◆
隣にいるのが警察官だとは思いたくないと由良は感じた。しかし、これが現実だ。正義を背負うのは人間だ。しかし、この世には完璧な人間など存在しない。不完全だからこそ、正義という言葉はいつまで経っても芯の通らないままだ。しかし、この不和紀朔は正義も何もない。自分で正義が云々言っているが、彼の中には私利私欲に溺れた欲望しか存在していないのだ。
「さっき、不確定要素と由良くんは言いましたが、黒川くんは、きっとその不確定要素すら
全ては己の手の平の上で。
不和紀朔は、おそらく物語で言う『黒幕』だ。裏で世界を操る、一番危険な存在だ。いつの日か、自らの欲を満たすために黒川の敵に回り、貶めてくるかもしれない。由良がスマホをポケットに入れて指先に力を込めると、見透かしたように不和が笑った。
「黒川くんは私が興味を持った最初の人間、私が今の自分に目覚めるきっかけとなった特別な存在です。だから彼のための警察内部の情報操作や、逃亡ほう助のための資金作りも惜しみなく続けます。ただし」
不気味な気配に、由良は自分の指先が震えていることに気付く。この男が危険だと、本能的に感じている。
「期待に応えることができなくなれば、私は容赦なく彼の敵となるでしょう」
嬉しそうに、楽しそうに、笑っていなうな気味の悪さが車内に蠢いている。思わず息を止め、思わず
すっかり日も暮れ、星が煌めく夜空はこの男と一緒でなければロマンチックな光景であった。
「そういえば、さっきから誰かと連絡を取ろうとしているようですが?」
「津屋という情報屋です。少し前から連絡が途絶えまして」
ふむ、と言って不和は「津屋とは、津屋頴治くんでしょうか?」と自身のスマホを取りした。
「ご存じで?」
「名だたるマフィアや犯罪組織が国内に入って来たことから警察は彼らをマークしていました。その中で例の裏切者、アルバート・フェザリーが昨日動きを見せて……これを」
言って、不和はスマホの画面に映し出した写真を由良に見せる。写真にはアルバート・フェザリーと行方がわからなくなっている津屋頴治の姿が、一緒に写っていた。それも、金を受け取り、にやけ顔をした津屋の顔がはっきりと映っている。
まさか、と由良はタブレット端末をダッシュボードから引っ張り出し、自分が個人的に収集した情報と津屋の情報を照らし合わせる。基本的に津屋の情報を元に立てた計画だ。由良の収集した情報よりも正確だと踏んでいた。それが最大にミスだった。照らし合わせて相違点を見つけ出した由良は、急いで黒川に電話を繋ぐ。しかし、繋がらない。
「黒川さん……」
見透かしたかのような口調で、不和は言う。
「緊急事態のようですね。でも、きっと大丈夫ですよ」
「でも、これは」
「由良くん、きみは不確定要素を二人と断定していませんか?」
不和の言葉の意味を探り――天嵜桐乃が頭に浮かんだ瞬間、不和の言葉の意図を知る。
「我々はここで眺めていることしかできない。事の顛末がどうであれ……黒川くんがちゃんとしてくれますよ。私は彼を信用していますから。あなたも、そうでしょう?」
焦りから、少々動揺してしまった由良は、スマホを握り締め、シートに身体を沈めた。
どうか全員無事に戻ってきてほしい。家族ではなくとも、由良にとってそれ以上に大切な存在だ。
赤く燃え盛る炎がいっそう増していく。願いが届くように、と由良は固く目を閉じ、両手を握り締めた。
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