第3話 天才重戦士、モンスター10000匹に囲まれる

 ところで、加護にはランクってモンが存在する。

 冒険者としての実力にもかなりデカい影響を与えてくれるものだ。


 ランクは下から、人位、霊位、長位、将位、王位、天位、の六つに分かれている。

 まぁ、最上位の神位なんて史上数人もいないんだが。

 だから一般的には、王位級(キング)が最上位として認識されていた。


 冒険者として加護を授かった際、ギルドにランクを測ってもらうこともできる。

 っつーか冒険者は大体必ず自分の加護のランクを知ろうとするもんだ。


 加護は授かったら取り消しがきかない。

 完全な一生モノだ。

 だから、加護のランクは冒険者としての将来をある程度左右しちまうんだよな。


 ただ、ランクに関する情報は外部には秘匿される。

 それを外に向かって出すかどうかは、冒険者本人に委ねられるワケだ。


 この天才重戦士グレイ・メルタ様の加護のランクはどこかだって?

 それが分かってれば苦労してねーんだよなー!


 ランク不明とかギャグだぜ、それ。HAHAHA。

 ちなみに『エインフェル』の三人は全員王位級である。ガッデム。


「……つまり、俺の加護は天位級(エース)なの?」

「んにゃ。もっと上じゃの」

「うっそだー」


 地方都市ウルラシオン。

 そろそろ朝が終わろうとしている時間帯に、俺とウルは大きな通りを歩いていた。

 しかしこのチビっ子、思いっきり髪とローブを地面に引きずってるんだが。


「フフン、魔法で状態を維持しておるからローブも髪もよごれんぞい」

「だから心を読むなっつーの!?」

「おんしの顔に書いてあっただけじゃぞえ」

「ウソだー! 絶対ウソだー!」


 い、いくら何でもそこまで分かりやすい性格じゃねーし! 顔に出ねーし!


「クッヒッヒ、いいからついておいで。いいところへ連れてってやるからの」

「何なんだよ……」


 俺はボヤきつつも、大人しくウルのあとについていった。

 ラングの店でブッ倒れてから二日。

 今朝、自宅代わりに使っている宿にウルがやってきたのだ。


 ちょっと一緒に来い。

 答えは「はい」か「イエス」か「恐悦至極にございます」のどれかでいいぞ。

 そんな、ウルラシオンが誇る大賢者様からの問答無用なお誘いであった。


 こいつ、見た目も声も完全に幼女のクセにエラそうなのがパッシブだぜ。

 ムカつくわー、ムッカつくチビガキだわー。


「そういえば坊よ、聞いたか」

「何を?」


 ひそやかな怒りを抱いていると、ウルが俺に話しかけてきた。


「『エインフェル』がつい数時間前にSランクダンジョンに出発したそうじゃぞ」

「へーそー、ふーん」


 その話題に、俺は気のない一言だけを返す。

 どうコメントしろってんだよ、俺はもう『エインフェル』じゃねぇんだぞ。

 あーあー、どうせ新しい仲間に連れて今度こそ攻略するんだろーなー、あいつら。


「『エインフェル』の連中、“英雄位”になれると思うかえ?」


 まだ続けるのかよ……。


「まぁ、なるんじゃねーの? 失敗はしてても一回挑んだダンジョンだし」

「そうかいそうかい。クッヒッヒ」

「おいチビ、今のご時世そういう思わせぶりはストレスにしかならねぇんだぞ」


 俺はウルにも聞こえるように舌打ちをした。

 ああ、認めたかないが、連中なら確実にそこに手を届かせられるはずだ。

 冒険者史上最速でのAランク到達が伊達じゃないことは俺が一番よく知ってる。


 モヤモヤしたものを抱えながら、それ以降は特に会話もなく俺達は歩いた。

 街を囲むモンスター除けの城壁を超えて、そのまま外へ。

 そしてウルが止まったのは、街道を少し外れた見通しのいい林の中だった。


「この辺りでいいかの」

「こんなとこまで連れてきて、何なんだよ、ホント」


 俺は辺りを見る。

 木と木の間隔が広く、地面もさほど難くない。動きやすい場所だ。

 これならばモンスターが出てきてもすぐ逃げられるだろう。


 もっとも、この辺りは街の地下に仕込まれた魔除けの結界の範囲内だ。

 そもそもモンスターが近寄ってくること自体、あまりない。


 装備は持ってくるよう言われたので、一応愛用の革鎧と小型盾は身につけていた。

 武器もある。それなりの長さのショートソードだ。


「……で、ここに俺を連れてきた理由は?」

「無論、おんしに“はぐれもの”の加護の何たるかを教えるためよ」


 “はぐれもの”。

 俺に加護を授けた“力あるもの”であり、正体不明の謎存在だ。

 ウルの話によれば、こいつの加護は世界最高の加護だってことだが――


「俺のレベルが上がりにくいのはそいつのせいだろ?」

「そうじゃぞ」

「俺の体力がやたらめったら低いのもそいつのせいだろ?」

「そうじゃぞ」

「俺が酒弱いのも、女の子との出会いがないのも全部そいつのせいだろ?」

「そりゃおんしの自業自得じゃ」


 ガッデム。


「ま、言うよりは見せるが早かろう」


 ウルが軽く手を振ると、そこにウルの身長よりだいぶ長い杖が現れた。

 そして大賢者はブツブツと何ごとかを唱えて、


「まじかるらぶりーはーれくいん、モンスターだらけになーれ!」


 ポン、とコミカルな音と共にピンクの煙が弾けた。

 煙が晴れると、その向こう側にはモンスターがいた。モンスターしかいなかった。

 見渡す限り視界の全て、全部が全部モンスター。


「…………はい?」


 俺は呆ける。


 スライムがいる。

 ゴブリンがいる。

 ブラックドッグがいる。

 ゾンビがいる。

 ゴーストがいる。

 ケルベロスがいる。

 キメラがいる。

 マンティコアがいる。

 ゴーレムがいる。

 ウェアウルフもウェアタイガーもいる。

 オーガもいるしオークもいる。

 ハーピーだっている。

 デーモンとかもいらっしゃる。

 そしてマーマンすらもいる。エラ呼吸できず死にそうだ。あ、動かなくなった。


 まだいる。

 まだまだいる。

 全然知らない、見たこともないようなモンスターもいる。

 陸・海・空の全てを制覇するように、全方位完全無欠にモンスターだらけ!


 そんな地獄風景の中心に、俺はポツンと立っていた。

 そこへ、フワフワと浮遊しながらウルが鼻歌交じりに近づいてくる。


「じゃ、やってみよーかの」

「俺の抹殺をか!?」


 うおおおおおおお……、モンスターさん達めっちゃこっち見てるぅぅぅぅぅ……。

 殺気すごい。

 殺気すごい。

 もう空気濁ってるレベルで殺気すごいんだけど!


 いや、無理無理無理無理。

 いくら俺が最速無敵の天才重戦士だからって無理だよこれ。

 Aランク冒険者何人いたって足りねぇよ!


「準備はいいかの?」

「何の!? 遺書の準備ならまず文面考えるところからだよ!」

「準備はよさそうだの」

「俺、はいともイエスとも恐悦至極でございますとも言ってないよね!?」

「なーにそう大したことはないぞ。ざっとモンスター10000匹程度じゃて」

「街滅ぼす気かテメェェェェェェ!!?」

「安心せい。モンスター共が狙うのはおんしだけじゃて」

「ぬああああああああああああああああああああああああああああああ!!?」

「はい、よーいドン★」

「「「ガオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」」」

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!???」


 完全に隙間なく俺を包囲しているモンスターの群れが一斉に襲い掛かってきた。


 スライムが強酸ボディで体当たりしてきてゴブリンが手斧を振り上げブラックドッグが呪いの視線をこっちに向けてゾンビがくっさい体液まき散らしながら覆いかぶさってきてゴーストが俺の身体に憑依しようとしてケルベロスが勢いよく火を吐いてキメラが口から毒ガス吐くしマンティコアが暗黒魔法を唱えてゴーレムがでっかい足で踏み潰しにきてウェアウルフ数十匹が連携して時間差で襲い掛かってきてウェアタイガーが筋力に任せて音に近い速度で突進してきてオーガが引っこ抜いたその辺の木をこん棒代わりにして振り回してオークの群れがくっころくっころ鳴きながら集中攻撃かけてきてハーピーが魅了の歌で俺を魅了しようとしてデーモンが分子分解の禁呪を使おうとしてマーマンが呼吸できないで陸に打ち上げられた魚みたいに口をパクパクさせてるマーマァァァァァァァァァァァァン!


 無理無理無理無理!

 無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理!


 死ぬって!

 死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!

 死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!

 今そこ一歩引いて軽くかがまなきゃ間違いなく死ぬって!?


「あああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」


 来る来る来る!

 来た来た来た来た!?

 うおあああああああああああああああそこ右に避けて頭低くしないとあかんて!

 だから木陰に寄って木を壁にしたあとで軽くジャンプして足狙いの一撃をかわさないとモロにくらうってのにもぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!


 あばー! あばばばばば! あばぁぁぁぁぁぁぁぁ!?

 うおああああウェアウルフを誘導してスライムにぶつけないと首もがれるー!


 ぎゃあああああああああああああああ!?

 オラー! デーモンこっちこっち!

 はい、分子分解ヒラリと避けて俺の後ろのモンスター数十体しょーめーつ!


 もー!

 もー!

 いいかげんにしろ殺す気か! 死ぬ! 死ぬわ! あー、もー! あー!


「お~……、見事なまでにかすりもせんのう……」


 耳元にクソ大賢者の声が聞こえた。


「おっま! 何の恨みがあって俺イジメてくれてんだコラァ!」

「クッヒッヒ、イジメてなどおらんよ? 立派に避けておるではないかー」

「俺が!(一回避) 天才!(二回避) 重戦士だからだ!(三・四・五回避)」

「クッヒッヒッヒッヒ、そうかえそうかえ」


 軽く笑うと、ウルは浮遊をやめて俺のすぐ足元に降り立った。

 一方で、前から迫るゴーレムがまた再び大きな足で俺を踏み潰しにかかってきた。

 二歩下がればかわせる。それは分かったが、何故かウルが動かない。


「おい、チビ! 何やってんだよ!」

「いやはや、わしはちょっと疲れてしもうたわい」


 このチビ、そんなこと言ってる場合か。

 しかもその場にちょこんと座りやがったよ、こいつ!?


 ゴーレムはもうすぐそこまで迫ってきている。

 今すぐ下がれば俺は助かるだろう。確信がある。しかしウルは――


「ク、ソ、がッ!」


 舌打ちに舌打ちを重ねてさらに舌打ちをする。

 俺は下がるのではなく足を踏み出して、ウルの前に回り込んだ。


 もはや何かを言うヒマもない。

 ゴーレムの足の影が上から俺とウルとを覆って、そして足そのものが降ってきた。

 それを見上げながら、無駄だと分かっていても小型盾をかざす。


 そして超重量のゴーレムの大足が俺ごとウルをぺしゃんこに――


 …………。

 …………。

 …………んん? もう俺、死んだ?


「クッヒッヒ、まだ生きとるよ、坊」


 また浮き上がったウルが、俺の隣に来て笑う。

 辺りは陰っていた。ゴーレムのデケェ足の影だろうが、何で俺生きてるんだ。


「見てみ」


 ウルが上を見たので、俺もつられて視線を上げた。

 するとそこには石の壁。いや、これはあれか、ゴーレムの足の裏か。

 俺の眼前まで迫った足の裏が空中でピタリと静止している。


「止まっているのではない。踏み潰せぬのじゃよ、おんしをな」


 言って、ウルが杖をクルリと振り回す。

 するとまだまだ残っていた無数のモンスターが全て消えてなくなった。

 たった今、俺を潰しかけていたゴーレムも、だ。


「ハ、ハァ……」


 危機が去ったことを実感して、俺はヘナヘナとその場に尻もちをついた。

 地面に降りたウルが、ほぼ自失している俺の方に歩いてくる。


「おんしの加護の効果、分かったかの?」

「わ、わ、分かるかよそんなこと……、は、はは、いき、生きてる……」

「ふむ、そうかそうか。よっぽど必死じゃったか」


 汗ダラダラになっている俺に対し、ウルは涼しい顔をして言った。


「では分かりやすく説明を――」

「そ、その前に、ちょっといいか……」


 俺は挙手して、ウルの言葉を途中で遮る。

 ウルは「ふむ?」と首を傾げたので、俺はゆっくり立ち上がり、言ってやった。


「この、バカヤロウ!」

「ひょ?」

「潰されてたらどうするつもりだったんだよ! おまえ、ふざけんなよ!」


 死んでも資格さえとってれば蘇生はしてもらえる。

 でもそれも完全に元通りになるワケじゃない。

 一回蘇生してもらうと数か月~一年分程度、寿命が縮まっちまうもんだ。


「このバカ! ホント、バカ! 自分は自分だけなんだから大切にしろ!」

「はぇ~……」


 怒りに任せて叫び散らすと、ウルが気の抜けた声を出した。

 ああ、もうダメ、限界。完全に緊張切れた俺が、また地面に腰を下ろした。


「――うむ、そうじゃの。先に説明しておくべきだったか。すまぬの」


 大賢者は存外素直に謝ってきた。

 ったく、謝るくらいなら最初からやるんじゃねーよ、ホントによぉ。


「だがこれが手っ取り早かったんでな、百聞は一見に如かず、じゃよ」

「あー……、俺の加護の効果……?」

「うむうむ。今のモンスターの群れの攻撃、全てかわしきったじゃろ?」

「そりゃおまえ、俺は最速無敵の天才重戦士――」

「言っておくが物理的に回避不可能なレベルで攻撃されておったからな?」

「ぷぇ?」


 今度は俺の方が変な声出た。


「つまりな、簡単に言えばおんしに攻撃は当たらん」

「え?」

「ついでに言うと、当たってもおんしは一切ダメージを受けん」

「え? え?」

「あとさらにな、おんしには魔法も猛毒も強酸も一切通じん」

「え? え? え?」


 それってただの無敵じゃん。


「ワケわかんねー……。“はぐれもの”って何なんだよ……」

「“はぐれもの”とは孤高の存在。神に非ず、魔に非ず、唯一無二の超存在よ」

「ネーミングふざけてるクセにそんなトンデモなシロモノだったの!?」

「そして“はぐれの恵み”はおんしを完全無敵にしてくれるのじゃよ」


 ――完 全 無 敵 !!!!!!


 そのワードを聞いた瞬間、衝撃が俺の脳天からつま先までを突き抜けていった。

 最速無敵どころじゃない。

 完全無敵。

 完! 全! 無! 敵!


「触れず、壊せず、冒せない。それこそが完全無敵。世界最高の防御スキルじゃ」

「つまり……」

「そう、つまり――」

「つまり俺が完全無敵世界最強天才頂点ってことだな!」

「え」


 どんな攻撃も俺には通じない。つまり俺が相手を一方的にボコれるってことだ。

 何だよそれ、最強じゃねーか。


 攻撃が最大の防御なら、防御は最大の攻撃でもあるワケだ。

 最高の防御能力を持つ俺は、最強の攻撃能力を兼ね備えているってことだな!


 これは、Sランクダンジョンの攻略だって夢じゃない。

 いや、むしろ簡単なのでは?


「うおお、今こそ悟ったぜ。俺こそ“英雄位”に一番近い男!」

「ちょ、あの……」


 だったらやることはひとつしかねぇ!

 そう。

 Sランクダンジョンへの挑戦だ!


 フハ、フハハハハハハハハ!

 燃えてきた燃えてきた燃えてきたァァァァァァァァァァ!


「坊? 坊? 待って、坊? まだ話し終わって……」

「ありがとよクソ賢者! 俺ちょっと戻るわ! それじゃあな!」


 そして俺は走り出す。


「坊? ちょ、坊ってば――――!?」


 ウルの声が聞こえた気がしたけど、そんなことよりダンジョンだ!

 今こそSランクダンジョンを制覇して俺は“英雄位”になるんだァァァァァァ!

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