人工温泉 2
僕らは古くさい銭湯へとたどり着いた。
入り口ののれんをくぐると下駄箱が並んでいる。適当な場所に靴を放り込み、木の札の鍵を取ると、中へと進む。
中に入ると番台があり、そこにロボットが座っていた。
「いらっしゃいマセ『
先頭を進んでいたヤン太から、順番に受付をしていく。
高校生は350円、大人は450円と、非常にお手軽なお値段だった。
会計の終わった僕たちは『カスタム温泉』のクーポン券を渡す。
すると、いつでも使用したい時に、従業員のロボットに声を掛けてくれと言われた。
ちなみに、姉ちゃんオススメの『カスタム温泉』の通常価格は250円。
今回はクーポン券があるから無料で試せるが、この値段だったら僕ら高校生でも気軽に使えそうだ。
番台を通り過ぎて中に入ると、銭湯の中は思った以上に改装がされていた。
男湯と女湯を
脱衣所は、背の低いロッカーが並べられていて、いくつか大きなカゴが置いて有る。古いドラマなどで見た、昭和時代の銭湯といった感じだ。
ほとんどが昔のままの古い施設だったが、改装されている点もある。電話ボックスくらいの、着替え用の個別がいくつも設置されていて、プライバシーの維持が保たれている。これなら女性と元男性が混ざっても、あまり恥ずかしくないだろう。
僕らは、さっそくこの個室に入ると、水着へと着替えた。そしてタオルをもって、浴室の方へと進む。
水着なのにタオルを持っていると、ちょっと違和感を覚える。
タオル片手に浴室へと入ろうとすると、ロボットの従業員に止められた。
「お客サマ。タオルは要りません。『
タオルが不必要と言われて、ジミ子が反論する
「お風呂に入っている時は確かにタオルは要らないけど、体を洗ったり、お風呂から上がって、更衣室に移動する時はどうするの? タオルが必要じゃない?」
「体を洗う時には、無料の洗浄用のスポンジをお使い下サイ。体を乾かす時には『
そういってロボットは二つの装置を指さす。
一つ目は、洗浄用のスポンジの配布装置。自販機のような形で、ボタンを押せばスポンジが出てくる装置らしい。この装置の横には、使用済みのスポンジの回収ボックスが置いてある。体を洗うタオルが使い回しでは気持ちが悪いので、これなら安心だ。
二つ目は『脱水乾燥室』と呼ばれた、ガラス張りの小さな個室。
この小部屋は、見たことがある。飛行船に乗ったとき、大浴場に備え付けられていた物と同じだ。
部屋に入ると、四方から乾いた風が吹き付けて、あっという間に乾かしてくれる、洗面所にあるハンドドライヤーの大型判のような装置だ。
確かにこれならタオルが要らない。
入浴中のタオルは邪魔になるので、この気配りは意外と良いかもしれない。
僕たちは手に持ったタオルをロッカーに戻すと、再び浴室へと向う。
カラカラという音を立て、
浴室に入ると脱衣所と同じく男湯と女湯の壁が無く、ここもとても広く感じた。
そして、従来の銭湯とは大きく違う点がいくつかあった。
今まであった浴槽は、そのまま使って居るみたいだが、洗い場の蛇口とシャワーの大半が撤去されている。
銭湯の洗い場は、浴室の大半の7割ほどを占めているが、ほんの少しだけ残されているだけで、新しい施設に作り替えられていた。
壁際には、ドアの付いた個室のシャワーコーナーがいくつも設置されている。
水着のままだと体を洗えないので、脱いで洗えるような、こういった個室が必要になるのだろう。
このシャワーの個室は、設置された理由が分るのだが、もう一つの設備が異様な光景を生み出していた。
もう一つの設備とは、家庭用サイズのバスタブが、なぜかズラッと並んで置いて有る。その数は20個以上。
従来の浴槽が使える状態で、なんでこんなに同じものを追加するのか、意味が全く分らない。
ミサキが、このバスタブについて、ロボットの従業員に聞く。
「この多量のバスタブって何です? 自由に使って良いんですか?」
「ココに並んで居るバスタブは、個人専用のバスタブになっていマス。お客サマ、一人につき一個が割り当てらる仕様デス。ご使用になられますか?」
「あっ、はい。じゃあ使います」
ミサキが返事をすると、ロボットが腕に巻くタグを配ってくれる。
タグには『A』とか『B』とかのアルファベットが振ってあり、家庭用サイズのバスタブの方にも、同じ様なアルファベットが表示されていた。僕のタグは『C』となっていて、これが僕専用のお風呂のようだ。
「なんで個別のバスタブを設置したんです?」
僕がロボットに聞くと、こう答える。
「銭湯の改善アンケートで、『他人と同じ湯船は気持ち悪い』という意見がありまシタ。ソコデ、バスタブを別々にしまシタ。他にも、個別のオーダーの『カスタム温泉』の入浴剤は、コチラのバスタブに入れさせてもらいマス。個人専用に対応するためデス」
なるほど、オーダーメイドの入浴剤に対応する為に、わざわざ個人用のお風呂を設置しているのか。
僕が感心していると、キングがロボットに新たな質問をする。
「あそこにある、従来の浴槽は共同だよな?」
「ハイ。ご自由にお使い下サイ。タイプの違う入浴剤を入れてありマス」
「施設がだいたい分ったから、まずは体を洗おうか」
ヤン太に言われて、僕たちはシャワーの個室に入り、体を洗った。
体を洗い終えると、僕たちは共同で使える風呂に向う。
風呂はいくつか仕切られていて、それぞれ中身が違うらしい。『美肌の湯』『
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