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重苦しい溜息を吐くほとんどの上層部に苦い顔を向けるものの、彼らから『士気』は微塵も感じられない。呆れるほどやる気のない雰囲気に思わずテーブルの下で拳を握りしめる。そんな中、不気味なほど落ち着いた声で不和が提言する。
「もう少し情報を集めましょう。今のところ犯罪組織と黒川一士の共通点は見当たらない。しかし、黒川一士の信条からして、ここ日本で何かを奪い返そうとしているというのは間違いないでしょう。動きは必ずどこかで見られるはずです。水面下での捜査でじっくりと足元から削っていくのが賢明かと」
「ですな」と一番眠たそうにしていた男が席を立ち、連鎖するようにその他上層部の連中は退席していく。立ち上がって頭を下げて見送った灘は小声で「何が『ですな』だ、クソ野郎」と呟く。しかし、顔を上げてみると上層部の連中だけが退席し、不和だけは残っており、席に座ったまま書類を眺めていた。しまった! と慌てて取り繕うとするが、彼は何も気にしない様子でにこりと微笑んだ。悪魔のように裏のある笑みに、悪寒が走る。警視総監という役職に就きながら、正義という言葉と縁遠そうな雰囲気を不和は放っている。
「彼らは学歴、経歴、地位しか持たない連中だ。クソ野郎とは穏やかではないが、気持ちはわからなくもない。ただ、彼らには地位相応の責任がいくつものしかかっているんだよ。大目に見てやってくれとは言わないが、目を瞑ってやってくれ」
「然るべきとき、責任をとらずに逃げる者もいます」
「ならば枷をして、逃がさないことだ。きみは例の支援者絡みを名目に最近警察内部も洗っているそうじゃないか。いいネタぐらい、もう掴んでいるのだろう?」
ナイフを首元に突き付けられたような感覚に、膝が僅かに震えた。すぐに堪えて、ビッと背筋を伸ばす。
「例の支援者は一切素性のわかっていない連中です。警察内部にいないとは限りませんので、当然の捜査だと判断しております。問題であれば、すぐさま内部調査の停止を致しますが」
「いや、いいよ。好きなだけ調べるといい。幸い、公安の委員長とは昔からの友人関係だから、より詳細な情報を得たければ警察官データベース使用許可を申請してあげてもかまわないが」
「是非」
「わかりました、では私もこれで。今日は会議に出られなかったようだから、
「若い奴にはちょうどいいぐらいですよ」
「だといいですがね。では」
パタンと扉が閉まり、ネクタイで首を締め上げられていたかのような雰囲気から解放され、緊張の糸が緩んだのと同時にどっと汗が吹き出した。
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