◆
「なあ、
「知らねえ」
客船後尾のデッキでサブマシンガンを持った二人の男は暇そうにくだらない会話をしていた。シャーロット一家を裏切り、アルバート率いる新たな組織立ち上げに賛同し、見張りに立たされていた二人は、騒ぎの大きい客船前部の真逆の位置にいるせいか、関わりが少ないために暇を持て余していた。
「海難法師っていうのは日本の幽霊だそうだ。水難事故で死んだ奴らが沖からやって来てさ、そいつを見ちまったが最後、そいつと同じ死に方をするらしいぜ」
「ははっ、そいつは怖いな」
鼻で笑って、聞いていた側の男は不意に耳に手を当てて海のほうへと向けた。
「何の音だ?」
「お前、まさか、馬鹿にしてんのか」
「してねえよ。本当に何か聞こえるんだって。海難法師って海から上がってくるものなのか?」
「いや、知らねえけど……手足はあるんじゃねえのか?」
「じゃあ、這い上がってきてもおかしくないよな?」
目を合わせ、二人して暗闇の中の海を恐る恐る覗き込む。
「……いねえな」
「当たり前だろ! いたら……」
「おまえ、怖いのか」
「怖くなんかねえよ。おまえこそぎこちない動きしてるぞ」
「いつもの俺はこんな感じだ」
「いつものっていつもは違うだろ」
「同じだって!」と言い争いながら二人が海から目をずらした瞬間、二人の横に佇む、水を滴らせた黒い影が視界に入った。しかし、二人はどういうわけか視界に入ったその黒い影に目を向けることができなかった。足が竦んでいるわけでもなく、冷や汗だけがじっとりと服と肌を湿らせる。そして、その黒い影は、二人にだけ聞こえる程度の小さく、しかし耳の奥に流れ込んでくるような清々しい声で囁く。
「海からは上がってきましたが、残念、私は海難法師ではありませんので、同様の死に様を与えることは不可能です。しかし、ご安心を。死とは生物にとって平等なものです。私は同様ではなく、平等の死を与えましょう」
自分たちの身体がばらばらになっていく。最後に見えた黒い影は、笑顔を浮かべて佇んでいた。
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