#190(4週目日曜日・午後・セイン)
「そう言えばニャン子」
「んにゃ?」
「お前ってスバルと、その…、いや、何でもない、忘れてくれ」
「何となく言いたいことは分かるけど、勘違いだから安心するにゃ」
「あ、あぁ、それならいいんだ…」
昼、いつもの三人で旧都に来ていた。
一応、スバルも誘ったのだが…、どうにもよくわからない理由で断られてしまった。まぁ、ユンユンの事もあるし、色々あるのだろう。スバルは、ユンユンとイイ感じに思える時もあったが、今はニャン子とも何やら示し合わせていると思える場面を見かける。スバルも"男の子"なので異性が気になるのは分かるし、あまり煩い事は言いたくないのだが…、あくまで俺はゲーム内での恋愛は否定派。個人的な価値観を押し付けるつもりはないが、共に行動するなら節度は必要だ。
L&Cに限った話ではないが、交友関係のもつれでギルドが崩壊したって話は本当によく聞く。あまり想像できないが…、スバルにアイを引き抜かれた日には、流石の俺も痛いどころの話では済まない。仲間外れにするようで気が引けるが…、今後はアイのいる時はスバルを無理に誘わない方がいいかもしれない。
「ところで兄さん」
「はひ!」
「兄さん?」
「いや、なんでもない」
つい言葉がうわずってしまった。
アイは、なんだかんだでニャン子と上手くやっている。しかしこれは、あくまでレアパターン。俺も気楽なソロPCなので人の事は言えないが、例えば大勢で攻略するのが前提のクエストがあったとしたら、俺なら行きづりのPTで攻略するのに対して、アイの場合はスッパリ諦める。
「そうですか。兄さんは、魔人と人族、どちらを勝たせるつもりですか?」
「いや、俺の一存で決まるものでもないだろう?」
魔人侵攻イベントでの勝敗は、ゲーム全体に少なくない影響が出る。難易度も頑張り次第でどちらにも転がるように設定されているので…、勇者同盟あたりはガチでどちらを勝たせるか擦り合わせをしていそうな気がする。
「そうですが、参加するのなら無関係ではすまないかと」
「そもそも参加するつもりにゃ?」
「あぁ、そうだよな…、お前たちはどうなんだ?」
「私は兄さんにお供するだけです。その兄さんが…。…。」
「あー、あ~!! アチシは一応(6時代は)参加していたけど、今回は兄ちゃんたちが参加しないなら、見送ろうかにゃ」
アイの呟きを必死で遮るニャン子。悪い感じはしないものの、最近、ニャン子の挙動がおかしい。まぁ見た目に反して、根は責任感が強く、気を使ってストレスを溜めるタイプなので…、妙な"勘違い"から空回りでもしているのだろう。
「まぁ、C√だと勝ちに拘る意味はないからな…」
「そういうことだにゃ」
「 …。…。…!」
「そうだなぁ、まだ決めかねているんだが…」
「意外だにゃ」
「ん? 何がだ??」
「いや、兄ちゃんなら、すでに先の先まで考えていると思っていたにゃ」
「買い被り過ぎだ。考えているのは事実だが、状況は常に変化する。未来が見えるわけじゃないんだから、どちらが得か、悩んでばかりだ」
「はい、さす兄さす兄。全然予想通りだったにゃ」
「??」
よくわからないが…、侵攻イベントはどちらが勝つにしろ負けるにしろ、メリットとデメリットが存在する。6時代は偽装していなかったのでシンプルだったが、今回は√だけでなく勇者同盟や自警団、EDの動向と考える事が多すぎる。
①、支配領域の変動。L√だと一部のイベントが変化するし、魔物の配置も変化する。ざっくり一言で纏めるなら、難易度を変化させるかって話だ。
②、√ポイントの獲得。イベント戦闘は通常よりも多くのポイントを稼ぐチャンスであり、時間が許すなら極力参加することが求められる。とくにL値はアルバ軍に協力する関係で多めに貰えるので勇者が勢ぞろいすることも珍しくない。
③、希少アイテムの入手チャンス。現状ではリスクが高すぎて実質入手不可の高ランクアイテムを数の暴力と運で入手可能。もちろん確実性は全く無いが、運良く入手できれば大きなアドバンテージになる。
④、寝返ってC値を稼ぐことも可能。未転生の現状では最初から魔人軍に組する作戦は使えないだろうが、組しなくともPCやアルバ軍を攻撃して、魔人軍を勝たせたり、単純にC値を稼ぐこともできる。イベント中は治外法権で、指名手配などは出来なくなるので普段よりも低いリスクでPKが出来る。もちろん、そんなことをすれば軍も反撃してくるので生きては帰れないが…、C値とデスペナをトレードすると考えれば全くの無駄とも言い切れない。
「まぁ、1週間あるし、直前でも充分間に合うけどにゃ~」
「そうだな。今は目の前の敵に集中するとしよう。アイ、そろそろ戻ってこい」
「あっ、着いたようですね」
最近、アイの病気が重傷な気がする。考え事をしていても手は動くので問題は無いが…、アイも思春期の少女。もしかしたら恋の悩みとかを抱えているのだろうか? もしそうだとしたら、兄として、保護者として、複雑な心境だ。
「エリア移動するから注意しろよ。サブウエポンも今のうちに入れ替えておけ」
「はい」
「うぃ~」
訪れたのは"兵舎エリア"。つまり兵士系のゾンビやリビングアーマーなどの物理面のステータスが高い魔物が出現するエリアだ。
オープンワールドと言っても魔物の湧きエリアは明確に分かれており、その境目は(優先順位は低いものの)魔物が溜まらないように設定されている。しかし、稀に悪意あるPCが作為的なモンスターハウスを設置している時もあるので油断はできない。
「お、早速リビングアーマーだ。お出迎えしてもらって悪いな」
さっそく現れたのは動く鎧のリビングアーマー。攻撃力と防御力が高く、囲まれると厄介な相手なので1体ずつ確実に処理していく必要がある。
「下級の2Hタイプ(ツーハンド、両手武器を装備した個体)みたいにゃ。どうするにゃ?」
「プラン"H"で」
「はい」
「うぃ~」
じつはプランHなど存在しないのだが、ノリだけで察してくれたようだ。
俺はリビングアーマーと正面から対峙して、アイは後方サポートとして緊急時のリカバーや回復を担当する。ニャン子は周囲を警戒して邪魔が入らないようにタゲをコントロールする。これが物理特化の重量級を相手にする時の基本戦術であり、つまりプラン
「ふっ! はっ!!」
息を吐きながら大ぶりな攻撃を回避して、返しに[モールエッジ]で確実にダメージを刻んでいく。相手の攻撃は即死級なのに対して、こちらは1割削れればいいほう。綱渡りな攻防を繰り広げる必要があるが…、それでも(実質)1対1なら負けはしない。誰にでも出来る戦法ではないが、しょせん相手はNPC。相手が1体なら下手に大勢で取り囲むよりタイマンの方が不確定要素に左右されないぶん戦いやすい。
「次が来たにゃ!」
「1体か! すぐに終わらせる」
「わかったにゃ!」
「いくぞ、アイ!」
「はい!!」
アイが溜めスキルを発動させたのに合わせて、相手をキルゾーンに誘導する。リビングアーマーの攻撃は重く、防御型のアイは不利なのだが、無機物に対して打撃系の重攻撃が有効なのも事実。序盤は俺が程よく削って、最後はアイにトドメをさしてもらう。
正直に言って、手間はかかるし、時間効率も悪い戦法だが…、たまにやる分にはPTで連携している感じがして独特の爽快感がある。まぁ、それでも半日続けるのはシンドイのだが…、たまにってことで頑張ることにする。
この後も、兵舎の強敵を1体ずつ、狩って狩って、狩りまくった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます