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きらびやかな衣装を身にまとう、どちらかと言えば嫌いな部類に入る面々を通路沿いの窓から覗き込む。パーティー会場、否、オークション会場のステージが始まり、せり上がって来たショーケースの中身を見て「あれだな」と呟いた。次の瞬間、鳴瀬は人の気配を察知して物陰に隠れる。会場の警備員、ではない。明らかにそっちの筋の人間であることがわかる強面に鳴瀬は舌なめずり、相棒をホルスターから抜き取った。男たちの装備と面を見て、数人の顔に見覚えがあると鳴瀬は思った。
「殲滅されたグリケルト・バーボンとクランチ・ハーバーの部下も混ざってんな……アルバートの野郎、随分と欲深いな」
シャーロット家、フレデリック家だけでは物足りず、他二つの組織の残党すらも手駒に。武装集団と武器密輸組織、戦力補強として考えるのが妥当だ。しかし、血の気の多い連中を大勢抱え込むのは逆に危険な行為でもある。
「となると、手駒じゃなくて捨て駒か」
トリガーに指をかけ、鳴瀬は時を待つ。おそらく、この仕事はそう長くはかからない。しかし、密度の濃さがあるだろうと予測し、ゆっくりと呼吸を整える。瞳は鋭く、殺し屋としての血を滾らせる。
◆
「オーガストの旦那はまだ部屋か?」
貨物室に潜むアーサー・シャーロットはワインボトルに直接口を付けてラッパ飲みをしながら、オーガスト・フレデリックの様子を側近、アルバート・フェザリーに訊いていた。
「海風は身体に障ります。オーガストも歳ですから、いろいろと手を回して一等客室を借りたとのことですし、少しは大目に見ましょう。それよりボス、ダイヤ強奪のタイミングをオーガストに任せてよろしかったのですか?」
「あの大手商会がオークションから手を引いた時点で誰が最初に奪い取っても問題はなくなったわけだが、きっかけは誰が作ってもいい。むしろ汚れ役だ。最後にダイヤが手に入れば、それでいい。動きが見えた時、それが開始の合図だ。銃器の確認を怠るな」
アルバートが部下の下へ向かい、指示を出している。そのアルバートを軽く睨み、見覚えのない部下が随分と船へ乗り込んでいることにアーサーは気付いていた。
訊ねてみても、どうせアルバートのことだ、独断でシャーロットの規則に則った人間性と忠誠心は確かなものだと判断したため加入させました、などと言って誤魔化す気でいるのだろう。
「ボス」
組織の連中のほとんどがアルバート側についたと考えられる。数人の信頼できる部下以外が、敵。貨物室から静かに出ると、アーサーは後方へと双眼鏡を向ける。見覚えもないヘリコプター、十数艇の小型船。アルバートも遅れて外へ出てくると、表情を曇らせた。その一瞬の表情を見て、アーサーはあのヘリコプターや小型船がアルバートの手配したものではないと即座に判断した。では誰の手先だ? と瞼を薄く閉じる。居酒屋で会ったあの三人組か、それともあの警察官か。
「……どうしてあの人は私を助けに来てくれたのかな」
虎波生絲。会ったこともなければ名前も知らなかった。しかし、過去に何らかの接点があったのかもしれないと、ずっと抱いている彼への違和感を何度も何度も反芻する。懐かしさが滲み出して来た時、船内に銃声が鳴り響く。目を見開き、すべてを振り払って腰に下げていた銃を抜き取る。今はあの警察官のことを考えている暇はない。オークション会場から聞えた銃声ではないことはわかっていたが、しかしオークション会場は騒がしくなり、今度は会場から銃声が響き始めた。オーガストが仕込んだきっかけだろうと考え、アーサーは全員に支持を出し、会場へと向かって走り出した。
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