楽園に猫一人

「わぁ!?シロさん!?大丈夫ですか!?」


「うぇ… 吐きそ… あぁ吐きそ…」


「おい?おいユウキ!しっかりしろ?大丈夫か?奥さん来てくれたぞ?」


「水、水飲みたい…」


 その晩彼は酷く酔っていた、慣れない酒を飲み過ぎてしまったのだ。

 

 その日は彼の元に親友ゲンキが訪れており、近況報告など兼ねて少し酒でも嗜もうということになっていた。


 がこの通り彼は酔いつぶれている、元々弱いのだが今日はやけに酒に飲まれている様子だった。


「シロさん?歩けますか?横になりましょう?」


「かばんちゃんの膝枕がいい…」


「え、えぇ…?ん~しょうがないなぁもう、ゲンキさんが見てますよ?」


「見てるから膝枕…」


「ふふふ、もう… はいはいどーぞ?」


 彼女はグッタリとしている彼に目を向けたままソファーに座ると、ポンポンと膝を叩き「おいで?おいで?」と言うように手招きをした。


 そんな姿を見て… 「なんだコイツらいい歳して見せ付けてきやがる」と思っていたゲンキ、なんだか無性に家族が恋しくなってきた。


 そして宣告通り妻かばんに膝枕をしてもらった彼はその後ほんの数秒のうちに眠りに落ちてしまった。


 彼がこれほど飲んでくるのは大変珍しいことだ、なにせ酒が苦手なので普段からあまり口をつけようとしないのだから。


 これは周りに「まだまだ子供だな?」と煽られたところでどうにもならない、体質上弱いのは誰しもあることだ。


 そんな彼がこうして酔いつぶれていることに、妻かばんはどこか不安を覚えていた。


「あの、夫は何か言っていませんでしたか?悩みとか…」


 優しい手付きで彼の耳を撫でながら飲んでいた時の彼の様子をゲンキに尋ねた。


「ん~いや悩みというか…」


「やっぱり、何かあったんですね?最近こうなんです… シロさん少し表情が暗くって、隠してるつもりだろうけど僕にはすぐにわかるんです、でも大丈夫?って聞いたら“なんでもないよ?”ってなんだか泣き出しそうな目で僕に言うんです」


 彼のことだ、恐らく何かしら理由があって言えないことがあるのだろうというのは彼女もわかっている、だが彼が悩んでいるときに何もしてやれず何も話してもらえないのがもどかしく、辛くて仕方なかった。


「奥さん?これだけは保証しよう、ユウキはあなたを裏切ったり傷付けるようなことはしてないしもちろん家族のこともよく考えている、ただ言い方が悪いけど夫婦ってのは飽くまで他人なんだ?どんなに仲が良くても言えないことや言いたくないこともある、仲が良いなら尚更ってことも…

 だから俺からはなんも言えねぇんだけど、もしこいつの口から話す気になったらその時は黙って聞いてやってくれませんか?文句もあるだろうけど、そういうのも全部聞いてからにしてやってほしいんです、どうかお願いします?」


 やはり、なにかあったらしい。

 彼はまた何かに悩み傷ついているのかもしれない。


 それがあまりにも言いにくいことで言い出せずに溜め込んでいるのかもしれない。


 その時、かばんは辛く悔しそうな表情をしたが、彼のだらしない寝顔を見るとまた優しげな目をして「わかりました」と答えた。







 家を出たゲンキは飲んでいる最中の会話を思い出しながら歩いていた。



 夢か現実か曖昧だってアイツは言ってたけど、話によると異世界に行ったってことだよな?サンドスター不思議すぎんだろ…。



 彼に起きたことをゲンキが聞いたのは飲んでいる時、やけにペースの早い彼にゲンキが注意を兼ねて尋ねた時だ。


「おいおいお前無理すんなよ?どうしたんだよらしくもねぇ?」


「なぁゲンキ… 誰も自分を知らない世界で自分の嫁さんそっくりの子がそこに居たとき、お前ならどする?」


「はぁ?何の話だ?」


 話の意図がわからなかった、彼も既に酔っていたのだろう。

 でもきっと少しでも酔わないと話し出せないほど複雑の話なのだとゲンキは思った。

 

「思い出したんだ、なんで忘れてたんだろうなぁ… なんで今になって思い出したんだろう?わかんねぇなぁ、でもできれば思い出したくなかった、こんなの飲まなきゃやってらんねぇよクソ」


「何があったんだよ?」


 彼によると、子供達が7才前後のことだったそうだ。

 

 実は彼は例の封印を受けてからスザクに定期的に顔を出すように義務付けられていた。







「来たか?では座れ、心を無にしろ」


 これは四神獣スザク様曰く、精神修行。


 心、感情のコントロールを上手くするようにと直々に御教示受けているところなのだ。


 それは落ち着きもでて大人として成長できて良いことだとは思う、でも俺としてはなぜこんなことをわざわざしなくてはならないのか正直よくわからない。


 スザク様は…。


「我が力を持つ以上それに責任を持て、またくだらんことに自己嫌悪して己を焼くようなことがないように完璧に操れるようになっておくのじゃ、すぐに感情的になり勢いで力を振るった時、またあれの繰り返しになるじゃろう… お前は図体ばかりでかくなって子供達とそう変わらんのじゃからな?」


 怒りっぽいのは認めよう、でもそこまで言うことないんじゃないですかね?それに一つ疑問があったので俺は尋ねた。


「その為の封印でしょう?あの… ごめんなさい、これ必要あります?」


「フム… 言うてなかったな」


 この時、スザク様は俺に掛けた封印について詳しく教えてくれた。

 でもクドクドと長いので簡潔に話をまとめるとだ、どうやらこの封印はある条件下で簡単に解けてしまうらしい。


「よいか?我が浄化の業火が本当に必要になった時、お前の中の炎もそれに応え力を貸してくれることじゃろう、理由にもよるが我が力が正しいと判断すればお前は再び浄化の業火をその身に纏う… もっとも、余程の敵が現れん限りお前のしん野生解放やせいかいほうで十分じゃろうがな?サンドスターコントロールとやらの究極系じゃ、あれだけで大抵のやつは捩じ伏せられるじゃろう」


 では、封印と言いつつ許可制になっただけなの?厳しそう…。


 しかし、大抵のやつねぇ?でもあれは対セルリアン専用の力だ、フレンズ相手に使っていい力ではないし…。


 そりゃ誰にも負けないだろうけど、それは例えばサッカーの試合でアメフトみたいにボール抱えてタックルしたら勝てると言ってるようなものだ。


 戦いに置いて必ずしもルールに乗っ取った戦いというのがあるわけではないが、試合と殺し合いは違う。


 師匠とやってるのは試合や稽古、力試しなのでどれだけ頼まれてもあの力は使わない。


 というか、どこかでセルリアンを捕まえて糧にしなくてはならないんだ、つまり相手がセルリアンでしかも多対一の時くらいにしか発動できないだろう。


 意外と使い勝手が悪いのだ。


「ん?何をつまらん顔をしとる?まさか我を倒せば封印が解けるとでも思っとらんか?」


「思ってないし流石に勝てないですよ、冗談やめてくださーい?」


「どうだかのう?まぁいい、そらさっさと瞑想せんか?」


 はいはい…。


 なんて思いながらも俺はおとなしくその場に座禅を組み目を閉じた。


 何度も渇が入ったが、そんな修行のおかげか俺はどんどん心に落ち着きが出てきた、やっと大人になってきたって感じ。

 余裕ができたんだ、博士達からもなにが変わったか具体的にはわからないがなんとなく物腰が落ち着いてきた気がすると褒められたものだ。




 だがそんな修行を続けていたある日、それは突如として俺の身に起きたのだ。




「シロよ、これを持っていろ… アイタ」ブチ


 とある日スザク様が手渡してきたのは例の如くその美しい尾羽だ、痛いなら無理すること無いけど、あっさりとユキにもあげていたしかばんちゃんも何故か持ってたし正直これになんの意味があるのかわからない。


「あ、はい… あのー?これ持ってたらなんかあるんすか?」


「特に無い… いやその~?なんじゃ?お前は来る度にうまい飯をくれるし、修行も文句一つ言わずやっとる、だからほら?お礼じゃ、この四神獣スザクの尾羽じゃぞ?大事に御守りにでもせい!お前は只でさえ危なっかしいし何かあったらまたかばんや子供達も悲しむからのぅ!」


 誰かに何か言われたんだろうか?頭をポリポリと掻きながら照れ臭そうにしてるスザク様はとても新鮮で面白い、だけど確かにこの偉大なるスザク様からのプレゼントだし大事にさせてもらおう、アリガタヤ… アリガタヤ…。


 俺はその赤く輝く尾羽をスッと胸ポケットに押し込んだ。


 お返しと言ってはなんだけど、スザク様暇そうだし今度はお弁当の他にギロギロを一巻から持ってってあげようかな?



 なんて思いながら俺はいつものように座禅を組み目を閉じた。








 どれくらい時間が経っただろうか?と雑念が混ざり始めた。


 まずい、「喝!」が入る!


 しかし。



 ッ!?



 その時、何か異様な気配を感じた俺は目を開いた、光が差し込み一瞬目が眩んだがそんなのお構い無しに立ち上がり目の前に現れたそいつを凝視した。



 突如として現れたもの、それはセルリアンだった。


「何ッ!?」


 そいつはカニの足みたいな爪を俺に振り下ろすまさにその瞬間だった…。


 ズドン!


 それを咄嗟にバック転で回避していきなり現れたそいつを見直した、するとどうだ?変なやつ… 結構でかいんだ、そして形は見たことのないタイプ、球体とかそういうんじゃなくなんだか生物的なフォルムをしている。


「この形は見たこと無いな… しかもなんだよコイツ気持ち悪い、クモみたいだな?セルリアンのやることはよくわからないな… しかしこんなところにこんなでかいやつが?いやそれよりスザク様はどこ?スザク様!御無事ですか!」


 スザク様からは返事が無い、姿も見えない。


 まさかセルリアンに?嘘だろ?いや、あのスザク様だぞ?セルリアンなんかに遅れをとるかよ!


 ウォォォォォ…


 セルリアンが何か呻き声のようなものをあげてこちらに再度迫り寄ってくる。

 とにかく、今はこいつをなんとかするのが先決だな。


「この…!どけ!」


 俺はまずそいつをサンドスターコントロールで作り出した特大の拳で殴り飛ばし、そうして浮き上がったところを光の縄で縛り上げ引き寄せる、そしてもう一度拳を作りだして力任せに何度も地面に叩きつけた。


 なんでって石を探してる余裕がなかったからだ、とりあえず焦っていた俺は気が急いてただただそいつを痛め付けていた。


 パッカーン!


 やがてそいつの石に限界が来たのか勝手に弾け飛んでいった、こういうところが駄目だと言われているのについ心を乱してしまった… 反省反省、また渇が入るぜまったく。


「スザク様!どこですか!」


 呼んでみたが、やはり返事はない。


 いない… 代わりにいつもの定位置であるそこには見たことのある懐かしいものが置いてあった。


「スザク様の石板… 嘘だろ?輝きを奪われたっていうのか!?スザク様が?そんな!」


 あの四神獣スザクだぞ!?ただのセルリアンに負けるはずがない!不自然だ!


 慌てた俺だったがこの状態でできることは少ない、とにかく現状起こりうる事態について考えた。


 しかし、それならそれでどうするか?ここにあの変なセルリアンが居たってことは他にもいるのかも、こうなると他のちほーが心配だ、スザク様も気になるが家族の安否が気になるところだ。


「黙っていても仕方ないな、ここのことは後でゲンキにでも伝えるとして、一度帰って下の様子を…」


 ってオイオイ… なんだこりゃあ?


 驚いたことに、さっきのヤツに似たヤツらが群れでこちらに迫ってきている。


 退路を塞がれたようだ、デジャブだな火山で囲まれるなんてさ?

 まさかそもそも俺を狙って発生したのか?いやこいつらにそんな思考はできないはずだ、しかし益々不安になってきたな…。


 家族のことを思うと、また更に気が急いてしまうが…。


「フー…」


 呼吸を整え、セルリアンの群れを静かに睨み付ける。


「OK… クールに行こうぜ?まずは“エネルギー補給”だ、効率よく確実に叩くんだ?できるな?何のための修行だ?よしやるぞ!」


 自問自答で頭の中を整理すると俺は駆け出した、そしてまっすぐ群れの先頭にいるセルリアンに腕を突き刺すとすぐにサンドスターロウの吸収が始まる。


 同時に浄化が進み、俺の体がサンドスターに満たされていく。


 パッカーン!


「よしっ」


 これが真・野生解放、俺は縮んだセルリアンを握り潰すと全身に輝きを纏い群れの掃討に入った。


「まとめて相手してやる、覚悟しろッ!」




 







 

 

「シキ君?そういえば読んでくれました?」


「あ、うん?“白い猫”ね、伝説にもなってるなんて不思議な物語ですよね?」


 男女がいた… 片方はヒトのオス、人間の男性でありもう一人女性の方はフレンズ、ジェンツーペンギンのフレンズである。


 ジェンツーペンギンと言えば、もちろんパークのトップアイドルPPPのメンバーであるジェーンのことだ。


 そんなアイドルジェーンとこのうら若き17才の少年シキ、二人はまだ付き合って日が浅い恋人同士である。


 そんな二人の甘い日常に、これからやけに口が悪い機械音声が水を差し雰囲気をぶち壊すのだ。


「ヒトの世界では辛い人生を歩んでいたフレンズとヒトのハーフの男の子がパークで幸せを掴んでいくんです… 恋人ができて結婚して子供ができて、はぁ~胸にきゅんときますよねぇ~?私達もいつか本の二人みたいにシキ君と結kk…」

『セルリアン反応!何をデレデレしてるんですこの糸目!さっさと倒しに行くんですよ!数結構いますよ!』


 このクソッタレ性悪グローブめ、時計の姿になっても間が悪いのは健在か?時計らしくタイミングくらい計れよバーカバーカ。



 少年シキはそんなことを内心ぼやきながらも仕方なく立ち上がり恋人の元を離れる。


「ジェーンさんごめんなさい!続きは後でゆっくり!」


「シキ君、無茶しないでくださいね?」


 去り際ジェーンは彼の唇を奪い無事を祈った、ゆっくり名残惜しそうに離れる唇にシキも歩を止めてしまいたいがそうはいかない。


 彼はデレデレとニヤける口元を誤魔化しつつ外に出るとその腕に付ける時計型の機械… LBsystemType2とのいつものやり取りを始める。


「サンドスターは?」


『満タンです、今更聞かなくてもわかるでしょ?早くしてください』


「コイツはなんでこう… まぁいいや、んじゃ… “装着!”」


 装着… その掛け声と共に側にいたラッキービーストが彼の体にガシャンガションと音をたて装着されていく、時計型だったType2もグローブ型に展開された。


 そして…。


『セット グレープ』


「おっし!行くぞ!」


 そこからさらに金属音をたて変形した装甲、まるでバイクのパーツを全身に纏ったような形をしている。


 そしてマフラーのような部分からジェットを噴射したその装備は容易く彼の体を宙に浮かせ、そのまま一直線に火山へ向かっていく。



 彼はタダのヒト、しかしヒトなりに戦う術を持っていた。







クロスオーバー


猫シリーズ(気分屋)×獣人の楽園(タコ君)


コラボ先↓

https://kakuyomu.jp/works/1177354054884938234

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