第11話 イレギュラーな職探し②
ガイズに連れられ進んだ階段を降りると、そこは一見ただの倉庫のような部屋だった。
偽装工作はできてるってわけだ。
前情報も無しに踏み込んだだけじゃ摘発するのは無理だろう。
ガードマンはガタイのいい男と長身の男2人。
倉庫整理を装いつつ客以外が入り込まないよう目を光らせていた。
「あれ、ガイズさん? そっちのガキは?」
ガタイのいい方がこちらに目を向け、僕を指さして言う。
長身の方も僕を認めるや、訝しげな顔で値踏みするような視線を向けてきた。
「ディーラー志望だってよ。おもしろそうだったんで試しに連れてきた」
2人はへえ、と短く答える。
「旦那といいガイズさんといい、ガキに仕事任せすぎですよ。ここはいつから孤児院になったんですかねえ?」
「ははっ、確かに! あの嬢ちゃんもケンカはできるみてえだがまだまだガキだ。危なっかしくて見てられねえよ、なあ?」
どうやら僕以外にもここで働いてる子供がいるようだ。
ここの情報を色々聞き出すにはちょうどいい。
「そんなことより早くその孤児院とやらに案内してくれないかな。その壁の向こうなんでしょ?」
僕がそう言って指さすと2人が顔を見合わせてから壁に目を向ける。
長身の方がこちらを向くとき、視線が一瞬だけそこに寄り道をしてたから間違いない。
「……こういうやつだ」
呆れたように溜息を吐くガイズ。
「このガキ……何をっ!」
「手触りまで再現するクラスAの上物だぜ? 魔法的な干渉も無しに見ただけでって、いったいどうなってんだ……」
どうもこうも、いくら見た目では絶対に分からない完璧な偽装を施していたとしても、その存在を知ってる人間が情報を隠しきれない以上見破るのは簡単だ。
それに、よく見てみればここにいる4人の誰でもない複数の足跡が、なぜか壁に向かって歩いてるのが分かる。
目ざとい人はすぐに気がつくだろうし、これくらいは消しておかなくちゃね。
「おい、いいからさっさと開けろ」
しばらく狼狽えたままの2人に、ガイズは急かすように顎で壁を示す。
長身はわけが分からないといった表情のまま、ポケットから青い棒状の何かを取り出した。
ほう、あれが噂の魔導具というやつか。
「……〝帳は降り、幕は上がる〟」
長身が短く言うと魔導具が一瞬だけ光り輝く。
直後、壁にノイズのようなものが走ったかと思えば掻き消え、鉄製の扉が現れた。
なるほど、魔法で隠蔽してたのか。
音声認識か合言葉か、魔導具を持ってるだけじゃ偽装を解除できないとはよくできてる。
「どうだ、おもしれえだろ」
「え、ええ……なんというか、末恐ろしいガキですね」
そう言うガタイのいい男に僕は手を差し出す。
「ガキじゃなくてロジーだよ、よろしく」
「んお、お、おお。俺はベイだ」
戸惑うベイの手を握る。
ところどころ手の皮が厚くなっていた。
何か重いものを握って振り回していた人間にありがちな手だ。
「元兵士だね。参考までにどんな武器で戦ってたか教えてくれる?」
「バトルアックスだが……お前、そんなことまで分かっちまうのか?」
この手の感触は斧か、よし覚えておこう。
「ありがとうベイ。知られたくない秘密まで暴き立てるつもりはないから安心してよ」
背伸びをして肩から腕にかけて軽く2回叩く。
今後のために筋肉のつき方も多少確認しておいた。
それから長身の男の方へ振り向くと露骨にビクつかれる。
推測だけどこっちは魔法系だね。
自信のあった偽装を見破られて精神的に参ってる。
「さっきはごめんね。あの壁を見破ったトリックの種明かしをしてあげるよ」
「は……トリック?」
「そ、ここ見て。いくつも足跡があるでしょ?」
膝をついて地面を指さす。
長身の男も膝を折ってしゃがみ、僕と同じ目の高さになった。
「ああ、確かに」
「この行き先を辿っていくと……ほら、全部があの壁に向かってる。だから僕はあそこに扉があるって分かったんだ」
あまりに単純な種明かしに長身は目頭をおさえ長い息を吐いた。
がっくりと落とした両の肩に手を添える。
「これから僕もここで働かせてもらうわけだし、定期的に消しておくことをおすすめするよ。大丈夫、見た目では全然分からなかったから、お兄さんの腕は本物だ」
「そ、そうか?」
長身の表情に明るさが戻ってきた。
落としてから上げる。
人心掌握の基本中の基本だけど、こうも上手く決まると気持ちがいい。
「もちろん、これからよろしく。僕はロジーだ」
「俺はロイ。さっきは侮ってすまん、歓迎するよ」
実に友好的な握手をする。
こちらは特に変わった点はない、成人男性の普通の手だった。
さて、思わぬ時間を取ってしまったものの順調な滑り出しと言える。
ここで学費の全額を稼ぐのは無理だろうけど、情報収集をするにはこういうイリーガルな組織の方が何かとやりやすい。
少しだけ仲良くなった2人に別れを告げ、ガイズと共に熱気溢れる賭博場に足を踏み入れるのだった。
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