#478 コンバート記念・事務所対抗大会④
「はぁ~、ようやく進んでくれましたね。すいません、お待たせしちゃって」
「いえ、自分は……」
向井を含む大会運営が、最初のボス撃破に安堵する。
「各事務所に、もう少しペースを上げてもらうよう、呼びかけますか?」
「そうねぇ~、遅れ気味だってことくらいは、伝えても良いかもねぇ~」
「このままスキルコンプに時間を費やされても、困りますからね」
この大会はリアルタイムで配信されており、制限時間がある。それは事前に通知しており、残り時間も表示されているのだが…………どうにもコンバートエリアが解放されてからの進みが悪い。
「しっかし、あれだけ無理言っておいて何だよ! FSLの連中、やる気あんのか??」
「こら、口を慎め。思うところはあっても、これは仕事だぞ」
「す、すいません」
遅れている理由は他にもある。積極的に優勝を狙っているはずのFSLゲーマーズが、予想以上に慎重なのだ。これはRPG的な理由なのだが、次のエリアに進む前に、行ける場所はすべて確認し、入手できるアイテムは全て揃えたくなってしまう。
「いっそ、テスト版って事でスキルレベルの上限を3とかにしておくべきでしたね」
「それか、ボスの前に"適性"を書いておくか」
最初の中ボス前で入手できるスキルのレベル上限は3。これはスキルの上限が10であり、ステージの長さを考えると仕方のない配分だったのだが…………そのせいで『中ボス前にスキルを揃えないといけない』と錯覚させてしまった。本来のWCは、もっと気軽に挑んで気軽に死ねる仕様になっているのだが、事務所対抗という事もあり略奪行為を過剰に警戒させてしまった。
「そういう事しちゃうから、ヤラセとか、レールプレイって、言われちゃうのよ~」
「その点、DooMは優勝候補だっただけあって、鼻がききますね」
FSLゲーマーズはプロゲーマーを目指すアイドルストリーマーであり、プロゲーマーではない。いくらファンの間で最強だの天才だのともちはやされても、所詮はアマチュア。そもそも……。
FSLゲーマーズは勝てる勝負しかしていない。配信では高い勝率を維持しているが、参加しているのは主に同じ実力のプレイヤーがあつまるランクマッチであり、それも配信外の負けや総試合数の問題でなかなかランクアップできずにシーズンを終えている。
「逆にFSLは安全第一ですね。負けるくらいなら不戦勝を選ぶ感じ」
「それは…………まぁ、彼らも色々事情があるんじゃないか? 事務所に、全部管理されているんだろ??」
「それにしたって」
ともあれ、エンターテインメントと考えるとFSLの方針も間違ってはいない。何も1番をとる事だけが価値ではない。プロのステージで戦い抜く実力が、無いのなら。
「まぁ、自分としては、このまま時間切れで出番なしで終わっても、構わないですからね」
「それは! できるだけ、彼らには頑張ってもらおう」
*
「よし! またレベル4だ! 明らかに(入手できる)スキルのレベルが上がっているぞ!!」
「それで、次のボスはどうするんだ?」
「それは…………もう少し、せめて主要スキルは(全て)3以上にしておきたい」
相変わらず、石橋を叩いて渡るのはカムイ。彼は実力もさることながら『負けない立ち回り』を重視するプレイスタイルであった。
「多少欠けていても、5人ならいけるんじゃないですか? 時間も惜しいですし」
「それは…………いや、でも」
カムイの背中を押すのはヨゾラ。事務所も含めて、攻略ペースを上げるよう指示はでているのだが、慎重派のカムイは何かと理由をつけて『様子を見る』を選んでしまう。
「焦る必要は無いって! どうせ城の中ではもっと強力なスキルが手に入るんだ。このままDooMに先行させて、城に入ってから一気に行こうぜ!!」
「そうだな。ジョーの言うとおりだ」
カムイにも男やゲーマーとしての闘争心があり、矜持がある。実際、戦闘能力も獅子王には及ばないにしても充分平均以上に纏まっていた。
問題なのは、保守的な性格にもかかわらずFSLトップの戦績であり、アタッカーまでこなせてしまう点だ。そしてその受け身ながらも万能な点は、FSL運営からは都合が良かった。
「そういえば…………チートポーション、出ていませんよね?」
「え? あぁ、そうだな」
「もしかして、ボスの撃破報酬なんじゃないですか?」
「え? いや、そもそもドロップするかも分からないじゃないか」
通常プレイでは入手できない無敵化や必殺ポーション。ヘルタイト装備も含めて、もし入手できるとしたら出現数が限られるボスドロップの可能性が高い。
「でも、もし入手できるとしたら、1つじゃ足りないですよね? 無敵も奈落に突き落とされたら無意味ですし」
「それは……」
「それに、スキルレベルをいくら上げたところで…………あの、向井さんに通用するとは思えません」
「た、たしかに」
あの対戦が無ければ、カムイもスキルやパーティープレイを重視したかもしれないが…………向井の強さはその外にあった。仮に5人が万全の状態でも、向井が相手では足りない。
「この大会、相手はDooMでもなければFHでもありません。向井さんを倒せるかどうかの戦いなんです!」
「「…………」」
「そうだ。そうだった。そうだよな! ヨシっ! 目指すはチートポーション! ボスを倒しまくって向井千尋を倒すぞ!!」
「「おぉ!!」」
カムイの慎重さの根底にあるものは優柔不断であり、背中を押す理由が揃えば、そのタガも外れやすくなる。
「(フフフっ、がんばってください。そうでなくては……)」
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