植物園レポート 4

 植物園への扉が並んでいる場所で、こんな物を見つけた。

『銀色の月 宇宙植物館へようこそ【足元の重力に注意して下さい!】』

 どうやらここには宇宙植物が見られる施設があるらしい。


「マジかよ、行ってみようぜ!」


 ヤン太がモノリスを触れようとすると、表面が波打つ様に光った。

 そしてヤン太は吸い込まれるように中に消えていく。僕らもその後に続く。



 モノリスの中に入ると、金属でできた廊下に僕たちは移動してきた。


 通路の幅は、おそよ3メートル。天井までの高さも、およそ3メートル。

 いたって普通の廊下に見えるが、重力が異様に低い。おそらく月と同じく6分の1に設定されているのだろう。歩きにくい廊下を、僕たちは跳ねるように移動する。



 移動をはじめて、直ぐに分厚いガラスで仕切られた、展示室が現われる。

 その展示室の横には、こんな説明書きがされていた。


『惑星Proximaプロキシマ bの植物、地球からの距離4.2光年、重力1.28G』


 説明書きを見て、キングが言う。


「この間やった宇宙人のゲーム、『大航宇宙時代だいこううちゅうじだい』にも出て来た惑星だな」


「たしか植物が進化していなくて、木材が高く売れる惑星だよね」


 僕が言うと、ジミ子がいち早くガラスの中を覗き込んで、こう言った。


「本当にろくな植物が無いみたい。ちょっと見て」



 展示室の作りはとても無機質で、セキュリティの行き届いた、研究所の一室といった様子だ。

 その部屋の中には二つの展示物があった。


 一つ目は、丸い大きなフラスコの様な容器。この中には水が入っていて、その水は緑色に濁っていた。

 展示物の横にある説明書きによると、の一種が入って居るらしい。


 二つ目は、こけのような植物だ。大きなガラスの容器の中の、黒っぽい大地に覆い被さるように生えている。

 苔の厚さは、およそ2~3ミリほど。他の惑星の苔なので非常に珍しいのだろうが、僕には、そこら辺に生えている地球の物と、見分けが全くつかない。


「うーん、貴重な物かもしれないけど、これはちょっとね……」


 僕が微妙な空気で言うと、みんなも察してくれる。


「見るところ無いな」


「先に進みましょうか」


 ヤン太とミサキが見切りをつけ、僕たちは次の惑星へと移る。



 次の部屋には、こんな説明が書かれていた。


『惑星Rossロス 128 bの植物、地球からの距離11光年、重力1.12G』


 この惑星もあのゲームに出て来た。ジミ子がこの説明をチラリと読んで、吐き捨てるように言う。


「詐欺と犯罪の惑星ね。いったいどんな植物があるのかしら」


 ゲームで痛い目にあった、この惑星の事を、ジミ子はあまり良く思っていないらしい。



 今度の展示室には、まともな植物があった。


 カボチャのような、地面を這うような植物と、サボテンに尖った葉っぱを突き刺した、緑色のパイナップルのような植物が展示されていた。


「あれって食べられるのかしら?」


 ミサキがパイナップルのようなサボテンを指さして言う。


 ジミ子は、この植物のすぐ脇の説明を読み上げながら答える。


「『現地では食用にされているが、地球人にとっては、お腹を壊すくらいの軽い毒性がある』ですって」


「お腹を壊すくらいなら、食べても良いかもね。どんな味か気になるし」


「……本気で言ってるの?」


 ジミ子がジト目でミサキをにらむと、さすがにミサキも空気を読み取る。


「冗談よ、冗談。本気にしないで」


 どう考えても本気だったが、僕は気にせず先を進む事にした。



 この後、いくつもの惑星の植物を見るのだが、どれも地味なものだった。

 シダのような植物、稲のような植物、サトイモのような植物。全て見たことのあるような植物ばかりだ。

 もっと変わった物を期待していた僕らは、肩すかしを食らったように、ガッカリした。


「うーん、なんかつまらないな。花とかも咲いてないし、ただの草ばかりだ」


「そうだぜ、ゲームのファイナリーファンタジーに出てくるような、モノボルみたいなモンスターを期待したのに……」


 ヤン太とキングが愚痴を言う。僕もその話に合わせる。


「ファイナリーファンタジーだったら、走るサボテンの、サボテソダーみたいなキャラでも良いかもね」


「そう。そういった物を期待していたのに、普通の植物だけしか展示されていない!」


 ヤン太が力説りきせつをする。かなり無茶な事を言っているのは分るが、僕らはそのレベルのファンタジーな植物を期待していた。



 不満を持ちながら、この宇宙植物の展示場を回っていると、こんな説明書きを見つけた。


『宝石草。夏になると大変、美しい花を咲かせます。この花は非常に希少で、宝石のような価値があります』


 ミサキが目を輝かせながら言う。


「これ、良いんじゃない? 今は花を咲かせてないけど、また咲く頃に見にきましょうよ」


「そうだね、夏か…… あれ? 今って夏じゃない? もしかして……」


 僕が念のため、惑星のデーターを確認した。すると、そこにはこんな絶望的なデーターが載っていた。


「多分、見る事はできないかも。この植物のある惑星の公転周期は743年だってさ……」


「それってどういう事?」


 僕が言ったがミサキは意味が分らないようだ。するとキングが分りやすく解説をする。


「この惑星の1年は、俺たちの星だと743年もかかるって事さ。つまり743年に一度しか咲かない花なんだよ」


「……そんなの見られないじゃない」


 ようやくミサキが状況を把握する。

 この後も館内を見て回るが、見ごたえのあるような植物は一つも無かった。



 全てを見終わり、宇宙植物館から出ると、ヤン太はこう言った


「もう一度、4月の季節の館に行って、桜でも見て帰るか?」


「賛成」「そうね」「そうだね」「そうしましょう」


 最後に桜を見直して、僕らは植物園を後にした。



 後日、僕らはみんなの書いたレポートを姉ちゃんに渡す。


 レポートを渡す時に、姉ちゃんは僕に意見を聞いてきた。


「弟ちゃん、植物園はどうだった?」


「うーん。季節をずらした施設は面白かったけど、真冬の季節は寒すぎて、ゆっくりと見てられなかったよ」


「そっか。寒すぎたのか。そうなると温度調整ができる服が必要ね」


 ここで僕はある服の存在を思い出した。


「姉ちゃん、そういえば農業用に開発した、宇宙服のようなパワードスーツって温度調整が出来たよね?」


「ええ、できるわよ。温度だけじゃなく、重力だって自由に変えられるわ」


「アレを貸し出したらどう? 子供だとあの服を着てるだけで楽しめると思うよ?」


「そうかしら。まあ、農家に配ろうとしていたから、かなり在庫はあるのよね。分ったわ、試しに貸し出してみましょう」


 これで温度調整の問題は解決しそうだ。

 僕はもう一つの問題点を言ってみる。



「そういえば姉ちゃん。宇宙植物館って、何も見るところが無かったんだけど、どうにかならないの?」


「あっ、やっぱり地味すぎた? そうよね、植物って、大きく二つのタイプがあるの」


 そう言いながら、姉ちゃんは仕事で使うタブレットを取り出して来て、画面を見せながら説明をする。


「一つ目は『原種げんしゅ』と呼ばれる、野生の植物ね。そこら辺に生えているような種類で、とても地味なヤツ。二つ目は『改良種かいりょうしゅ』と言って、知的生命体の手が加わった植物ね。コチラはとんでもなく変な種類とかあるのよ」


「僕は改良種の方が見てみたいな」


「そうよね、どうせ見るなら変わった物の方が良いし…… 分ったわ、チーフ宇宙人に相談して、新たに取り寄せて貰うわね」


 こうして更なる改善が加わった。おそらくこれで人気ひとけの無い植物園に客が呼び込めるだろう。



 後日、プレアデスグループの植物園は、とても賑わう。


 目玉の一つは、温度と重力の調整できるパワードスーツの貸し出しだ。

 過酷な気温でも快適にすごせるし、低重力で歩いているだけでも楽しい。

 飛行機能を使って、桜の木々の間を、ドローンのように飛び回る事もできる。


 もう一つ、話題になったのは、宇宙植物館についてだ。

 姉ちゃんの取り寄せた観賞用の植物が、どれも規格外だった。


 装飾したクリスマスツリーのような、派手な配色の木。

 自前の浮き袋を持ち、空中をふわふわと漂う、エアプランツ。

 ある程度の知能を持ち、音楽に合わせて踊る花。


 いずれも話題になり、植物園の開園以来、最高の来客数を記録した。

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