仲間の死を悼むようなことを言っておきながら、実際は真逆。

 仲間だった男の死を、人に金をせびる理由にしやがった。


「……失せろよ。この話は終わりだ」

「何を、まだ俺達は――」

「失せろよ」


 俺はウォーレンを睨む。

 瞬きをせずに、まっすぐに、貫くように、殺すように、目の前のクソ野郎を睨む。


「ぐ……」

「お、おい、ウォーレン」

「行くぞ。拠点に戻るぞ!」

「あ、ああ……」


 三人は椅子を揺らして立ち上がり、そのまま部屋を出ていった。


「このままで済むと思うなよ、こっちにはザレックさんがついてるんだ!」


 去り際のウォーレンのセリフ。

 まるっきり三下悪役の捨て台詞じゃねぇか。ダッセェな……。


「ロクさん、あいつらは――」

「はて、あいつらとは一体どのあいつらのことなのか。あたくし、とんと分かりませんな。そもそも冒険者ギルドは全ての冒険者に対して公明正大、公平中立! あらゆる面において平等でございます! 仮に、仮に! かーりーに! もしも何か冒険者同士でいさかいなどがありましても、ギルドがどちらか一方に加担するなどといった愚は決して犯すことはございません! ご安心ください!」


 長い。相変わらず長い。セリフが長い。

 だがギルド長がそう言うなら安心か。この一件はなかったことになりました、と。


「終わったぜ、クゥナ」

「よくやってくれたのよ、褒めてあげるのよ!」


 何で終わった途端に上から目線なの、こいつ?


「クゥを助けたことを誇りに思うといいのよ。やったねグレイにーちゃん!」

「ふざけるな」


 おっと。

 俺が言う前に、ランが立ち上がっていた。


「な……、誰なのよ」

「僕の名前なんてどうでもいい。それより、助けてもらってその態度なのか」

「べ、別にクゥは悪くないんだから! 助けられて当たり前なのよ!」


 わーお、それ言い切っちゃいますか。

 うんうん、それでこそ『エインフェル』ですね。くそったれ。


「この――」

「いいよ、ラン」

「グレイ! でも……!」

「いいって。それより、怒ってくれてありがとよ」


 俺にゃそっちの方が嬉しいってモンだわ。

 言うと、ランは唇を尖らせてそっぽを向いた。そして座り直す。

 もしかしてこの黒女、照れてらっしゃるのかな?


「なぁ、クゥナ」

「何よ。まだ何かあるのよー?」

「おまえも悪いからな」

「え……」


 当然だろうが。


「一時でしかなくても、仲間だろ。見殺しにしていい理由があるか?」

「う……」

「知ってるなら教えてくれよ。少なくとも、俺は知らねぇよ」

「それは……」

「Aランクだろうと関係ねぇぞ、俺達はたかが冒険者風情なんだからな」


 ヴァイスなんかは、そこら辺から勘違いしてそうだけど。

 俺達は冒険者。ただの冒険者なんだから。


 他人の命をどうこうする権利なんて、あるワケねーんだよなー。

 分かってんのかね、このガキッ娘は。


「……だったら」

「あン?」

「だったら何だってゆーのよ! もー! もぉぉぉぉぉぉぉ!」


 うおお!?

 いきなり両腕振り回して暴れてんじゃねぇぞ!


「ヴァイスにーちゃんもリオラねーちゃんもいなくなって、それで、それで、あんなヤツらに絡まれて、クゥだけでどうしろってゆーのよ! もー知らないのよー!」


 あァン? ヴァイスとリオラがいなくなっただとぉ?


「おい、クゥナ……」

「知らない知らない! 知らない! もー何も知らないんだからなのよー!」


 あ、行っちゃった。


「お、追わないでいいの……?」

「ほっとこ」


 アムが俺にきいてくるが、追いついてもどうせまた暴れるだけでしょ。

 いやー、それもしても結局お礼も謝罪もなしに終わったね。


 スゲーや、やっぱ『エインフェル』ってクソだわ!

 改めて再確認できたよ、よかったねグレイ君!


 ガッデム!!!!


「いや~~~~、骨折り損だわ~~~~」


 そりゃチビロリにも不器用言われるわなー。アッハッハッハ。

 ……ちょー疲れた。


「次、同じようなことがあったらどうするんだ?」

「もーやだ。もー助けない!」


 人にありがとうも言えない子なんてもう知りません!


「オラ、チビロリ賢者。終わったぞ、コラ」


 ここまで一回も口出ししてこなかったウルの方へ、俺は視線を流した。

 こいつ、結局最後までヤジ馬貫きやがった。


 いくら伝説の冒険者だ、ウルラシオンの大賢者だっつってもなぁ。

 今回ばっかは、いい印象ないぞ。俺。


「…………」


 だが、俺が見るとウルはやけに神妙な面持ちで何事か考えているようだった。

 何だァ? 今の話に、どっか悩むようなところあったっけ?


「おい、ウル」

「む? おお。終わったのかぇ、坊。お疲れさんじゃよ」


 何だよ、やじ馬ですらなかったのかよ。

 じゃあ何でこの場にいたんだよ、おまえ。……モヤっとするわぁ。


「おまえ、今の話を見てすらいないとか、何してたのよ」

「うむ……、ちょいとな」


 そのちょいとが何なのかって聞いてんですけどねぇ?


「メル、ロックラド、おんしらはどう思う」


 と、急にウルがロクさん達に話を促した。


「私は、あやういかと思っています」

「そうでございますねぇ。あたくしも同様ですね。ウル様のご懸念通りかと」


 三人が何かを話し合っている。

 しかし、俺にはさっぱり、その話の内容が見えない。

 こいつら、一体何の話をしてんだ?


「坊よ」

「ンだよ」

「おんしらに依頼をすることになるかもしれん」


 いよいよ話が見えねぇな。何だってんだ?

 だがともかく、依頼にありつけるってんならそれに越したことはない。


「どんな依頼だよ」

「うむ――」


 ウルラシオンの大賢者は、一切遊びのない真顔で言ってきた。


「“大地の深淵”に向かってもらいたい」


 ――――あ?

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