「――ユージン・シャーロットが狙撃されたとき、私は傍にいた」

 アーサーは鳴瀬に抱き締められ、動きを封じられた中、小さくそうこぼした。海風に掻き消されそうなくらいの小さな声は、鳴瀬の腕を少しずつ緩めていく。

「公表された情報には即死って書いてあるが……本当は少しの間、狙撃されて数秒ほど彼は意識を保っていた。ほんの僅かな時間、震える口で涙しながら私に言ったよ。『済まない』『許してやってくれ』……そして、六桁の数字」

 鳴瀬がついに絡めていた腕を離す――ユージン・シャーロットが実の父親ではなく、オーガスト・フレデリックが本当の父であるということ。アーサーの母親が日本人であるということと、流行病で亡くなったということ。

「書斎の金庫に葬儀を終えた後に向かった。数字を入力して、開いた金庫の中には書類があった。全部に目を通して、自分が何者なのかがはっきりとしたよ。私がフレデリック家の人間なんだってことを」

 瞳に涙を浮かべ、アーサーはその場に座り込んだ。見下ろすアルバートは怪訝そうに口を開いた。

「何の話だ? お前がフレデリック家の人間?」

 見上げ、アルバートを睨む。

「『済まない』はずっと黙っていたことへの謝罪だろう。『許してやってくれ』は、自分を撃ち殺そうとしていたお前に対しての言葉じゃないとはっきりとわかった。実の父親であるオーガスト・フレデリックを、一番の親友を許してやってくれほしいっていう意味だったんだ」


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