#170(4週目木曜日・午後・セイン2)

「ふっ、前回は慣れていない事もあり、後れをとったが…、今回はそうはいかないぞ!」

「L&Cの仕様も充分に理解した。ぬるま湯みたいなPKシステムでフヤけ切ったお前らに! 本当のPKを教えてやる!!」

「人数は増えたが作戦通りにいくぞ。なに、L&Cにはチーム戦は無い。むしろ有利になったくらいだ」


 なんだコイツラ…。


 実に小者っぽいセリフを吐きながらやってきたが…、せめて視界外から遠距離攻撃を仕掛けてくるくらい出来ないのか? 安全だと思っていた距離で補足されて、バツの悪さをトークで誤魔化しているようだが…、あまりに弱そうで興がそがれてしまった。


「スバル、知り合いか?」

「えっと、前に挑んできて、返り討ちにした人たち…、だと思います、たぶん」

「負けた腹いせに人数増やして再挑戦か。くっそダッサい連中だな」

「あぁ~、たぶんアイツラ、アンダーなんとかとか言うチームだな」


「アンダーワードだ! "チーム・アンダーワード"!! お前らヌルま湯PKどもに、本当のPKを教えてやるぜ!!」


「PKのやり方の前に、まずは前口上を練習したらどうだ? ザコっぽ過ぎてやる気がおきん」

「「ぷっ!!」」


 そろって、ふき出すスバルと便座カバー。対して3人は、完全に見くびられて怒りを隠しきれない様子だが…、その時点ですでに問題外。よく吠えるザコ以上の脅威は感じない。


「ざけやがって…。まぁいい、知名度が低いのは仕方のない事。すでに俺たちは何人もキルしている。これからは俺たちUWの時代だ!」


「ユーダブリューって、語呂悪くないか?」

「ですね、言いにくいです」

「どうせすぐに居なくなるだろうし、呼び方はアンダーとかでいいだろ?」

「だな、じゃあアンダーで」

「はい、アンダーにしましょう」


 とりあえず3人で相談した結果、チーム・アンダーワードUWの略称は"アンダー"に決定した。


「ふざけんな! 勝手に名前を変えるんじゃねぇ!!」

「よそ者だと思って舐めやがって! "BO"プレイヤーを舐めていると、痛い目を見るぞ!!」


「BOって何だっけ?」

「アレだよ、10万ゲー」

「あぁ~、10万ゲーか!」

「師匠、なんですか? その10万って」


 BOとは、6時代に流行った本格サバイバルアクションゲーム、"ブレイクアウト"の略だ。サービス開始当初はそれなりに話題になったが、半年しないうちに既存プレイヤーと新規プレイヤーの格差が深刻化して、7世代に対応することなくサービスが終了した。まぁ、よくあるオンライン対戦ゲームの1つだ。


 BOは、主流のアイテム課金制ゲームではあったものの、洋ゲーによくある課金スタイルを採用しており、スキンなどの強さに影響しない要素や、経験値ブーストなどのカンストしてしまえば無課金と同一条件で戦える要素に限定されていたので、当時はL&Cと同じく「お金のかからないゲーム」として動画投稿界隈で話題になった。制作陣も、相当なゲーマー揃いで、地道な頑張りを積み重ねたプレイヤースキルの高い者が安定して勝利するゲームだった。しかし、アイテム課金ゲームである以上、一握りのベテランユーザーが単純に有利で、新人は一方的に狩られるだけのカモでは、ゲームとして盛り上がらないし利益も確保できない。


 その後は、過疎化がどんどん進み、カモれる相手がいなくなったベテランがお互いに潰し合いながら徐々に引退していく流れとなった。そして…、サービス終了が目前に迫る状況で、ついに運営が折れて新規でもベテラン勢と同一条件で戦えるようになる課金パックを販売するようになった。


 課金パック自体は、あくまで「一時的に同一条件になる」と言うだけで、基本的には慣れているベテランが有利であり、課金パックは好評だった。しかし、それは他のアイテム課金ゲームのように「課金している者が強い」ゲームになっただけ。ただの雑多な課金ゲーになったBOは、かつてのゲームへの情熱やゲームバランスへの配慮を無くし、ゲームをダシに課金パックを販売する、ただの業者となった。最終的には10万の高額課金パックまで出てくる始末だ。パック自体は非常にお買い得な内容だったが、買える者と買えない者の格差は広がり、結局10万を払える者しか楽しめないゲームとなった。それ以降、BOは皮肉を込めて10万ゲーと呼ばれ、各種掲示板でネタとして散々にバカにされた。


「BOをバカにするのは止めろ!!」

「そうだ! BOはガチャで射幸心を煽るギャンブルまがいのゲームとは違う! ベースはあくまで純粋に対人戦を楽しむゲームなんだ!!」


 必死にBOを擁護するアンダーの3人。実に哀れな光景であり、同じ硬派ゲープレイヤーとして切ない気持ちになる。


「あぁ~、わかったわかった。別にBOのことを悪く言うつもりはない。それで、やるんだろ? さっさとかかってこいよ」


 やはりこう言うのは実力でねじ伏せるのが1番だ。どうせ相手は、はじめから戦うつもりで来ているのだから戦闘の回避は困難。それなら、精神的な主導権だけでも握っておくほうが有利だ。


 正直なところ、あまり便座カバーに手の内を見せたくないが…、それは便座カバーも同じ。ブラウスは戦いから逃げたが、便座カバーがどういった選択をとるのかは見ものだ。


「いいだろう、コッチも充分にレベルと装備、そして攻略情報を調べてきた。もう、俺たちに負ける要素は…、ない!」


 似たようなクダリをくり返す連中でウンザリだが、やっと勝負がはじまるようだ。


「ところで、アンダーの皆さん」

「「「?」」」

「名前を聞いてもいいか?」


 チッ! 面倒なことになった。便座カバーの野郎、使えるようならEDにスカウトするつもりのようだ。戦うでも逃げるでもなく、第3の選択肢を出してきた。しかし、スカウトするなら、なおのこと実力を確かめる必要があるだろう。


「「「 ………。」」」

「いいだろう、俺の名前は"パイブレッド"だ」

「俺は"マロンスクワー"」

「俺は"ビックティッツ"だ!」


 チーム名の時点で嫌な予感はしていたが、やはりソッチ系の名前だった。何やらスバルが、こっそり名前の意味を検索しているようだが、不健全なサイトが出てくるだけなので…、反応がちょっと楽しみだ。


「なるほどなるほど。因みに俺は便座カバー。一応、大手PKギルドに所属している。それで提案なんだが…」

「「「??」」」

「よければキミたちの活動をバックアップしたい」

「なに!?」

「もちろん条件がある。それは…」


「それは、俺を敵にまわすって意味でいいのか?」


「あくまで余興ですよ、セインさん。そんなにマジにならないで」


 便座カバーは敵にまわった。本人は"御ふざけ"を強調しているが「仲間になる見込みがないなら潰してしまえ」と言う意思がすすけて見える。とりあえず俺たちとアンダーを戦わせて、強い方の味方になる算段だろう。


「お前、ブラウス以上に食えないヤツだな。言っておくが、どれだけ取り繕っても俺の中での評価は変わらない。精々、覚悟を持って言葉を発するんだな」


「おぉ~、怖い怖い。アンダーの皆さん、この2人に勝てたら、我々EDは貴方方の活動を全面的にバックアップします」

「なるほど、敵の敵は味方ってことか」

「どうする? 悪い話じゃなさそうだけど」

「受けてもいいんじゃないか? どうせスバルそいつは倒すつもりだったんだし」

「そうだな。よし、その申し出を受けよう」


 挑発したのが裏目に出てしまった。最善策は、恥を忍んで逃げる選択だが、どうしたものか…。




 こうして、EDメンバーの便座カバーに見られながら、イキったPKと戦うことになった。

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